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チャイルディッシュ・ガンビーノ、自身の歌唱と妖しくドープなサウンドで新時代のファンク提示した新作『Awaken, My Love!』

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  • 2017.01.31
チャイルディッシュ・ガンビーノ、自身の歌唱と妖しくドープなサウンドで新時代のファンク提示した新作『Awaken, My Love!』

 自分の名前を入れるとウータン・クラン風のあだ名を付けてくれるというサイト〈Wu Tang Name Generator〉が数年前に流行したのをご存知だろうか。83年生まれのドナルド・グローヴァー青年は、このプログラムから大胆にもラッパー・ネームを採用(それ以前にもシック・ボーイという名義があったのだが……)。その名こそ、チャイルディッシュ・ガンビーノだ。2011年にファースト・アルバム『Camp』を発表した彼は、スクールボーイQチャンス・ザ・ラッパー、さらにベックらを迎えた翌年のミックステープ『Royalty』でラッパーとしての知名度を強固なものに。そして、2013年のセカンド・アルバム『Because The Internet』はグラミー賞で2部門にノミネートされている。

 こう書くと、ラッパーの成功までの道程としてはありがちに思われるかもしれない。ただ、この男の才能はそれだけに留まるものではない。名門コメディー・チャンネルのComedy Centralで冠番組を任されたり、NBC局のシットコム「コミ・カレ!!」にレギュラー出演するなど、コメディアンや脚本家として第一線で活躍している人物なのだ。最近では映画「オデッセイ」への出演も果たしており、ハリウッド・シーンに詳しい方であればMC名ではなく、ドナルド・グローヴァーという本名のほうに馴染みがあるのではないか。2016年に入ってからもフォックス・エンターテイメント傘下のFX局で放送されたドラマ「Atlanta」での好演が話題を呼んだばかりである。

CHILDISH GAMBINO Awaken, My Love! Glassnote/HOSTESS(2017)

 そんなガンビーノの約3年ぶりとなる公式アルバム『Awaken, My Love!』は、ジャケットからして妖しいファンクの香りが漂う会心の出来となった。緻密な脚本を元に構成された前作や、アトランタ流儀のヒップホップ・サウンドとスムースなR&Bポップを組み合わせた『STN MTN』~『Kauai』(2014年)あたりから彼のファンになったリスナーは戸惑いを覚えるかもしれない。10年以上の付き合いとなるラドウィグ・ゴランソンとの共同プロデュースにより、これまでとは異なる革新的なサウンドを繰り広げている。オープニングの“Me And Your Mama”ではコズミックなイントロと酩酊感溢れるシンセ音の前半部分を経て、ゴスペル風の重厚なコーラスとシャウト混じりのヴォーカルが引っ掻き回すように入り乱れ、“Redbone”では永遠の定番ネタとして愛されるアイザック・ヘイズ“The Look Of Love”とブーツィーズ・ラバー・バンド“I'd Rather Be With You”を贅沢にサンプリング。ゲイリー・クラークJrのギターが光るインストゥルメンタル“The Night Me And Your Mama Met”ほか、どの曲からもドラスティックに新たな表現を試みた様子が聴いて取れる。

 これまでのガンビーノと言えば、コメディアンらしい機知に富んだパンチラインと、時に難解でもあるリリックがラッパーとしての大きな武器であった。にもかかわらず、今作では自身の歌唱と、変幻自在かつドープなファンク・サウンドにすべてを委ねている。本国ではこの『Awaken, My Love!』の衝撃をスライプリンス、そしてディアンジェロらの名を引き合いに出して紹介しているレヴュー・サイトも少なくない。まさかガンビーノがこんなかたちで現在進行形のファンクを提示するとは。彼のクリエイティヴィティーには、ただただ平伏すしかない。

 


チャイルディッシュ・ガンビーノ
本名ドナルド・グローヴァー。83年生まれ、カリフォルニア出身の俳優/コメディアン/脚本家/ラッパー。大学在学中より本名で俳優として活動する傍ら、ラッパーとしては2008年の『Sick Boi』を皮切りにコンスタントにミックステープを発表していく。2011年にファースト・アルバム『Camp』をリリース。2012年のミックステープ『Royalty』が各方面から高評価を受け、翌年のアルバム『Because The Internet』は全米7位を記録、グラミー賞にもノミネートされる。以降はセラー・スーアリアナ・グランデライオン・ベイブらの作品に客演。2016年12月にサード・アルバム『Awaken, My Love!』(Glassnote/HOSTESS)を発表し、2017年1月11日にその日本盤がリリースされた。