随所にオリエンタルな意匠が施された新作のモチーフは〈仏教〉。どうせならハッピーにいこうか? ――肩肘張らずに探究を続けてきた2人の、ブレのない10年がここに

 「昔は、発信したいメッセージとか、伝えていきたいものは〈特にない〉って言ってたんですよ。〈ない〉というよりは説明できなくて。それは活動を重ねていくことで芽生えてきたんですけど、でも、自分のなかにあるこの思想みたいなものって、人間の長い歴史を辿っていくと、誰かがもう言葉にしてたり、哲学として決着をつけているんじゃないかと思って調べてみたんです。そしたら、これって〈仏教じゃね?〉って」(maya、ヴォーカル)。

LM.C VEDA CJビクター(2016)

 今年、活動10周年を迎えたLM.Cが、2年ぶりのフル・アルバム『VEDA』をリリースした。冒頭の発言通り、〈仏教〉をモチーフにした本作は、シャーマニックな女声を配したイントロから激しいバンド・サウンドに雪崩れ込む“The BUDDHA”に始まり、感傷的なEDM調の“Avocado”や、ホーン・セクションを交えて同名映画を想起させる音世界を築いた“Fight Club”、ブルージーなギターが意外性抜群な“Kiss me?”など、全10曲が収録されている。

 「作品トータルでというより、わりと1曲完結でサウンドメイクするのは10年前も今も変わらないところではあるんですけど、ただ、今回はちょっとオリエンタルなムードが欲しかったので、ドラムもいつもならシンバルのところを鈴みたいな音にしたり、“Avocado”ならリヴァーブの響きで宗教的なものを感じさせたり。そういう部分で実験していた感じはありましたね」(Aiji、ギター)。

 「“Kiss me?”は〈なんちゃって感〉というか、〈こういうの聴いたことあるな〉ってところから作りはじめていて。そこは今回の仏教もそうだけど、そこまで掘り下げていないからこそ扱えると思うんですよ。ちゃんとテーマにしようと思ったら、収集つかなくなってきちゃうと思うんで」(maya)。

“阿修羅”や“CHAKURA”といった曲名はもちろん、歌詞にも仏教用語を「どうせなら1曲に対して、少なくともワンフレーズは入れるという縛り」が設けられた本作。ちなみにアルバム・タイトルの『VEDA』とは、〈知識〉という意味も持つ、紀元前にインドで編纂された宗教文書の総称だが、この10曲からは、多様なサウンドと共に〈生きろ〉というメッセージが伝わってくる。

 「〈生きろ〉と捉えてもらっても正解です。ただ、『VEDA』というタイトルでこの10曲が並ぶとちょっと重い印象になるけど、感覚としてはもうちょっとライトですね。〈僕らはいつか消えてなくなってしまうけど、じゃあどうしようか。でもまぁ、生きちゃってるんだから、どうせならハッピーにいこうか?〉ぐらいの感じ。そういう提案というか、〈こうしたらいいのかもね〉っていう10曲が並んでいる気がします」(maya)。

 そんな彼ららしいメッセージのみならず、ヴァラエティーに富んだ曲調も、肩肘を張らず、けれど音楽的な実験や探究心を沸き立たせながら活動を続けてきた2人の10年間を物語っているかのよう。『VEDA』の制作にあたり、アニヴァーサリーであることについてはそう強く意識していなかったそうだが、今作は、この10年があったからこそ生まれた作品と言っていいだろう。

 「昔と何か変わったかな?と思っていたけど、楽曲の掘り下げ方は貪欲になりましたね。昔は、〈LM.Cにはこういう曲もあるよ〉って、自分たちをブランディングしていくことを考えながら装飾の音をあれこれ入れていたけど、意識がより楽曲の核へ向かっていったというか。そこは、去年スタジオを作って、ずっと楽曲と向き合える環境が出来たっていうのも影響があるのかもしれないです」(Aiji)。

 「経験が少ないこともあったと思うんですけど、前は、アルバムが出来ると〈よっしゃ出来た! しばらくギターは触りたくない!〉みたいになってたんですよ。でも今回は、完成したときの感慨はあったけど、わりと落ち着いていたし、この先のことも閃いたりしていて。曲のタイトルとか、雰囲気レヴェルの話ですけどね。その方向でいくのかどうかはわからないけど、気持ちが先に進めていることはハッピーだし、ラッキーだなと思います」(maya)。