全世界待望! オリジナルスコアが織りなす冨田勲と手塚治虫の音楽絵巻

 これは世界が待ち望んだ音楽集だ。幾度となく企画されていたにも関わらず、発売が叶わなかった冨田勲の素晴らしい仕事。それは60年代を輝かせた手塚治虫アニメーション作品に付された劇伴音楽集。作曲者本人による交響詩化や部分的なサウンドトラックは発売された事があったがオリジナルスコアの劇伴が一堂に会することは未だかつてなかった。冨田勲ファンにとっても、あの時代のアニメに心踊らされた諸兄にとっても嬉しい企画がついに陽の目を見ることとなる。

冨田勲 冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集 Columbia(2016)

 「ジャングル大帝」「リボンの騎士」などの主要作品はもちろん別テイクも含む貴重な音源が、5枚のBlu-spec CD2で構成された大容量・高品質の豪華仕様。1966年の実験アニメーション「展覧会の絵」まで網羅されているのだから豪華極まりないことが容易に窺い知れよう。〈Disc1:ジャングル大帝〉〈Disc2:リボンの騎士〉〈Disc3:どろろ〉〈Disc4:千夜一夜物語〉〈Disc5:ビッグX and other collections of Tomita × Tezuka works〉という構成になっている。オケによって演奏されるインスト曲のみではなく、主題歌・挿入歌も収録されアニメ作品自体も鮮やかに蘇ってくる。また97ページにわたるブックレットも付随されているのも豪華たる所以だろう。歌詞やアニメ作品データはもちろん、丁寧な楽曲解説や書き下ろしエッセイもあり読み応えがある。音楽と共に手塚作品を味わう絶好の逸品だ。

 惜しくも2016年5月にこの世を去った冨田勲。晩年もボーカロイド:初音ミクを取り上げ、死の間際まで新作「ドクター・コッペリウス」を創作し、未来への探究心を失うことはなかった彼は偉大な作曲家だ。その彼が当時探究した音と、手塚治虫のキャラクターたちが合わさり紡がれる音楽集。その様はまさに小“宇宙”ではないだろうか。