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全員が本気で取り組んだ

 「ファイフと俺とで、2つのことについてかなり長い間話し合ったんだ。一つはジャロビのこと。もう一つは、いかにしてATCQらしさを保ちつつも、そこだけに囚われずに一歩先を見ようとするか、ってことだった。わかるか? ビートに関してファイフはいつも判断が素早かったんだ。親指を上げたり下げたり、それだけなんだけど、あいつの判断はいつもバッチリ正しいんだよ。だから俺とファイフはよく〈いままでの在り方はキープしつつ、前に進まなきゃダメだよな〉って話してたんだ」(Q・ティップ)。

 音の傾向もラップのトレンドも常に変化を続けているシーンに対し、ATCQが具体的にはアルバム作りに落とし込んだ考えは、ティップによるとこうだ。

 「プロダクション的には、俺はDJでもあるし、自分や自分の右腕みたいな存在のエンジニアとか、皆が好きな曲とか、いま流行ってる曲を聴いたりして、いろいろ可能性を探ってみたんだ。クイーンの“Bohemian Rhapsody”を聴いた後にケンドリック・ラマーの“Money Trees”を聴いて、次にラキムを聴いたりとか。いろんな違ったタイプの音楽を聴いてオタクみたいに分析するんじゃなくて、それらの音楽的な共通項を探そうとする、音楽のエクササイズみたいなモンさ。そういうアプローチを試してみたり、ファイフがいた時は2つのトラックを聴き比べたりしながら、さっき言ったみたいなことを相談したりしていた」(Q・ティップ)。

 アルバムには身内のバスタ・ライムズやコンシークエンスを筆頭に、アンドレ3000やカニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマーらVIPたちが敬意を抱いて馳せ参じている。エルトン・ジョンの登場やBIGYUKIら演奏陣の名前もトピックだろう。が、そうしたセレモニー感以上に、グループの本質的なものがこのアルバムにはある。

 「ファイフが〈今頃死んでるかムショで終身刑を言い渡されてるか/システムの餌食になった馬鹿がまたひとり/スポフォード(拘置所)に入れられた荒くれ者のフーリガン/スタンフォードやハーヴァードで学位を取ることもなく/俺の労働倫理や喋り方に脅威を感じてるのか/精神的弱者でいるのか、それともキングでいるのか?〉(新作中の“Whateva Will Be”冒頭のファイフのリリックの引用)ってライムした時、そこで時が止まった。〈OK、これだ! これぞ名ライム!〉って。このアルバムのレコーディングの雰囲気はいつもあそこが原点だったな。俺たちが皆スタジオに集まってた時にマネージャーが入ってきて、ファイフとジャロビがライムしてるのを聴いたらすぐに俺をスタジオの外に呼び出してさ……彼女いわく〈アンタがどういうつもりか知らないけど、2人に完全に先を越されてるわ。そんな余計なラジオ・シットみたいなことやってないで、早くアンタらしいシットをやりなさいよ〉って。だから競争っていうよりはお互いを高め合う感じの雰囲気だったよな。年齢のこととか、いまのシーンで俺たちがどこにいるのか、みたいな問いは二の次だった。俺たちの誰もが本気で取り組んだんだ。そこだけに集中してた。またガキだったあの頃に戻ったんだよ」(Q・ティップ)。

 

『We Got It From Here... Thank You 4 Your Service』に参加したファミリーたちの作品。

 

現在は廃盤で入手困難なメンバーのソロ作。

 

『We Got It From Here... Thank You 4 Your Service』に参加したアーティストの作品を一部紹介。