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最高を更新し続けているバンドに憧れる

――今回はHelsinki Lambda Clubからのラヴコールにおとぎ話が応える形で、1月22日に大阪で2組の対バンが決定したわけですが、橋本さんが対バンを決める際に意識することは?

橋本「やるからには来てくれた人に楽しんでもらいたいので、まずは単純に自分がおもしろいと思える人たちを呼ぶし、その場所でどういうメンツだと良いライヴになるかも考えます。おとぎ話は僕らが結成した当初から対バンしてもらいたいと思っていたバンドで、これまでも何度かオファーはしていたんですよ」

有馬「そうそう。でもタイミングが合わなかったんだよね。そういういろんな折り合いがついたのが今回のタイミングだった」

――ライヴのときに意識することは?

橋本「僕の場合は、ライヴ中に我を忘れる瞬間がやってくるといちばん手応えを感じますね。でもライヴってやっぱりコミュニケーションだと思うんですよ。曲を作るときは自分に向けて作るんですけど、ライヴでは目の前にいる人へ届けたい。そういう気持ちが、最近やっと出てくるようになりました」

Helsinki Lambda Clubの2015年のライヴ映像
 

有馬「俺らの場合は、〈他のバンドとは違うな〉と思って帰ってくれたらいい、というだけかな。いまは昔よりもすごく冷静になってきてるね。おとぎ話がバンドを始めた頃は周りにも無軌道なバンドが多くて、自分たちも演奏中にフロアへ降りたりしていたけど、felicityから作品を出すようになったこの3年ぐらいで、どう考えてもそういうライヴは自分たちの器じゃないことがわかってきた。いまは良い意味でお客さんが求めていることもわかるようになったし、昔よりはお客さんに寄り添った感じはあるかもしれない」

おとぎ話の2013年のライヴ映像
 

橋本「僕はまだそこを模索しているところですね」

有馬「いまの時点ではわからなくていいよ(笑)。これは30代以降の話だと思う。でも、俺の友達で言うと忘れらんねえよとかがそうだけど、ずっとピュアな気持ちでやれる人もいるんだよね。それはそれで凄いし、おとぎ話がバック・バンドをやっているドレスコーズ志磨(遼平)ちゃんを見ていても、日常を掻き消すようなことをしていて、凄いと思わされる瞬間がある。それはやっぱり、彼らは俺らにできないことをやっていて、俺たちも彼らにはできないことをやっているからなんだと思う。いろんなバンドがいて良いんだなという感じだよね」

――おとぎ話もヘルシンキも周りに比較対象が見つからないタイプのバンドですよね。そういう意味で、理想のバンド像というとどんなアーティストを思い浮かべますか?

橋本「おとぎ話もそうだし、Analogfishくるりもそうですけど、ずっと最高を更新し続けているバンドに憧れます。好きなことを追究した結果、自分が変わっていくことを受け入れていくバンドってカッコイイと思うんですよ。あとは、音楽性で言うと昔のフジファブリックみたいに、一見ポップに聴こえるけど音楽的なルーツを理解している人たち。大衆が楽しめつつ、音楽マニアが聴いてもニヤリとできるものが凄いと思うので」

フジファブリックの2005年作『フジファブリック』収録曲“赤黄色の金木犀”
 

――おとぎ話もそうですし、『ME to ME』のプロデューサーを務めたAnalogfishの下岡さんもそうですが、ヘルシンキは憧れの人たちと実際に関われるようになってきているんですね。

橋本「本当にそうなんですよ」

有馬「俺の場合はおとぎ話を目標にしているとしか言いようがないかな。どんなものが理想像なのかわからないし、もしそれがわかったら、もう自分はバンドをやってないと思う。4人とも理解ができていないからこそ長く続いているというか。初期はピクシーズみたいになりたい、ぺイヴメントになりたいと思っていたけど、どっちのバンドもその後どうなるか分かってしまったし、ライヴに何度も行っていたゆらゆら帝国も解散してしまった。じゃあ、その先をめざすしかないんじゃないかと。でも、そういう意味では2016年のサニーデイ・サービスは良い意味で回顧主義的でありつつ更新もしていて指針になったし、やっぱり曽我部(恵一)さんはすごくカッコイイと思った」

サニーデイ・サービスの2016年作『DANCE TO YOU』収録曲“I’m a boy”

 

〈ウィーザーが本当は作らなければいけなかったアルバム〉を作ってほしい

――いまピクシーズやペイヴメントの名前が出ましたが、おとぎ話とヘルシンキはオルタナティヴな要素があるバンドですよね。その源泉はそれぞれどういう音楽だったんでしょう?

橋本「ジャンルとしてのオルタナティヴで言うと、僕はニルヴァーナから入った感じですね」

有馬「俺もニルヴァーナが最初だよ。その前の小学生の頃にはキング・クリムゾンとかを聴いていたけど……」

――それはヤバイですね(笑)。

有馬「それからニルヴァーナを聴くようになったときに、もっとわかりやすくてカッコイイ音楽があるんだと思って。いま考えると、音楽的にはキング・クリムゾンのほうがよっぽどオルタナティヴだけどね(笑)」

橋本「ハハハハ! 」

有馬「でもスマッシング・パンプキンズレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが〈オルタナティヴ〉という言葉を格好良く広めてくれたと思う」

橋本「オルタナティヴという言葉自体が、定義の難しいものですよね。僕もスマパンやペイヴメントはすごく好きなんですけど、実は同世代で話が合う人はあまりいないんですよ。僕はミスター・T・エクスペリエンスクイアーズあたりの90年代にルックアウト!から出ていたB級パンクっぽいバンドが好きなんですけど、それで会話が成立することはほとんどなかったし」

ミスター・T・エクスペリエンスの96年作『Love Is Dead』収録曲“Ba Ba Ba Ba Ba”
 

有馬「そうなんだ。ルックアウト!っぽい感じは『ME to ME』の1曲目“This is a pen.”にも出ているよね。これは聴いていて嬉しかった。ディセンデンツとかを思い出して……」

橋本「ああ、ディセンデンツは好きですね」

有馬ハスカー・ドゥみたいなSST周りのバンドを聴いても、きっとおもしろいんじゃないかな。ヘルシンキにはああいうアメリカの荒涼とした感じも似合いそうだから。一方でポップ・パンクっぽいことも似合うから、ウィーザーが本当は作らなければいけなかったアルバムを、〈ニュー・オルタナティヴ〉を掲げて作ってくれたら、聴いたことのないおもしろいものが出来そう」

ハスカー・ドゥの86年作『Candy Apple Grey』収録曲“Don't Want To Know If You Are Lonely”
 

――そもそもHelsinki Lambda Clubが〈ニュー・オルタナティヴ〉という言葉を気に入ったのも、音楽性が限定されない言葉だからですよね。

橋本「そうですね。僕らの場合、Analogfishの下岡さんが〈Helsinki Lambda Clubの音楽はニュー・オルタナティヴだ〉と名付けてくれましたけど、この言葉を良いと思った理由は、〈新しい選択肢〉という意味だからで。オルタナティヴという定義に合致する音楽って、言葉の意味を考えるともっと更新していかなきゃいけないと思うんですよ。そういう意味で打ち出したかったという気持ちはあります。でも僕の場合、シリアスなだけじゃなくてちょっと笑えるものが好きなんです。マルセル・デュシャンが便器に署名を書いて作品にした〈泉〉(71年)とか、そういうアートを感じる作品を良いなと思うことが多い」

――『ME to ME』にも正面から捉えると意味を成していない歌詞があったり、“Justin Believer”という曲があったり、“目と目”と作品タイトルの『ME to ME』がかかっていたりと、さまざまなところにユーモアが詰まっています。

橋本「そうですね。意味のあるものだけが良いものじゃないというか。自分にとっては意味がないものでも、誰かがそこに意味を付けて規模がデカイものになれば、それもアートだと思う。自分だけで完結して閉じて終わるよりも、もっと拡げたい、広がってほしいという気持ちがあるんです。シュルレアリスムの方法論に〈甘美な死骸〉というものがありますけど、そういうものに影響を受けているんだと思います」

※複数の人間が互いにどんなものを作っているのかを知らずに、自分のパートだけを作る創作方法。優美な死骸とも言われる

2015年のミニ・アルバム『olutta』収録曲“Lost in the Supermarket”
 

有馬「俺が曲を作るときは、全然考えてないんだよね。自分が好きなことをやっているだけ。だから、さっき橋本くんが言ってくれてすごく嬉しかったのが、〈何かのロールモデルがあるわけではなく、絵の具をビシャッ!とやって、それがはみ出しているみたい〉という表現。それは本当に言い得ていると思う。凄いと思った」

橋本「ありがとうございます(笑)」

有馬「でもだからこそちょっと怖いよ。こんなに若いのにわかりすぎていて大丈夫かな?って(笑)。勝手な願望としては、橋本くんが嫌いなものももっと歌ってほしいな」

橋本「おお。それは誰かにも言われた気がする」

有馬「ヘルシンキの音楽からもっと汚いものが見えたとき、わかってくれるリスナーは一生バンドのことを見てくれると思う。いまは良い意味で凄く綺麗だから、くたびれている自分の曲とかも歌ってほしいなと。“Justin Believer”も人を喰っていて凄くおもしろいし、俺は好きなんだけど、もっとゲロ吐いてるような曲も聴いてみたい」

橋本「感情をもっと出すという意味ですよね。良いアドヴァイスが聞けたな。僕はおとぎ話の『ISLAY』を聴いて、ひとつひとつの曲は壮大なことを歌っているわけではないのに、全体を通して、ジャケットにも描かれている宇宙が浮かんでくる感じが凄く好きでした」

有馬「ああ、嬉しい。ここ数年はNASAがテーマだからね。これから先、地球だけでやっていけるとは思ってないから(笑)」

2016年作『ISLAY』収録曲“セレナーデ”
 

橋本「めっちゃ先を見てますね(笑)! Helsinki Lambda Clubは、まずはもっとはみ出していきたいんで、次はもうちょっと行けるところまで行きたいです。と言いつつ、別のことをするかもしれないですけど(笑)」

有馬「一回、4人全員がユニゾンの曲を作ってみるのもいいかもよ。4人いると絶対誰かが違うことをするんだけど、一回一緒のことをやろうとしてみる、みたいな。それをリリースする必要はないと思うけど、はみ出すためのいちばんの方法は頭で考えないことだと思うから。コンピューターで管理される時代が来ても、バカな人間がバカ騒ぎをするのは管理できないと思うからね。結局は人間なんだよ」

――1月22日の対バンも本当に楽しみですね。

橋本「22日の対バンでは、おとぎのファンの人たちに〈こういう格好良さもあるんだな〉と思ってらえると嬉しいです。おとぎは圧倒的だから、がんばらないと。CHAIもいるし、カオスな現場になりそうですね」

有馬「潰し合いでしょう(笑)。(ヘルシンキが)やりづらいけどやりやすい雰囲気にできたらいいんじゃないかな。何より俺は、橋本くんに〈おとぎ話の演奏ですごく気合いが入った〉と感じてもらえるライヴにしたいね」

 

Helsinki Lambda Clubからのお知らせ
『ME to ME』Release Tour 〈From ME to YOU〉
1月22日(日)大阪・心斎橋Live House Pangea
共演:おとぎ話、CHAI
1月27日(金)東京・渋谷WWW
共演:Czecho No Republic
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おとぎ話からのお知らせ
『ISLAY』リリースツアー〈FLAVOUR OF ISLAY TOUR 2017〉
4月8日(土) 仙台FLYING SON
4月14日(金) 福岡 UTERO
4月15日(土) 広島 4.14
4月28日(金) 名古屋・今池 TOKUZO
4月30日(日) 大阪・十三 FANDANGO
5月14日(日) 東京・渋谷 CLUB QUATTRO
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