ジャンルの壁を突き破る、話題の未確認ミュージック

 9月に限定で発売されたEPは即完売するなど注目度の高さが伺えるヤイエル。2015年、ヴォーカルの池貝峻とサンプリングなどを担う篠田ミルで結成、その後シンセサイザーの杉本亘が加わる。Bandcampにて『Y』をリリースし、ライヴ活動が本格化し始めVJの山田健人とドラムの大井一彌が加わり5人体制となった。今年に入り欧州ツアーを敢行、フジロックフェスティバルにも出演を果たしている。ライヴでは敢えてVJの映像を自身達の身体に投影し、姿を不鮮明にしている。視覚的情報を減らすことでオーディエンスの意識を楽曲に強く向けさせる。この点からも彼らの楽曲に対する思いや自信の強さを感じ取ることができる。

yahyel Flesh and Blood BEAT(2016)

 1曲目《キル・ミー》では、冒頭から不穏な独特の空気を作り出すサウンドが流れ、サビでヴォーカルとシンセがユニゾンするメロディが頭に強く焼き付く。《ワンス》では、冒頭の音が左右に振られることで、催眠に落ち入るように感じたかと思うと、ふと現れる渋みのあるヴォーカルが楽曲へと強く惹きつける。彼らが結成当初に作曲した《ミッドナイト・ラン》では、誰もいない深夜の街を徘徊するような、喪失感にも似た感情が沸き立つ。そして次に流れる《ザ・フレア》ではディレイがかかったサウンドとヴォーカルに、火花が撒き散したようなハイハット音などが闇から抜け出す時に近い開放感を与えてくれる。

 ウェットなバスドラムと強い低音に、継続的に鳴り酩酊感をもたらすサンプリングやシンセ、R&Bに通ずる深みのある歌声が魅力的な作品。マスタリングはジェイムス・ブレイクエイフェックス・ツインなどを手がけるマット・コルトンポスト・ダブステップやビート・ミュージック好きは勿論、全てのリスナーに聴いていただきたい今後の音楽の指針となるようなアルバム。