ジェイソン・リンドナー

別所「次のライヴ映像は僕が選んだもので、冒頭からジェイソン・リンドナーがソロを弾いているんですけど」

松下「これもヤバイよね!」

――ジェイソンが弾いている最初の数分は、ほとんどエレクトロニック・ミュージックですね。それもかなり先鋭的な(笑)。

別所「派手なテクニックを見せつけるタイプではないけど、音のセンスがとにかく素晴らしいんですよ。僕は(ライヴで)鍵盤を3~4台使ったりしますけど、ジェイソンはメインのウーリッツァーと、(ミニモーグ・)ヴォイジャーの2台を最大限に活かしてプレイしている。機材やメンバーの演奏を引き出す力に長けている人で、ジャズの世界にはいなかったタイプのミュージシャンじゃないですかね。ハービー・ハンコックチック・コリアも演奏スキルが前面に出てくるけど、ジェイソンはそういう感じではない。技術が低いというわけではないけど、コンセプトのほうが遥かに魅力的なんですよ」

松下「俺は昔からすごく好きで、ジェイソンが参加している作品はとにかく聴きまくりました。80sサウンドのいい部分だけを抽出したような音が最高なんですよ。(ライヴ動画を観ながら)右手がまるで機械みたいに動いていますよね(笑)」

別所「〈アルペジエーターを使えば?〉と言われそうだけど、打ち込みのリズムをドラムで叩くのと一緒で、人力でやることに意味があるというか。さっきのライヴ動画でも、最後のほう(6分55秒~)で彼はピアノを弾いてるんですけど、いわゆるピアニスト的な演奏とは全然違う」

※アルペジオを自動的に作って演奏する機能

――左手でピアノを弾きながら、右手でシンセを操りながらエフェクティヴな音響を生み出している。これまたすごいソロ演奏ですね。

松下「どちらかと言うと、サンプリングするのに近い感じですよね」

――ジェイソンは『★』でも、ドラムのビートに鍵盤の音を重ねたり、ストリングスを思わせるコード・バッキングを弾いたり、あの手この手でサウンドの色付けをしていて。“’Tis A Pity She Was A Whore”での転がるような鍵盤ソロ(1分25秒~)も、やっぱりエレクトロニック・ミュージックの発想に近い感じがします。

デヴィッド・ボウイ『★』収録曲“’Tis A Pity She Was A Whore”
 

松下「あと、ソロを弾くときは変拍子の連続でいかついんですよ。自分のバンド(ナウVSナウ)でもよく披露していますけど」

――ヤセイは最新作『Lights』に“Lindner”という曲を収録するくらい、ジェイソン・リンドナーから影響を受けているんですよね。

別所「そうそう。彼をブログで紹介するために採譜したときも、改めてビックリしましたね。一聴すると流麗なコードを弾いてるようで、実は細かく拍をずらしている。そういうリズム面のアプローチも群を抜いていると思います」

 
Yasei Collective 『Lights』収録曲"Lindner"のライヴ映像

 

 

ダニー・マッキャスリン

――最後は主役のダニーについて、斎藤さんに動画を選んでもらいました。2016年9月のライヴで、最新作の『Beyond Now』から“Shake Loose”とタイトル曲を演奏しています。来日公演の予習にもなりそうだし、ダニーが吹くサックスがとにかく強烈です!

松下「これもいいよね、(演奏が)チルな感じもあって」

斎藤「そうなんですよ。ジャム・セッションっぽさがあるのが、このグループにしては珍しい感じで」

松下「ミニマルで低空飛行っぽいところから、じわじわ盛り上がっていくのがいいよね」

――ダニーは電子音楽的なアプローチをサックスという生楽器で表現するために、重音や倍音などを試したりしながら、サックスからさまざまな種類の音を引き出すことに取り組んでいるとMikikiのインタヴューで話していました。こういった発言通りの演奏が、『★』でもリード曲の“Lazarus”など随所で発揮されていたわけですが、彼の演奏はどんなところが優れていると思いますか?

松下「さっきのライヴ動画を観てもわかるように、リズム感が異常に優れていますよね。最近のサックス・プレイヤーのなかでは別格じゃないかな」

斎藤「あとは演奏しているフレーズを聴くだけで、ダニー・マッキャスリンの音色だとわかるのがすごいですよね。それに、技術やセンスも備わっているのは間違いないけど、マークやティム、ジェイソンと一緒に新しいことをやろうというスタンスが、ミュージシャンとして一番すごいと思います」

デヴィッド・ボウイ『★』収録曲“Lazarus”

 

松下「(ライヴ動画を観ながら)いやー、本当にすごい! このライヴが日本で観られるなんて、本当に楽しみだな」

別所「誰が観ても楽しめるライヴになりそうだよね。演奏にもすごく昂揚感があるし」

松下「〈こいつら只者じゃない!〉と一瞬でわかるもんね、絶対に」

――さらにボウイの楽曲も披露されるはずで、最近のライヴでは『Beyond Now』に収録された“Warszawa”や、さっき話に出た“Lazarus”のほかにも、意外なボウイ・ナンバーを取り上げているようです。

松下「僕らの立場から見ても、最後の最後までアンダーグラウンドから実力者をフックアップし続けたボウイは本当にカッコイイと思いますね。もちろんダニーや他のメンバーも、いつまでも名声に媚びるような人じゃない。単なるシンデレラ・ストーリーに終わらせず、さらなる飛躍に繋げているわけで」

ダニー・マッキャスリン・グループが“Warszawa”をカヴァーしたライヴ映像
 

――『Beyond Now』もボウイの遺志を受け継いで、さらに前進しようというスタンスが窺える作品でしたしね。

松下「というか僕たち、10年以上前からマークやティムがヤバイと言い続けてきたのに、本当につい最近になるまで、こんな話をしても誰も興味を持ってくれなかったわけですよ。〈マーク・ジュリアナ、誰それ?〉みたいな感じで」

――やっと時代が追い付いてきたと。〈新世代ジャズ〉とよく括られるけど、ダニーは66年生まれなので、もう50歳なんですよね。いろんな試行錯誤を重ねて、ようやくここに辿り着いたわけで。

松下「きっと、かなりの苦労人ですよね。それでも長い間ずっと続けることで、少しずつ認知されてきたというか……許されるようになってきたんじゃないかな。僕たちもそう。〈そんなスタイルは、日本だと絶対に成功しない〉とかずっと言われてきたけど、辛抱強く続けることでそれなりの形になってきているので」

――そんなヤセイはダニーの来日公演を前に、マークとの共演という大一番を迎えるわけですよね。どんなライヴになりそうでしょう?

松下「主にヤセイの曲を演奏する予定です」

別所「曲の譜面は、僕が書いて送りました」

松下「とにかくベストを尽くすだけですね。他のメンバーはいつも通りやれば大丈夫なので、あとは(ドラマーの)僕がどれだけ準備できるか。今度のライヴに向けてお酒も抜いていますし、そのぶん家で練習しているんですよ。ダニーやマークが数十年かけて取り組んできたものに比べたら全然及ばないだろうけど、個人的にもバンドとしても満足できる演奏ができるように、やれることをやり尽くして臨もうと思っています。だから僕たちのライヴにも、絶対に来てほしいですね」

 


ダニー・マッキャスリン・グループ
with マーク・ジュリアナ、ティム・ルフェーヴル、ジェイソン・リンドナー

日時/会場:2017年2月1日(水)~2日(木) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/7,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら

The EXP Series #09
Yasei Collective  with special guest マーク・ジュリアナ

日時/会場:2017年1月30日(月) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/5,000円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら