天才作曲家の秘蔵音源が一挙解禁。小さな輪からポップスの魔法が溢れ出す……

 ロジャー・ニコルスが日本で愛されるきっかけとなったのは、90年代初頭にロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(以下SCOF)の68年作『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』が、当時の若いアーティストやリスナーを中心に渋谷系の洋楽アンセムとして支持されたことによる。以降、SCOFとして奇跡の復活を果たし、2006年に2作目『Full Circle』、2012年に3作目『My Heart Is Home』を発表。特に後者が超ロング・ヒットを記録したことは記憶に新しい。また、2016年に入っても初作が日本でのみコンプリート版としてリイシューされるなど、我が国ではソフト・ロックの重要パーソンとして完全に人気が定着した感もある。

ROGER NICHOLS Roger Nichols Treasury ビクター(2016)

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 それを受けてこのたびリリースされた彼の編集盤『Roger Nichols Treasury』は、構想から22年を経て実現した労作にして、全曲が初音盤化という驚愕の2枚組だ。67~83年までの未発表音源を収録したDisc-1でまず注目すべきはSCOF名義の3曲か。彼ら特有の男女混成ハーモニーが描く清冽な輝きはやはり格別で、到底デモ・トラックとは思えないクォリティー。また、盟友ポール・ウィリアムズによる8曲のヴォーカル・ナンバーも嬉しい。さらにSFOCのメンバーでもあるマレイ・マクレオードや、ロジャー本人がマイクを握った曲も聴きどころだろう。

 一方のDisc-2はTV番組やCM用に書き下ろした曲を中心とする構成に。1分未満の曲も多いが、むしろ短い尺だからこそロジャーの書くメロディーの魅力――流麗さや湧き上がるような浮遊感、物憂い透明感――がわかりやすく提示されている。天才作曲家としての力量を存分に発揮しながらも長年埋もれていたこれらのテキストが、ふたたび陽の目を見たことに感動を禁じ得ない。