INTERVIEW

スペインの歌手ルス・カサルがメキシコやキューバのボレロなどラテン・クラシックに挑戦、デオダートも参加した新作を語る

ルス・カサル『La Pasion』

(C)Bill Bernstein

ラテンの名曲を歌い上げる映画のようなアルバム

 ペドロ・アルモドバル監督の『ハイヒール』(1991年)で、メキシコの大作曲家アグスティン・ララの《ピエンサ・エン・ミ》と、イタリアのミーナのヒット曲として知られる《別離》を歌っていた女性といえば、思いあたる人もいるだろう。ルス・カサルは、それ以前からスペインでは有名なロック系歌手だったが、同映画をきっかけに海外でも知られるようになった。

 「『ハイヒール』での歌の吹き替えの依頼は、即座に受け入れました。それは、監督が私を起用する意図を丁寧に説明してくれたからで、彼の話を聞いて、私自身も《別離》をスペイン語で歌うのは意義のあることだと思いました。私は早熟な少女だったので、子供の頃からフランスのエディット・ピアフ、米国のジャニス・ジョプリン、イタリアのオルネラ・ヴァノーニ、ポルトガルのアマリア・ロドリゲス、そしてフラメンコの歌手や生まれ故郷であるガリシア地方の音楽などに影響を受けてきました。さらに遡ると、幼少の頃はクラシックのピアノを習い、マーラードビュッシーモーツァルトなどの曲に親しんでいました。これらすべてに影響を受けていて、どれも大好きというのは、私にとって何ら矛盾することではありません」

LUZ CASAL La Pasion RESPECT RECORD(2016)

 海外では09年にリリースされた『ラ・パシオン』は、メキシコやキューバのボレロを中心としたラテン・クラシックスのカヴァー集である。このプロジェクトは、ルスのキャリアにとって大きな転機となった。

 「私は08年に大病を患い、長期の入院を余儀なくされました。『ラ・パシオン』は、その間に自分が知らなかった色々な曲を聴いたことがひとつのきっかけとなって生まれたアルバムですが、構想自体は91年頃から抱いていました。ええ、『ハイヒール』で《ピエンサ・エン・ミ》を歌ったことと、このプロジェクトは繋がっています」

 『ラ・パシオン』には、ルスが子供の頃から親しんでいたという《ある恋の物語》をはじめ、主に40~50年代のボレロが収録されている。この時代のボレロはただでさえ優美だが、しかもストリングスのオーケストレーションを含む編曲を手掛けているのは、ブラジルのエウミール・デオダート。それだけに、豪奢にして気品のある音世界が築き上げられており、ルスはさまざまなボレロを情感たっぷりに歌い上げている。

 「大病を体験したことによって、私の歌はそれ以前より繊細さと深みを増したと思います。入院中に私は命には限りがあるということを自覚したので、このアルバムは生きているうちに絶対に作ると固く心に誓いました。ピアフも同じようなことを言っていましたが、私にとって歌うことは生きることなのです」

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