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ぼくりりを形成する音楽遍歴と、ネット的ディグ事情

 「僕の登用の上手さは理解してほしいなと(笑)。描きたい世界観を表現できるトラックメイカーを選ぶっていう、プロデューサー的な力はすごいなって自分で思ってます。だから、僕の音楽の作り方は映画に近いのかな。映画なら、例えばCGはこの人にやってもらって、とかありますけど、全体を見る監督は僕です、みたいな感じですね」。

 ぼくのりりっくのぼうよみの楽曲制作は、本人の指名によるクリエイターがトラックを制作→そこに自身がメロディーを乗せるという行程を踏んでいるが、そうした適材適所の布陣を可能にする審美眼も、当人のリスナーとしての耳があってこそ。これまでにコラボしてきたのはほとんどがネットを出自とするクリエイターだが、では、ぼくりりは彼らの音とどうやって出会ってきたのだろう?

 「僕自身、ニコニコ動画のシーンにいたっていうのもありますけど(紫外線という名義の歌い手として活動していた)……熱心な、というか、キモいタイプのリスナーだったかも(笑)。〈歌ってみた〉っていうのは特殊な文化で、ある曲が発表されたらそれで終わりじゃなくて、それをその後もいろんな人が、いろんなタイミングで歌うんです。〈歌う〉という方法でレコメンドし合うというか。人気を得たいような人は有名な曲しか歌わないですけど、自分の嗜好に沿った曲をずーっと歌ってる人もいるから、自分の趣味に合った歌い手に出会うと、そこから掘っていけるっていうのはありますね。曲を作ってる人も、リリックを書いている人も辿れるし、いろんな方向からの表現が複雑に絡み合っている世界なので、こうして話してて、改めておもしろいなあって思います」。

 それはつまり、信頼のおけるDJがかける音源を追うことで好みのアーティストに出会ったり、気に入ったサンプリング・トラックから原曲を探ったり……という作業にも近いと言える。ジャズやR&B、ヒップホップにエレクトロニカ――ぼくりりがネットを通じて築いてきた自身の音楽遍歴のなかから『Noah's Ark』に迎えたクリエイター陣のなかで、まずは今回初登板となったアクトについて話を向けてみると……。

 「雲のすみかさんは、曲を耳にしたらたぶん、〈え、何この人?〉って引っ掛かりがあると思うんですよね。だからあんまり言及することもないというか、一回聴いてみて興味を持てない人は、音楽的にヤバイんじゃないかと思うぐらい。『テテロルルロ』(2014年作)も超カッコ良いです。ELECTROCUTICAさんは、インターネットの世界でも秘境みたいなところにいるというか。どちらかというと同人シーンで活動してる方です。強靭で、広い世界を表現するのに耐え得る音を作れる人って全然いなくて、今回の“Noah's Ark”は最初からELECTROCUTICAさんにお願いしようって決めてました。マジで天才なんで、ほかの曲も聴いてもらえると」。

雲のすみかの2014年作『テテロルルロ』収録曲“made in 泥団子”
 

 さらには連投組についても、「個人でも活動されてますけど、裏方気質が強い人なのかな。すごくレスポンスが早くて、一緒に音楽を作ってて楽しい。僕の曲では、一緒に尖ったことをやっていくぞっていう気持ちが強いです」というササノマリイ、「曲もオール・ジャンルいけますし、僕は書いてもらってないんですけど、歌詞も良いんです。基本的に一人称なんですけど、でも直接的じゃなくておもしろいなって思いますね。ソロだけじゃなく、バンドの如何様詐欺師は夜うごくも良いので、ぜひ」と別名義の話題も飛び出したにお……などなど、共作陣に対するぼくりりの推しは相当のもの。その根底にあるのはこんな思いだ。

ササノマリイの2016年のシングル“タカラバコ”
 

  「(ネット発信をメインとするアクトにも)良い音はいっぱいあるぞ、っていうことは伝えていきたいというか。そういうレコメンド欲はあるかもしれないです。例えば今回初めてトラックをお願いした雲のすみかさんも、ELECTROCUTICAさんも、いわゆるJ-Popのリスナーはそんなに触れる機会がないじゃないですか。そこを仲介する場として僕が機能したらおもしろいんじゃないかと思ってますね」。