シンガー・ソングライター/ビートメイカー/プロデューサー/DJなど、いくつもの顔を持つG.RINA。彼女にとって実に5年ぶりのカムバック作となった前アルバム『Lotta Love』は、ルーツである80sファンク/ブギーのエッセンスと持ち前のポップセンスが融合した、まぎれもない傑作だった。それから1年3か月、今回新たに届けられたのが、さらにカラフルに進化した新作『LIVE & LEARN』だ。ゲストには鎮座DOPENESSyoshirounderslowjams)、田我流Kick A Showといった個性派たちが並ぶなか、甘酸っぱいディスコ・ポップ曲“All Around The World”では、ほぼ同タイミングで新作『PINK』をリリースした土岐麻子をフィーチャー。G.RINAはこれまでに土岐作品でたびたび作詞・作曲を手掛け、『PINK』でも2曲の作曲を担当しているが、G.RINA作品に土岐がフィーチャーされたのは今回が初めてのこと。同い年であり、お互いを〈同志〉と認め合うG.RINAと土岐麻子。今回は、2人の歌世界の背景にあるものを探る特別対談をお届けしよう。

G.RINA LIVE & LEARN ビクター(2017)

 

オマージュに留まらずいまの時代の感覚で昇華したサウンド

――お2人の初めてのコラボレーションは、土岐さんの2007年作『Talkin’』に収録された“WALK ON”(G.RINAが作詞を担当)ですよね?

土岐麻子「そうですね。それ以前は交流がなかったんですけど、前からRINAちゃんの歌は聴いていて、歌いたくなる言葉だなと思っていました。当時は自分の作詞スタイルを模索していた時期で、必ずしも自分で作詞しなくてもいいと思っていたんですね。それよりも、自分が歌いたい言葉を歌おうと。それでRINAちゃんに声をかけたんです」

G.RINA「依頼の話をいただいたとき、過去の自分の作品の歌詞のなかに〈駒沢通り〉という言葉が出てくるんですけど、そこに反応してくれたのが嬉しかったのを憶えています(笑)」

土岐「とはいえ駒沢通りのことは全然詳しくないんですけど(笑)、私なりの駒沢通りが浮かんできたんですよ。小さい頃、ユーミンの“中央フリーウェイ”を聴いて、自分なりの東京の風景が浮かんできたのと同じ感覚だったんです」

――RINAさんは土岐さんの“熱砂の女”(2010年作『乱反射ガール』収録)で作曲もされていますね。

土岐「RINAちゃんの音楽ってすごく女性的だと思うんですよ。女性として歌いたくなる歌というか、聴いていると自分が女性であることにワクワクしてくるんです。それまでは男性の作家と組むことがほとんどだったんですけど、『乱反射ガール』のタイミングでRINAちゃんとやってみようと」

G.RINA「嬉しかったですね。土岐さんのことは歌手としてすごく尊敬しているので、そんな方の曲を書けるということは自分にとってすごく励みになったんです」

――RINAさんは土岐さんの歌についてどう思われますか?

G.RINA「とにかく声が魅力的で、こういう人のことを〈シンガー〉と言うんだなと思いますね。〈シンガーになるために生まれてきた女〉という感じがする(笑)」

土岐「そ、そうですか(笑)?」

G.RINA「私の場合は、(曲を)作っている時間がいちばんワクワクするんです。もちろん、ステージでお客さんとコミュニケーションを取る時間もとても大事なんですが、緊張も大きくて……」

土岐「私も作詞はしますけど、どうも好きな曲を作れないんです。いままで作曲をしたこともあるし、何曲かはリリースもしたけど、自分の中から出てくるものが歌いたいものと一致しているかというと、必ずしもそうでもなくて。作曲についてRINAちゃんからいろいろ習いたい(笑)」

土岐麻子の2015年作『Bittersweet』収録曲“セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~”
 

――そういえば、お2人は同い年なんですよね?

土岐「そうなんですよ。同世代だなあと強く意識することはないけど、同時代を同じ感覚で生きている人という感覚はありますよね、やっぱり。〈心の友〉感というか(笑)」

――音楽的なルーツも比較的近い感じがするんですが。

G.RINA「〈回り回って近い〉という感じはしますけどね。私はもともとブラック・ミュージックが好きで、レアグルーヴのレコードを掘っていくなかで改めて山下達郎さん周りの音楽に辿り着いた感じですけど、土岐さんはそれこそ生まれたときからシティー・ポップが身近にあったと思うんですよ」

土岐「そうですね。家の中ではシティー・ポップと同様にブラック・ミュージックのレコードもかかっていたので、ソウルなども耳にはしていたんですけど、青春時代にそういうものを意識的に聴いていたかというと、そんなこともなくて。R&Bも後になってから好きになったんです」

――RINAさんとはまったく逆のルートですね。

土岐「そうなんですよ。ヒップホップも全然聴いてなくて。それが『Bittersweet』(2015年)という前のアルバムを作り終わった後、急激に92年、93年ぐらいのヒップホップを聴きたくなったんです。そういう気分は巡っていくじゃないですか? それが時代に則したものなのか、個人的なものかわからないんですけど」

――どういうアーティストを聴いてたんですか?

土岐「えっと……ノーティ・バイ・ネイチャーとか(笑)。当時は全然引っ掛からなかったんですけど、急にいいなと思うようになったんです。あとはブラザーフッド・クリードのベースの音が単純に格好良いなと思ったり」

ノーティ・バイ・ネイチャーの93年作『19 Naughty III』収録曲“Hip Hop Hooray”
 
ブラザーフッド・クリードの92年作『Brotherhood Creed』収録曲“Helluva”
 

――RINAさん、そのあたりは……。

G.RINA「リアルタイムですね(笑)」

――シティー・ポップの話で言えば、土岐さんはシティー・ポップと向き合うときでも、当時のスタイルのままやるのではなく、あくまでも現代のものとして表現してきましたよね。

土岐「オマージュとしてやってしまうと、シティー・ポップをレトロ・ミュージックとして過去に葬り去ってしまうような感じがするんですよ。確かにシティー・ポップにはサウンド的にも歌唱面でもすごく影響を受けているし、そうした自分のルーツが作品の中で出てくるのはとても誇らしいことだと思うんです。でも、シティー・ポップをあくまでいまの時代と結び付けたものとして出したいんです。そもそもシティー・ポップはサウンドのジャンルじゃなくて、いまの時代を切り取って異世界へと連れて行ってくれるものだと思うんですね。私はそういうことをやりたくてずっと音楽をやってきたんです」

G.RINAの2016年作『Lotta Love』リリース・パーティーの模様
 

G.RINA「私もディスコやファンクのようなブラック・ミュージックをやるにしても、いまの音像でやることが大事だと思っています。ヒップホップを通過した現代の、なおかつ日本人の感覚としてどうやって表現していくか。方法は違えど、土岐さんと試行錯誤している気持ちは一緒なのかなと感じました。シティー・ポップはジャンルとして語られがちですけど、当時シティー・ポップと呼ばれる音楽をやっていた方々は実はすごく反骨心があった人たちだったり。そんなアーティストを尊敬するからこそ、アティテュードというか、オマージュで終わらせたくないっていう熱い気持ちですよね」

土岐「90年代生まれの人たちがサウンド的にシティー・ポップをオマージュするのはすごくおもしろいと思うし、あるべき音楽のサイクルだとは思うんですよ。ただ、私なりのリスペクトを表現したら、こういう形になったということなんですよね」