みんな素晴らしいミュージシャンだし、みんなライヴァル

――遼くんはソロでジャズをやって、SANABAGUN.ではラップもして、THE THROTTLEではロックンロールを歌っているじゃないですか。プロジェクトによってヴォーカルのアプローチを意識的に変えてる部分もあると思うんですけど、そのあたりはどうですか?

Nao「それ、私も訊きたかった!」

高岩「いや、特にないですね。俺は好奇心旺盛なだけで」

Nao「好奇心、〈Curiosity〉ね。私の今回のEPにもそのタイトルの曲がある。でも、ホントに好奇心旺盛なだけという感じなの?」

高岩「それだけだよ。〈とりあえず全部高岩でいいんじゃない?〉っていうところで。俺らは身体が楽器じゃないですか。だから意識して変えられるようなものでもねぇしなって。ただ、俺の歌がもっとも活きるのはジャズではあるかもしれないですね、歌手として」

――ヒップホップやロックンロールのアプローチをしていても、やっぱり根っこにあるのはジャズであると。

高岩「そう。俺の声の〈ペッ!〉みたいな出し方はどの現場でも一緒かな。その根本にあるのはジャズっすね」

Nao「でも、THE THROTTLEの遼くんはTHE THROTTLEの遼くんだし、サナバの遼くんはサナバの遼くんというイメージがあるよね。私が遼くんから盗みたいし勉強したいなと思うのは、自分の見られ方をホントによくわかっていらっしゃるところで。遼くんはたぶん自分自身を3方向くらいから見ていて。それがカリスマ性にも繋がっているし、才能だと思う」

高岩「なるほどね。ありがとうございます」

――遼くんは欲張りなんだと思うんですよね。ジャズもヒップホップもロックンロールもやりたいし、ファッションにおいてもスーツをビシッと着たければB-BOYっぽい格好もしたいし――。

高岩「革ジャンも着るみたいなね(笑)」

THE THROTTLEの2016年作『LET'S GO TO THE END』収録曲“LET'S GO TO THE END”
 

Nao「そのあたりの見せ方は同世代のミュージシャのなかでもズバ抜けたセンスがある。要は自分を商品にできているということだと思うし。どこまで計算してやってるんだろう?って」

――どうなんですか?

高岩「(細かく眉毛を動かしてほくそ笑みながら)すごい計算してますね~」

――こうやって煙に巻くのも達者っていうね。

Nao「そうなんですよね(笑)。カセットテープのA面とB面をもったいぶって裏返すみたいな。これを女の子が見たら嬉しいだろうなっていうことを普通にやってのけるから」

高岩「とんでもないですよ! 全部テキトー、テキトー。でも、ずっと幽体離脱してる感じはあるかもしれないね」

Nao「それぞれ違う自分になり切ってる感じだよね」

高岩「でも、ナルシストでもないんだよなあ」

――だけど、圧倒的なスーパースターになる。

高岩「なりたいっすね。宇宙の彼方に行きたいですね」

――死んでんじゃん(笑)。

高岩「ペロペロ(笑)」

Nao「あはははは(笑)。だったら、私は大地の女神的な存在でありたい」

高岩「すでにその感じが出てるじゃん。その長い黒髪にも」

Nao「ホントにテキトーだな(笑)」

――でも実際問題、いまの遼くんはリアルな実感として複数のアウトプットに同じ熱量を注ぐことの難しさも覚えてると思うんですけど。

高岩「痛烈に感じていますね。そのあたりは男26歳、悩みますわ。〈うっせー!〉って言いながら(笑)」

Nao「そういうとこイイよね!」

高岩「とりあえず全部やればいいんじゃねえの?っていう。それぞれの列車は走りはじめてるから」

Nao「止まれないよね!」

高岩「死ぬまでいこう、最後までっていう」

Nao「出ました~(笑)!」

高岩「俺の頭にずっとあるのは……人と同じことをしたら絶対にダメだから。男として二兎を追う者は一兎も得ず的なこともあると思うけど、でも人と違うことをやらないと絶対に銭は稼げないという想いがあるから。そこは……ペロペロって感じですけど(笑)」

――だから、ペロペロじゃないよ(笑)。

高岩「俺は俺でありたいから、全部やっちゃえよ、俺!って感じですね」

Nao「それはそうだよね」

高岩「でも、最近はどれがホントの自分かわらないですもん。たぶんウンコしてるときがホントの自分なんだと思う」

Nao「でもそういうことは、アーティストだけじゃなくて誰にもあることだと思うんだよ」

高岩「確かにそうかもしれない」

Nao「私が思うのは、シンガーだからすごいね、音楽やってるからすごいね、じゃねぇよ!ということで。お前だってすげぇじゃん!と思うんですよね。いまはそこで壁を作ってる人が多いと思う。〈Naoちゃんは個性的で〉とか言われると、〈お前も個性的だろ!〉って思う。逆に言えば、そういうところをミュージシャンから学んでほしい部分かなと思うんですよね」

高岩「間違いないね。〈お前もすごいよ!〉と思う」

Nao「遼くんみたいに圧巻のパフォーマンスをされたら、確かに〈すごいっす……〉となるけど、それはそれで。フラットに〈あなたのすごいところもありますよ!〉って言いたい。だから、私も自分の音楽を表現したい。女性シンガーとしてちゃんとそういうマインドを提示したいんですよね。女性がいるから男性もいるわけで。逆もそうだし。自分の音楽人生を通して大きな愛情を表現してそういうことを伝えたいですね」

高岩「最高。いいね」

――今日の話に出てきた登場人物もそうだけど、Naoさんは刺激的な男性ミュージシャンに囲まれているじゃないですか。だからこそ女性シンガーとして強い存在感であり、求心力を示したいとも思っているはずで。

Nao「そうですね。今回Suchmosのニュー・アルバム(『THE KIDS』)にサンプリング・コーラスで参加させてもらって。彼らも出会ってからずっと私のことを見てくれて、私の歌を好きでいてくれて、〈最高じゃん! 一緒にがんばろうよ!〉と応援してくれているんです。私の声をちゃんと分析したうえでサンプリング・コーラスに使ってくれて。お父さんだし、弟でもあるみたいな関係。そんな彼らと話しているときに、例えばディアンジェロやエリカ・バドゥが組んでいたクルーがあったじゃないですか?」

――ソウルクエリアンズですね。

Nao「そう、〈ソウルクエリアンズみたいになりたいよね〉とみんなで話していて。確かにそうだなって思うんですよね」

クエストラヴコモンQ・ティップ、エリカ・バドゥ、ビラルJ・ディラらによって90年代後半~2000年代前半に活動した音楽集団。ディアンジェロ『Voodoo』(2000年)やエリカ・バドゥ『Mama's Gun』(2000年)、コモン『Like Water For Chocolate』(2000年)などを制作

――いまだったら、オッド・フューチャーにおけるシド・ザ・キッドジ・インターネット)みたいな存在にNaoさんがなったらおもしろいだろうし。彼女とはキャラクターもセクシャリティも違うけど、クルーのなかで際立つ存在としてね。

Nao「そういう存在になりたいですね。日本でも、私が好きなニューミュージックの時代は女性シンガーの力がかなり強かったと思うんですね。海外の音楽を上手く吸収して、自分のオリジナルにしていたシンガーがいっぱいいた時代だと思うんです。私たちの世代も新しいムーヴメントを起こせるはずだって、18歳のときから考えていました。これからは誰も嘘が付けなくなる時代だし、自分のやりたいことしかできなくなる時代にどんどんなっていくと思っていた。そしたら、周りのSuchmosやSANABAGUN.、WONKがどんどん大きくなっていったんですよね。私はライヴのときは人を殺すくらいの勢いでやらないとダメだと思っていて。遼くんはやっていると思いますけど。私も何度も殺されかかってるし。そういう意味ではみんな素晴らしいミュージシャンだし、みんなライヴァルだと思っています」

ジ・インターネットの2016年作『Ego/Death』収録曲“Special Affair”
 

――遼くんは『Cue』を聴いてどんな感想を抱きましたか?

高岩「ホントに、さっきNaoが言ってたようにリラックスして歌っている。それが全部出てるなって」

Nao「ホントに?」

高岩「かつノれるよね。俺は“Dawn”を聴いたときに、ミュージック・ソウルチャイルドが客演しているインディア・アリー“Chocolate High”のムードを思い出した。フレッシュでポジティヴな耳触りがあって」

インディア・アリーの2009年作『Testimony: Vol. 2, Love & Politics』収録曲“Chocolate High”
 

Nao「(“Dawn”に参加したWONKの)Kentoと、いまの時代のミュージシャンからカヴァーしたいと言われるような曲にしたいね、って言ってたんだよね」

高岩「そう、その感じがすげぇ伝わった。この曲はより女の子っぽい声になってるんですよね」

――サウンド面ではネオ・ソウルや現代ジャズのフィーリングを昇華したグルーヴという観点からも語れると思うんだけど、最終的にはコンテンポラリーなポップスとしてとても魅力的な作品だなと思いました。

Nao「ありがとうございます。このEPを作る前、去年の2月に『AWAKE』という自主盤を必死になって作って。覚醒を意味するタイトル通り、自分の中にあるものを一回クリアにしたうえでそれを全部出す作業をしたから、すごく辛い制作だったんですよ。自分にとってとても大切な作品になったのは事実なんだけど、熱い想いが入りすぎて重いアルバムになったなと思って。それを経て、今回はもっと軽やかに聴けるEPを作りたいと思ったんです。ポケットに入れて〈Naoの声を聴こう!〉と思ってもらえるくらいの作品にしたいなって。私はここで常に歌で合図を出しているから、聴きたいときに聴いてよ、っていう。そういう女性っぽいしなやかさも含む作品になったと思います。だから、私自身が女性であることを認識するEPでもあるんですよね。『AWAKE』は人間として、という感じだったけど。サウンド面も、最初はネオ・ソウルなテイストを濃く出そうとも思っていたんですけど、澤近と話しているなかで、ジャンル云々ではなく『CUE』というテーマを大事にして、間を大事にしようということにしたんです。それで私の声が一番前に来るようなミックスにもしたし。歌詞は〈合図〉〈直感〉〈仲間との交信〉を意識して書きました。“Curiosity”は、私が想いを発すると仲間が返してくれることを書いていて。実はそのテーマ性はリベラルのソロ・アルバム(『I.MY.ME.』)で参加した曲(“シンパ”)にも埋め込んだんですよ」

Nao Kawamura“Awake”のライヴ映像
 

――サブリミナル効果的な(笑)。

Nao「リベラルには言ってないんですけど(笑)」

高岩「それ、超おもしれぇじゃん(笑)」

Nao「でも、それも仲間への感謝の気持ちと時代の合図を示したいという想いがあって。その合図は、いまはまだ小さなスケールだけど、ここからどんどん大きくするというヴィジョンがこのEPにはある。私はずっと〈ポップス〉という言葉が嫌いだったんです。商業的な言葉だなって思っていたから。でも、いまは私だけが表現できるポップスがあると思うんですよね」

――それは紛うことなきグッド・ミュージックでもあると思うし。

Nao「そう思います。さっきも聴いていたんですけど、ペトロールズさんとかもそうだと思うんですよ。自分たちにしか表現できない音楽をやって、それが時代とリンクして独自のポップスになっている。さらに、これまで時代を築いてきた女性シンガーができなかったことも私はやりたいです」

高岩「やれるよ、Naoなら」

――最後にそれぞれの2017年の展望を聞かせてもらえたら。

高岩「銭を稼ぐ、車を買う。以上です」

――ひたすら、銭。

高岩「ひたすら銭っす。2016年はいろんな動きを発信して、パイロットとして混乱していたところもあったんですけど、その年が終わって整理がついた。なので2017年は目をつむっても操縦してみせます」

Nao「遼くんならやれるよ。私は『Cue』が完成して良かったなと思うけど、まだまだいっぱいやりたいことがあるので」

高岩「やろう、やろう」

Nao「それをカタチにするために、人間としても女としても濃度をどんどん上げていかないといけないから」

高岩「そのために重要なのは恋ですよ」

Nao「恋もがんばります(笑)!」

 


Nao Kawamura “Cue” release party
3月4日(土)@恵比寿KATA
18:30 OPEN/19:00 START

SANABAGUN. THUG TOUR
5月26日(金)仙台・LIVE HOUSE enn 2nd
5月28日(日)札幌・COLONY
6月9日(金)広島・BACK BEAT
6月10日(土)福岡・graf
6月17日(土)名古屋・JAMMIN’
6月18日(日)大阪・梅田Shangri-La
6月23日(金)東京・恵比寿LIQUIDROOM
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ザ・スロットル presents - ROCKER ROOM Vol.3 -
2月14日(火)@東京・六本木VARIT
OPEN/START 19:00
出演:THE THROTTLE/THE TOKYOTHE NUGGETSほか
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