長らく続いているこのページも、いよいよ99回!ってことですが、今月はひとまず2016年の振り返りを済ませておきますよ。膨大なリイシューや発掘盤のリリースの山から、いま聴くべき作品とは!?

 もうとっくに2017年ですが、ここではまだ2016年の話を……というか、そもそもフラットに時代から切り離されたリイシューの世界は言うまでもなくタイムレスであります。2016年のソウル界では、モーリス・ホワイトプリンスをはじめ、カシーフロッド・テンパートンら、時代を築いた偉大な才能がこの世を去るという悲しいトピックがまず思い出されるところでしょう。一方で例年に比べると、目玉となるビッグな復刻盤や、大騒ぎになるような発掘はなかったようにも思えます。ただ、よく考えればアナログ作品のCD化という流れが90年代に盛んになってからすでに20年以上が経過しているわけで、〈世界初CD化〉〈未発表音源の蔵出し〉という但し書きがあってもなくても、その作品に初めて立ち会うリスナーにとっては、そこがその人なりのリアルタイムなのでして……なんて当然のことを前提とするなら、やはり2016年も注目すべき復刻や発掘作品は多かったはずです。マニア向けでも入門編でも、いま扉の前に立ったリスナーにとっては、そこが入口なのですから。 *bounce編集部

 

2016年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ!  選・文/林 剛

VARIOUS ARTISTS Greg Belson's Divine Disco: American Gospel Disco 1974 To 1984 Cultures Of Soul(2016)

宗教音楽としての側面よりもサウンドの効用/昂揚に焦点を当てたゴスペルのコンピが増えつつある昨今。ケブ・ダージらと交流があるDJ/コレクターが自身の番組名にちなんでディスコという切り口でモダンなゴスペル曲を集めたこれは、洋邦のアーバン・ソウル文脈からも注目したい快作コンピだ。マイナーな曲もあるが、前半に2曲登場するエンライトメントを筆頭に腰が浮き立つようなスムース&ダンサブルなナンバーが次々と押し寄せる。ワイナンズの前身にあたるテスティモニアル・シンガーズによるラテン系疾走ディスコ“No Greater Love”の収録も嬉しかった。

 

FRUIT Fruit Athens Of The North/OCTAVE(2016)

個人的な2016年発掘大賞。フロリダ一帯で活動していたファンク・バンドで、78年にスペイシーな“Say It”とブリック風の“If You Feel It, Say Yeah”がカップリングでシングル発売されたのみだったが、それらを含むお蔵入りアルバムがデモ音源を含めて日の目を見た。シンセを縦横無尽に操ったコズミックな楽曲はパーラメントオハイオ・プレイヤーズフェイズ・Oあたりに通じていて、ディスコ・オリエンテッドでありながらファンクとしての強度も十分。このテのファンク・バンドにはお約束となるバラードもあり、語りから入るヴォーカル・グループ風情がたまらない。

 

VARIOUS ARTISTS Jack Ashford: Just Productions Kent(2016)

エディ・パーカーのシングル数曲で100万円超えというレアリティーの度合いよりも、ファンク・ブラザーズのタンバリン奏者がモータウン仕事の裏で二つ目のプロダクションを立ち上げてデトロイト・ノーザンの傑作を送り出していたことに感激させられた編集盤。前述のエディやアル・ガードナーらが熱い喉をブチかます名唱から、自身が歌うダンサーや同僚のジョニー・グリフィスによるクラヴィネット使いのファンキーなインストまで、70年前後のソウルが持っていたパワーを改めて実感。軽やかなバックとディープなリードのコントラストが絶妙なスミス・ブラザーズも最高だ。

 

DON DOWNING Doctor Boogie Roadshow/RS International/OCTAVE(1978)

ロードショウ関連の国内リイシューで個人的に一番燃えたのがこれ。RSインターナショナルとの共同原盤作で、サルソウルの向こうを張るようなフィリー・ソウル風ディスコ・サウンドを浴びながらディープ&ハスキーなヴォーカルでソウルフルに歌い進んでいくカッコよさに、初めてアナログを買った時の興奮が蘇ってきた。白眉はやはり女声コーラスを従えて歌うミディアム・ダンサーの表題曲。現在では多様な解釈がなされる〈ブギー〉という言葉だが、自分の中にあるブギーのイメージはこの曲だったりする。推進力のある“Dream World”など、この華麗さは2010年代にしっくりくる。

 

JAMES BROWN Get Down With James Brown: Live At The Apollo Volume IV Polydor/ユニバーサル(2016)

JBのアポロ・シアター公演にハズレなし。その4度目の証明となった本作は、前座を務めたJBファミリーが中心となる72年9月のパフォーマンスを収めたライヴ盤。当時はお蔵入りとなり、2014年にデジタル音源として登場したものが2016年のレコードストア・デイ向けにアナログとして限定発売されたが、それが世界初CD化されたことは大きな喜びだった。ファンキーでいて統制されたJB'sの軽やかな演奏、自身のヒットに加えてメンフィス・ソウルも歌うリン・コリンズボビー・バードのブルージーネスに聴き惚れる。既出だったJBの“There It Is”もこの流れで聴くと新鮮だ。

 

VARIOUS ARTISTS Soul Togetherness Presents The Spirit Of Philadelphia 4ever Expansion(2016)

名物コンピのスピンオフ企画となるフィリー・ソウル集も第4弾に突入。従来通り〈フィリー詣で〉の作品を含み、今回は非フィリー録音となるフューチャーズチョイス・フォーの楽曲も収録して拡張性を伝える内容に。後にジャック・サス・バンドにリメイクされるエヴェレット“ブラッド”ホリンズ“How Have You Been”から心沸き立つ好曲揃いで、ボビー・イーライらの作ながらジェフ・レーンの制作でランディ・ミューラーが弦アレンジを手掛けたファイナル・タッチの“I'm Ready To Give Up My Love”は、NY人脈によるフィリー・ダンサーというおもしろさ込みで再評価したい。

 

VARIOUS ARTISTS Afterschool Special: The 123s Of Kid Soul Numero(2016)

秘境レヴェルの発掘リリースを続けるニュメロから9年ぶりに登場したUSローカルのキッズ・ソウル曲コンピ。大半が70年代の音源ということでジャクソン5を意識したポップで溌剌とした曲が並び、当時のアメリカにはこんなにも〈マイケル・ジャクソン〉がいたのかと改めて驚く。キャッシュによるメロウ・ディスコ、ブライター・サイド・オブ・ダークネスによる変声期後のバラードなど好曲が続くなか、ギル・スコット・ヘロン“The Revolution Will Not Be Televised”をキッズ声のラップでシリアスかつ懸命に詠み上げるブラザーズ・ラップのパフォーマンスに胸を打たれた。

 

VARIOUS ARTISTS Get The Holy Funk!: Jewel Spiritual Groovers Pヴァイン(2016)

名門ジュウェルの70~80年代音源を中心としたゴスペル・コンピ。ダニー・ハサウェイが鍵盤演奏も含めて関与した曲やスティーヴィー・ワンダー曲のリメイク、キース・バロウが情熱的に歌い上げるグルーヴィー曲など、ソウル/ファンクに親しんだ者も優しく迎え入れてくれる。マイティ・サンズ・オブ・グローリーによる西海岸アーバンなミディアム・グルーヴ曲は1のコンピに入っていても似合いそう。J・モスの父が率いたファミリー・ゴスペル・グループがニューオーリンズ・ファンク風にリメイクしたボブ・ディランの79年曲など、まさしく〈聖なるファンク〉の見本市だ。

 

VARIOUS ARTISTS Harmony Of The Soul: Vocal Groups 1962-1977 Kent(2016)

初回プレスの製造不良には萎えたが、珠玉のハーモニー・ソウルを集めたこれには黙って聴き入ってしまった。ややマイナーな甘茶ソウルを中心としたヴォーカル・グループの隠れ名曲コンピ。ドゥワップ作法を引きずる曲が目立つが、それらのイナたいムードに交じってドラマティック・エクスペリエンスの洗練された75年産バラードが悠然と現れる並びが絶妙だ。マッド・ラッズのデモなど9曲の未発表音源も良質で、インプレッションズを意識したラヴァーズの“Whatcha Gonna Do Baby”も実に微笑ましい。ジャック・ムーヴスのアルバムと一緒に聴くことを推奨します。

 

ANGLO-SAXON BROWN Songs For Evolution Atlantic/SoulMusic(1976)

待望のCD化。フィリー・ソウル全盛期にシグマ・サウンド・スタジオで録音された名盤。ハスキー・ヴォイスのデブラ・ヘンリーを紅一点とした彼らは、前身がウジーマで、後にシルクと名乗ってもう1枚アルバムを出すが、本作はデブラが歌うスケールの大きなミディアム“Gonna Make You Mine”や表題通りの“Disco Music”など、エクスタシー・パッション&ペインを意識したようでもある。が、男性が歌うスピナーズ風の“Straighten It Out”など、ジョー・ジェファーソンチャールズ・シモンズのモダンな制作センスがメロウなムードを醸成していて、その湯加減がいい。