ポップ・ミュージック史に名を残す大御所から期待のニューカマーまで揃えたラインナップで、多くのロック・リスナーを虜にしてきたライヴ・イヴェント〈Hostess Club Weekender〉。その第12回が2月25日(土)、26日(日)に東京・新木場STUDIO COASTで開催される。

2016年には〈上質な音楽に浸る特別な日曜日〉をテーマにトラヴィスベン・ワットらが出演した4月の〈Hostess Club Presents Sunday Special〉、ダイナソーJrテンプルズが〈サマソニ〉の深夜を彩った8月の〈HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER〉が行われたものの、〈Hostess Club Weekender(以下HCW)〉としてはブロック・パーティメルヴィンズがヘッドライナーを務めた2015年11月以来の開催。今回は、2月25日にピクシーズMONOガール・バンドピューマローザ、26日にキルズリトル・バーリーレモン・ツイッグスコミュニオンズの計8組が名を連ねている。そこでMikikiでは、もはや恒例となった〈HCW〉総力特集を今回もお届け! 第1回では25日に出演する4アクトをフィーチャーし、Mikiki編集部のインディー・ロック班である小熊俊哉と田中亮太が各出演アクトの魅力や注目ポイントをカジュアルに解説する。

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★第2回:キルズやリトル・バーリー、レモン・ツイッグス、コミュニオンズ出演の2日目を徹底解説

 

田中亮太「いよいよ〈HCW〉の開催が近付いてきたね」

小熊俊哉「昨年もホステス主催のイヴェントは盛り上がっていたから実感はなかったけど、なにげに1年3か月ぶりの開催なんだよね。過去の〈HCW〉を振り返ってみても、テンプルズやアウスゲイルがブレイク寸前のいちばん美味しいタイミングで出演したかと思えば、リアル・エステイトのような海外で評価が高い実力派バンドをここぞとばかりに大きなステージに招いたり、志の高いブッキングには毎回唸らされるな。ダーティ・プロジェクターズなどインディー・ロック界のカリスマをヘッドライナーに据えて、ホット・チップみたいに愉快なライヴを披露するバンドを登場させたりと、1日中楽しめる発見に溢れたイヴェントだと思うんだ。ちなみに、いま挙げた面々はみんな最高のニュー・アルバムを控えているので、こちらもぜひチェックしてね(親指を突き出しながら)!」

※ホット・チップは主要メンバーであるジョー・ゴダードがソロ名義での新作『‘Electric Lines』を4月にリリース

田中 「小熊くん、ホステスから何かもらったのかい? でもヴェテランから知られざる新人まで、海外インディー・ロックの〈旬〉をまとめて観られるのが〈HCW〉の最大の魅力だよね。そういう点で、今回の8組も実に〈HCW〉らしい顔ぶれだと思うんだ。まず初日の2月25日(土)は、昨年に新作をリリースしたUSオルタナのオリジネイター、ピクシーズをヘッドライナーに迎えて、日本人バンドとしては〈HCW〉初出演となるポスト・ロックの重鎮・MONO、さらにガール・バンドとピューマローザという期待のニューカマーが並んでいるね」

小熊「続く2月26日(日)は、不穏なガレージ・ロックを鳴らす激クールなバンド、キルズが大トリで登場。さらに日本でも愛されているロックンロール一番星のリトル・バーリーに加えて、レモン・ツイッグスとコミュニオンズという明日のロック・シーンを担うスーパー・ルーキーが嬉しい初来日を飾ってくれるというわけだ。こいつはヤバイね、鼻血が出そう!」

田中「今回、トリの2組はエッジーでささくれ立ったギター・サウンドが共通点だと思うんだけど、それはガール・バンドやピューマローザといった後進にも受け継がれている気がするよ。だから、今回の〈HCW〉の裏テーマはずばり〈オルタナ復興〉じゃないかなと思うんだよね。それこそMONOも、数々のオルタナ名盤に関わってきたスティーヴ・アルビニがプロデューサーとして携わっているわけだし」

小熊「うんうん。ここ数年はロックに元気がないと言われてきたなか、実はヴェテランたちが牙を研ぎ、フレッシュな新世代が続々と台頭していたと。そんな機運もなんとなく感じていたけど、今回の〈HCW〉は新たなピークタイムを象徴する注目株と、彼らに影響を与えたオリジネイターが集結したとも言えるのかも」

田中「というわけで、まずは25日に出演するバンドを紹介していきますか」

 

ピューマローザ

小熊「ピューマローザはロンドンの5人組。PJハーヴェイパティ・スミスを彷彿とさせるメロディーと、ナイフコクトー・ツインズにも通じるエレクトロニックでグルーヴィーな演奏から、その音楽性は〈インダストリアル・スピリチュアル〉と呼ばれているそうな。かのジェイムズ・ブレイクも、彼らが2015年に発表した“Priestess”をその年のNo.1ソング候補と絶賛したらしい。田中くんもすっかり入れ込んでいるみたいだけど、ずばりピューマローザの魅力とは?」

2017年のEP『Pumarosa EP』収録曲“Priestess”
 

田中「まずは、フロントマンであるイザベル・ムニョス・ニューサムのカリスマ性を抜きには語れないよね。このライヴ動画をご覧なさい。サイケなグルーヴに身を任せながら、シャーマンのように舞い歌う彼女のパフォーマンスから目が離せなくなると思うよ。それに、妖艶さと鋭さを併せ持つ歌声も凄く耳に残るよね」

2016年のライヴ映像
 

小熊「うひょー、これはヤバイね(笑)。スター性の塊みたいなパフォーマンスだ。ステージ上での動きもそうだし、インダストリアル・ミュージックの解釈なんかも含めて、最近のバンドだとやっぱりサヴェージズを想起するかな。あとはこういうライヴを観ると、〈HCW〉出演経験もあるパーマ・ヴァイオレッツあたりが撒いた種も大きかったのかなという気がする」

田中「おっ、鋭いねー。実際に彼女たちはパーマ・ヴァイオレッツのスタジオでリハ―サルしていたみたいなんだ。そして、サヴェージズやBO NINGENには大きなリスペクトを感じているようで、その両者のコラボ作『Words To The Blind』(2014年)を共作の理想形だと公言していたよ。実はピューマローザには、シンセサイザー/サックスを務めるトモヤ・スズキさんという日系と思しきメンバーもいて、そういう点でもBO NINGENとの繋がりがありそうだね。ちなみに、インダストリアルやクラウトロック~サイケへの心酔は筋金入りみたいで、イザベルが〈Krautrock Karaoke〉というイヴェントでシルバー・アップルズの“Pox On You”をカヴァーしている動画もあったよ」

小熊「やっぱりそのあたりがルーツなんだ。ロック・バンドならではの演奏面における逞しさと、今日のクラブ・ミュージックを通過したクールな質感を両立させているのは、ロンドンのバンドって感じがするな」

田中「ダンサブルな面はもちろんだけど、パンク・バンドとしての格好良さも並大抵じゃないと思う。もう1曲、“Honey”も聴いてみてよ! 〈Bitch〉や〈Evil〉などのドキッとするフレーズを挿し込んでいくヴォーカルは前述のPJハーヴェイやキャスリーン・ハンナビキニ・キル)に通じるシャープさがあるし、ギター・ソロからの畳み掛けるアンサンブルにも痺れるよ。リリック・ビデオとしても最高だし」

2017年のEP『Pumarosa EP』収録曲“Honey”
 

小熊「古くはブロンディデボラ・ハリー、もっと最近だとヤー・ヤー・ヤーズカレン・Oとか、NYのアート・ロックにも通じるエキセントリックなセンスを感じさせる曲だね。彼らは2月3日に日本独自企画のEP『Pumarosa EP』をリリースするんだけど、ダン・キャレイがプロデュースを担当しているんだって。リリー・アレンカイリー・ミノーグ、ブレイク以前のシーアといったポップ畑の大物から、フランツ・フェルディナンドの『Tonight』(2009年)やジャンゴ・ジャンゴの"Default"(2012年)、トーイの『Join The Dots』(2013年)など近年のUKにおける尖ったインディー・タイトルに携わってきた人物で、生音とエレクトロニックな要素をブレンドさせる手腕は一級品。ピューマローザとの相性もバッチリだよ。あとはそうそう、シャウラが手掛けた“Priestess”のリミックスも絶品なんだよ! こういうイイ仕事を実現できるのは、彼らの近くに優秀なマネージメントがいる証拠なのかもしれない。いずれにせよ〈HCW〉出演を境に大きくステップアップするのは間違いないと思うよ」

2017年のEP『Pumarosa』収録曲“Priestess (Shura Remix)”

 

ガール・バンド

田中「ガール・バンドはアイルランド出身の4人組で、2015年にリリースした初作『Holding Hands With Jamie』がインディー・リスナーの間で話題になったよね。ノイズやインダストリアルからの影響が色濃い、錆びた刃物のようなギター・サウンドと、ロウ・ハウスダブステップ以降の重低音を効かせたビートを重ね合せた彼らは、2010年代後半ならではのノーウェイヴ・バンドと言えるんじゃないかな」

小熊「まさしく。ライヴを観てみたかったバンドのひとつだね」

田中「彼らがUKベースを代表するプロデューサー、ブラワンのカルト・ヒットをカヴァーした“Why They Hide Their Bodies Under My Garage?”をまずは聴いてみてよ」

2015年のEP『The Early Years』収録曲“Why They Hide Their Bodies Under My Garage?”
 

小熊「こっちまで〈ギャー!〉って叫びたくなる感じだよね(笑)。再生してから6分前後の展開は強烈すぎる」

田中「オリジナル・ポスト・パンクの牙城であったラフ・トレードが惚れ込んでリリースしたというのも納得できるサウンドだよね。79年にポップ・グループの”We Are All Prostitutes”を聴いてぶっ飛ばされたのと同等の衝撃を、いまのリスナーに与えてくれそうなバンドだと思うんだ」

小熊「そうだね。バースデイ・パーティにも通じる凶暴さや、スロッビング・グリッスルに通じる硬質なリズムと不気味なインテリジェンスに痺れるというか。あるいは、スティーヴ・アルビニが率いた2バンド、ビッグ・ブラックシェラックを足して2で割ったような音にも聴こえる。だからと言って古臭く感じさせないのは、例えばファクトリー・フロアのように、モダンなクラブ・ミュージックとインダストリアル・ロックの要素を兼ね備えたフィーリングを随所に感じさせるからなのかな」

田中「こうやってデムダイク・ステアトロピック・オブ・キャンサーと同じような感覚で聴けるロック・バンドが登場したのは本当にアガるよね。あとは、もともと音源がリリースされる以前からライヴが評判だったバンドだけに、今回の初来日はなおさら待望だと思う。この〈Pitchfork Music Festival 2016〉のライヴ映像を観たら、期待せずにはいられないよ」

小熊「ピューマローザと彼らが続けて登場するって、よくよく考えると非常に暴力的だなー(笑)。この記事の根幹をひっくり返すようだけど、理屈とか文脈を抜きにしても〈事件〉と言うべきライヴになりそうな気がするね。終わってから後悔する前に、コイツは行くっきゃない! やるっきゃ騎士!」

田中「これまで〈HCW〉に足を運ばなかったリスナーも、〈冒険してもいい頃〉なのかもしれないね」