動画サイトでの発信と路上ライヴ、今様かつオーセンティックな手法で聴き手を魅了してきた2人が提示する理想のポップスとは?

 ソロのシンガー・ソングライターとして国内外で活躍する伊東歌詞太郎(ヴォーカル)と、プロデューサーや楽曲提供者として多くのアーティストに実力を認められている宮田“レフティ”リョウ(ベース/ギター/キーボード)。中学校以来の旧友2人が、2012年に結成したユニットがイトヲカシだ。動画サイトで発信して路上ライヴでファンと触れ合うという独自の活動が熱烈に支持され、2016年にめでたくメジャー・デビューを果たした期待のニューカマーである。

 「僕らは同じ中学校で、最初のバンドを一緒に組んで、同じ環境で音楽を聴いてきて。根本の部分で近いものがあるんですよ」(伊東)。

 「〈そうだよね〉で通じるところが多いよね。2人だから方向性も決めやすいし、楽器の制約もない。すごくいい関係だと思います」(宮田)。

 2人が掲げるテーマは〈王道ポップスの復権〉。初めて組んだコピー・バンドでTHE HIGH-LOWSTHE YELLOW MONKEYのカヴァーを歌ったその時から、めざすものはブレていないと伊東は言う。

 「僕にとっては歌詞が一番大切で。まず良い歌詞があったうえで、それをどんなグッド・メロディーに乗せて、どんな素晴らしいアレンジをするか。そのどれが欠けてもダメなんです。メロディーも歌詞も、ギミックを入れたものがウケる時代だと思うんですけど、イトヲカシはあくまで歌詞が最初という順番で、ギミックなしでいい歌を作ってドン!と出していきたい。それが僕らなりの王道だと思ってます」(伊東)。

イトヲカシ さいごまで/カナデアイ avex trax(2017)

 デビュー2年目の幕開けを飾るセカンド・シングル『さいごまで/カナデアイ』は、それぞれ違う曲調のなかに、イトヲカシらしいポップセンスを詰め込んだ2曲が揃った。〈キットカット〉受験生応援キャンペーン・ソング“さいごまで”は、ピアノとストリングスが奏でる切ない響きと、力強いバンド・サウンドが融合したロック・バラード風の一曲だ。

 「聴き手の背中を押すために、バンド・サウンドはすごく効果的なので。イトヲカシとして活動してきたなかで出来てきた、僕の王道サウンドです」(宮田)。

 「この曲は、受験生と、その先を生きる人たちにも聴いてもらいたいんですよ。受験が終わってもその先がもっと大事だし、死ぬまで勝負が続くと思うので。僕らだって、メジャー・デビューというひとつのゴールテープを切ったあとも、それ以上にスピードを上げて走っていかなきゃいけない。その思いが〈さいごまで走り抜けてやれ、誰よりも遠くまで〉というフレーズに入っていると思います」(伊東)。

 もう1曲の“カナデアイ”は、TVアニメ「双星の陰陽師」のオープニング・テーマ。メロコア・タイプのキャッチーなメロディーとスピード感が痛快なナンバーだが、楽曲制作は相当な難産だったという。

 「一見シンプルなバンド・サウンドですけど、そこに行き着くまでに紆余曲折あって。僕らなりの王道ポップスのラインのなかで辿り着いた、ひとつの答えだと思います」(宮田)。

 「歌詞も、イトヲカシらしさとアニメの内容と、オープニングとしてのインパクトがどうすればうまく繋がるかな?ってすごい悩んだんですけど、結局は〈愛〉というものを真っ直ぐに描いた歌詞になりましたね。愛はすべての人類が持っているものだし、僕のなかに必ずある、とても重要な感情なので。悩んだからこそ、すごく自信をもって出せる曲になったと思います」(伊東)。

 ネット出身の現代的な佇まいの裏にある、王道志向でライヴ好きというオーセンティックなミュージシャンの素顔。理想のポップスを求めて走り続ける2人にさらなる注目を。

 


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ここではイトヲカシの関連作を一部紹介。まず、2012年に動画投稿サイトの〈歌ってみた〉で活動を開始した伊東歌詞太郎は、多くのコンピに参加したのち、人気ボカロ曲のカヴァーなどを収めたアルバム『一意専心』(トイズファクトリー)でメジャー・デビュー。翌2015年には自身の作詞/作曲、レフティーモンスターPこと宮田“レフティ”リョウの編曲によるナンバーも披露された2作目『二律背反』(同)をリリースします。また、2012年に結成した宮田とのユニット、イトヲカシとしての活動も2016年に入って本格化。5月に初ミニ・アルバム『捲土重来』(屯所レコード)を発表すると、9月には早くもシングル『スターダスト/宿り星』(avex trax)でメジャーの舞台へ。一方、宮田は作/編曲家/プロデューサーとしての仕事も活発で、近年の参加作には黒木渚のシングル“ふざけんな世界、ふざけろよ”(ラストラム)RADIO FISHのアルバム『PERFECT HUMAN』(YOSHIMOTO R and C)ASH DA HEROの最新作『THIS IS LIFE』(クラウン)などが。その手腕は多方面で発揮されています。 *bounce編集部