INTERVIEW

頭はジャズ、出す音はグローバル―ホセ・ジェイムズがWONKと語る、常にフレッシュであり続ける音楽家のマインドセット

ホセ・ジェイムズ『Love In A Time Of Madness』

頭はジャズ、出す音はグローバル―ホセ・ジェイムズがWONKと語る、常にフレッシュであり続ける音楽家のマインドセット

ジャケットに写る彼の姿を見て、〈えっ、これがホセ・ジェイムズ?〉と驚いた人も多いことだろう。新時代ジャズ・シーンのアイコンとも言うべきシンガー、ホセ・ジェイムズは、これまでもアルバムごとにキャラクターを変えてきた。そんな彼がタトゥーの入った胸元を露出し、オルタナティヴR&Bへと振り切った新作『Love In A Time Of Madness』はまさに驚きの内容。みずから「僕のジャズのキャリアの終わりを告げる作品だ」と話すように、ホセにとってキャリアの分岐点となる作品だ。

そして本作の日本盤に収録された“Live Your Fantasy”のリミックスを手掛けているのが、昨年発表したファースト・アルバム『Sphere』が話題を集めたエクスペリメンタル・ソウル・バンドのWONK。彼ら自身、これまでのホセの作品から多大な影響を受けてきたということで、今回ホセが来日したタイミングにWONKの長塚健斗(ヴォーカル)、江﨑文武(キーボード)との初対面が実現。ジャズを起点に自身の音楽世界を広げる両者の会話は、非常に多岐に渡るものとなった。

JOSE JAMES Love In A Time Of Madness Blue Note/ユニバーサル(2017)

ホセの声をサンプリングしたWONKの新曲!?

――WONKの2人はこれまでホセの音楽をどう捉えてきました?

長塚健斗(WONK)「僕は大学に入ってからジャズを歌いはじめたんですけど、その頃からホセさんの作品にドハマりしちゃって。ホセさんが卒業したNYのニュースクールに、僕も入りたいと思っていたくらいなんです。結局行かなかったんだけど……」

ホセ・ジェイムズ「行かなくて正解だったと思うよ(笑)」

江﨑文武(WONK)「僕が大学のジャズ研に入ったときに、いちばんホットだったのがホセさんの『No Beginning No End』(2013年)だったんです。僕もめちゃくちゃ聴いたし、それ以外のアルバムからも勉強させてもらいました。WONKを結成するときもある種のお手本になったぐらいで」

ホセ・ジェイムズ『No Beginning No End』収録曲“Trouble”パフォーマンス映像
 

――彼の音楽のどのような部分に衝撃を受けたんですか?

江﨑「『No Beginning No End』は(ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2012年作)『Black Radio』と同時期の作品ですけど、ホセさんのアルバムはよりシンガー寄りに作られていて、なおかつバックはジャズやヒップホップが混ざり合ったネオ・ソウル的な音だった。ロバート・グラスパーの作品はやっぱり〈楽器の人〉が作る音楽という感じがしたんですけど、ホセさんの作品には、ヴォーカリスト主導でこういう作品が作られるようになったんだ、という新鮮味があったんです」

ホセ「それはおもしろい意見だね」

ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』収録曲“Black Radio”
 

――ホセさんは、WONKのアルバムは聴きました?

ホセ「いや、実はまだ聴けてないんだ。CDもらえない?」

長塚「もちろん!(と、WONKのアルバム『Sphere』を手渡す)」

ホセ「(『Sphere』のジャケットに貼られた〈Parental Advisory〉のマークを指して)これがいいね。このマークが入ってるのは良いアルバムの証拠なんだ(笑)。そうそう、もちろん“Live Your Fantasy”のWONKリミックスは聴いてるよ」

――いかがでした?

ホセ「アルバムに収録したんだから、嫌いなわけないよね(笑)」

――そりゃそうですね(笑)。

ホセ「物凄くクールなリミックスだと思ったよ。かつてのクインシー・ジョーンズがジャズもやればポップスもR&Bもやったように、ジャズにベースがありながら、それだけに囚われない音楽作りをやっいてる人たちは、いまや世界中にいる。バッドバッドノットグッドハイエイタス・カイヨーテもそうしたバンドのひとつだし、ブレインフィーダーのアーティストやWONKもそうだと思う。頭はジャズだけど、出てくる音はグローバル。ほんの数年前まで一部の人にしか知られていなかったそうしたアーティストが世界的に知られるようになっているわけで、すごくいい時代になったと思うよ。あと、自分よりも下の世代のミュージシャンをサポートしたいという気持ちが僕にはあってね。それもあってWONKにリミックスを依頼したんだ」

WONKの2016年作『Sphere』収録曲“Real Love”
 

――“Live Your Fantasy”の原曲はミアネポリス・ファンクに対するホセさんの愛情を強く感じさせる曲調ですけど、リミックスの話が来たとき、WONKのお2人はどう思いました?

長塚「〈絶対にやります!〉と答えました(笑)」

江﨑「どういう方向でリミックスするか、最初はすごく悩んだんですよ。まずは4つ打ちのビートを切り崩すために、ドラムのリズム・パターンから考えていこうと。それでビートを少しヨレたものに置き換えて、そこからコード進行を付けていきました。アルバムのいちばん最後に入ることがあらかじめ決まっていたので、ラストに相応しい〈締め感〉のあるものにしようと」

(左から)長塚健斗、江崎文武
 

長塚「あと、ヴォーカリストである僕がどう参加するかも悩みましたね。最終的には、原曲とまったく違うメロディーを僕が歌っちゃうというやり方に落ち着いたんですけど、出来上がったものをみんなで聴きながら、こんなに好き勝手やっていいのかな?と不安になりました(笑)」

江﨑「ホセさんの声をサンプリングして作ったWONKの新曲、みたいな感じなので……」

ホセ「オリジナルにはない新しい魅力を見つけ出すのがリミックスという手法なわけで、このリミックスもすごくクールだと思うよ。これまでいろんなDJに自分の音源を好き勝手に料理されてきたけど(笑)、そこがリミックスの醍醐味だからね。リミックスは何をしても構わないし、正解も間違いもない。まあ考えてみると、時間をかけて録音したビートやメロディーを削ったり切り刻んだりするわけだから、物凄くクレイジーな作業だと思うけど(笑)」

長塚「受け入れてもらえて本当に良かったです(笑)」

――ところで、オリジナルの“Live Your Fantasy”のビートはネイト・スミスのドラムをエディットしているんですよね。そういう手法を選んだのはなぜ?

ホセ「この曲では少し前のめりでリアルなファンク感を出したくてね。それで単なるループのビートじゃなくて、人間味のあるサウンド・プロダクションにしたかったんだ。MPCを叩くだけじゃ再現できないものがあって、ドラムやフェンダー・ローズのリアルな演奏が入ることで、そこにマジックが生まれる。人間味のあるリアルなサウンド・プロダクションが下地にあれば、その上に何を乗せても上手くいくんだ。あと、ネイト・スミスは僕よりちょっと年上で、しかも(ワシントン)DCの出身だから、ゴーゴーを叩かせても上手い。“Live Your Fantasy”ではゴーゴーのあのフィーリングも少し入れたくてね。あのフィーリングはやっぱり人間が叩かないと出ないものなんだよ」

――WONKもまさに生のドラムのビートをエディットし、グルーヴを作るというという方法で音源制作をしていますよね。

江﨑「そうですね。生のビートが持つ、ちょっとした揺らぎは僕らも大事にしています。最近もスタジオに入ってレコーディングしていたんですけど、若干ズレている演奏もそのまま活かしてみたり。誰もがズレのない完璧な演奏を聴きたいかというと、必ずしもそうじゃないと思うんですよ」

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