COLUMN

チェンバロ奏者ジャン・ロンドーの情熱―バッハ一族にバンドで挑んだ意欲的な新アルバムで展開するめくるめく冒険とは?

ジャン・ロンドー『ディナスティ―王家―~バッハ一族のチェンバロ協奏曲集』

(C)Baghir

 

語る情熱、踊る雄弁――バッハばっかのバンド盤

 ずっと語り続けていたら、ぜんぶ歌になって、そのまま踊っていた。そんな感じが、ひとつの理想じゃないか。ぼくはそう思ってきた。音楽であれ文章であれ、すべて語りの情熱のさきに、ロジックもレトリックも超えて、踊りだすときを待っているのだと。

 300年くらい前の音楽が時代環境を飛び立って、ぐるぐると踊っているように感じた。驚きの独楽が糸を離れ、思い描いた円も逸れて、遠くまで飛行したみたいに。それが突然、ぼくらの目の前に落っこちてきて、ジャン・ロンドーの弾く鍵盤の上のほうで廻っている。

 即興を盛り込みながら、装飾的な意匠よりも、ずんずんと道をかき分けるように前に進むロンドーの情熱には、まっすぐな意志と剛直な力強さがある。それでも、音のしぶきが鮮やかに飛び交うのを見送っていると、やはり舞踊としか呼べないような感覚の愉悦が湧いてくる。

 最初に目に飛び込んできた彼の姿は、とさかみたいな髪で、目を丸くしたポートレイト。『IMAGINE』と宣う、ロンドー23歳のバッハ・アルバムだ。時代を超えた編曲を織り込む構成はすごくまじめなのだが、どこかジョニー・ロットンを連想させて、こういう人を食ったみたいなのはちょっといいや、とまずは敬遠したくなった。でも、聴きはじめるとすぐ、才気よりも純粋さのほうに、ぐいぐいと惹きこまれた。あれこれ着飾る以前に、音楽へのまっすぐな没入が強い求心力をもつ演奏だった。素朴な意志と、率直な感興を覚えた。

 力強い表現だが、派手やかな華美よりも、どこか仄暗い孤独感を湛えている。バロックの修辞とか、ジャズの即興やタイム感とか、ロックの混交性や直情といった、ジャンルに分別して腑に落ちることではなくて、もっと一塊となった情熱を感じさせる。ジャン・ロンドーの音楽する心が、求めるところへダイレクトに向かっていったということなのだろう。

JEAN RONDEAU ディナスティ―王家―~バッハ一族のチェンバロ協奏曲集 Erato/ワーナー(2017)

 『IMAGINE』の後、翌2015年の録音で、ラモーロワイエを交互に織りなした『VERTIGO』という、文字どおり眩暈のようなソロのアルバムが続いた。そして、ゴルトベルク変奏曲での初来日も待ち遠しいところへ、第3作として『バッハ一族のチェンバロ協奏曲集』がやってきた。大バッハ、次男と末子の協奏曲の真ん中に、長男のラメントをロンドーの編曲で交えた、バッハばっかの意欲作だ。弦楽5重奏とバスーンとの小編成で、鍵盤弾きのバンド熱が燃え盛る。様式的な多彩さを飲み込み、めくるめく冒険が力強く勢いをもって展開していく。ロックとかバロックとか、そういうことは忘れて、まずストレートにジャン・ロンドー・バンドを聴いて、なんなら踊ったらいい。

 


LIVE INFORMATION

初の来日コンサート決定!
ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル
○4/9(日) 14:00 開演 会場:兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール(西宮)【完売】
○4/19(月) 19:00 開演 会場:東京文化会館 小ホール
○4/11(火) 18:45 開演 会場:宗治ホール(名古屋)
www.allegromusic.co.jp/JeanRondeau2017.html

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