底抜けにハッピーで、涙が出るほどロマンティック。ウェールズはカーディフ出身の男女混成バンド、ロス・キャンペシーノス!の音楽性を一言で言い表すなら、そんなフレーズがぴったりだろう。振り返れば、彼らはデビュー当時から異端な存在だった。ロスキャンが最初のEP『Sticking Fingers Into Sockets』をリリースした2007年といえば、雨後の竹の子の如く現れたUKロック・バンドの多くがみるみる失速し、ブルックリンを震源地としたUSインディー・シーンがまさにピークを迎えようとする時代の転換点。それに、ブロークン・ソーシャル・シーンアーケイド・ファイアといったカナダ勢の活躍もあって大所帯バンドは飽和状態だったし、あまりにも青臭く元気ハツラツなライヴ・パフォーマンスからも、とても息の長い活動ができるタイプには見えなかった。

しかし、いまや彼らも10年選手の中堅だ。これまでに発表した5枚のアルバムは、お世辞にも商業的成功を果たしたとは言い難いが、欧米メディアからの評価は常にオールA。ワールド・ツアーを行えば世界中から熱狂的なファンが駆け付けて大合唱を巻き起こすというし、独立独歩ながらもバンドとしての理想的なキャリアを歩み続けている。このたび4年ぶりにリリースされた新作『Sick Scenes』は、ロスキャンにしては珍しいブランクを補って余りあるエネルギーに満ちており、リード曲“I Broke Up In Amarante”のように、どこか原点回帰を思わせるフレッシュな解放感が心地良い意欲作だ。

幾度ものメンバー・チャンジと解散危機を乗り越えつつも、決して円熟には向かわない彼らのモットーとは? ここでは、フロントマン/作詞担当のギャレス・キャンペシーノス!に、デビューEPから新作に至るバンドの10年史を各作品を通して振り返ってもらった。

 

僕らは何よりロス・キャンペシーノス!に影響を受けている

――ロス・キャンペシーノス!として作曲するうえで、特に大切にしていることはなんですか? 10年におよぶ活動期間のなかで、変化した部分と一貫している部分についても教えてください。

「曲はトム(・キャンペシーノス!)が書いているから、僕は歌詞に関してしか答えられないけど、変わっていないのは、歌詞を常にひとりで書くということと、それが常に自分のフィーリングや経験に基づいているということ。そして、〈オープン〉であることだね。本当はもっとストーリー性を持たせたり、詩みたいにしてみたいとも思うけど、僕にはそういうふうに書く能力がない。代わりに僕ができることは、誠実な歌詞を書くことなんだ。それは大切だし、ずっと変わらないよ」

ラモーンズと同様に、新旧のメンバー全員がキャンペシーノス!姓を名乗っている

――変わったことに関してはいかがでしょう?

「明らかに変わったのはラインナップ。曲と歌詞を書くのは主にトムと僕だから、みんな自分たちも他のことをやってみたいという気持ちもあったし、ミュージシャン以外の職に就きたいメンバーもいたし、理由はさまざまだ。でも、いまもみんなと友達だということは変わらないけどね。長く活動していたり、ツアーでずっと一緒にいたりすると、飽きることだってある。でも新しいメンバーが加わると、活動やツアーの旅がすごく新鮮になるんだ。フレッシュな感覚を取り戻せるし、また楽しくなるんだよ。そうやって、パッションが尽きることなくどんどん膨らんでいっているんだと思う。10年も続けられているのはそこが理由じゃないかな。だからこそ、みんな僕たちの音楽を聴き続けてくれるんだろうと思うしね!」

2008年作『Hold On Now, Youngster...』収録曲“Sweet Dreams, Sweet Cheeks”のライヴ映像
 

――音楽的な変化についてはどうですか?

「最初はただ音楽を書いていたけど、やっぱり長く活動しているから、ミュージシャンとして成長したとは思うよ。トムはデビュー当時、ギターの演奏経験があるというだけの状態で曲を書いていたけれど、いまでは素晴らしいソングライターであり、プロデューサーでもある。曲自体は、最初はとにかくいろいろなものを集めてエネルギーが爆発するような感じだったと思う。いまはそのときより落ち着いているけど、僕らの音楽そのものが持つエネルギーや勢いは変わらないよ」

――そういった〈ロス・キャンペシーノス!らしさ〉に大きな影響を与えた存在を、いくつか教えてください。

「バンドを結成したときは、ペイヴメントソニック・ユースなんかに影響を受けていた。でも、いまは……〈え?〉って思われるかもしれないけど、何よりロス・キャンペシーノス!の音楽に影響を受けているんだ(笑)。アルバムを書くたびに、自分たちの前作から影響を受けて曲を書いている。それをもとに、より良いものを作ろうと心掛けているんだ。歌詞の面で言えば、僕自身はニック・ケイヴからたくさんの影響を受けているかな」

 

10年前の自分の写真を見ている感じ

LOS CAMPESINOS! Sticking Fingers Into Sockets Wichita(2007)

――アルバムの話に入る前に、初期からのファンにとってこの初EPはハズせないと思います。『Hold On Now, Youngster...』の2曲がすでに収録されていますし、ペイヴメント“Frontwards”のカヴァーも印象的でしたよね。当時の忘れられないエピソードは何かありますか?

「ヘンな話、リリースしたことを忘れちゃうくらいなんだよね。大学で忙しかったし、何もかもがめまぐるしくて……。最初のレコードだし、出来が恥ずかしいわけではないけど、正直あまり気に入っていないトラックもいくつかある(苦笑)。10年前の自分の写真を見ている感じかな。10年前の自分の写真って、恥ずかしてく見るのもイヤじゃない(笑)? でも同時に、みんなから注目されるきっかけになったレコードでもある。だから、日記の一部だね。ある金曜日、朝は大学に行って授業を受けて、そこからすぐ空港に向かってバルセロナへ飛んで、初めて海外でギグをやって、酔っ払って、その足でまた月曜に飛行機で帰って、大学に戻って授業を受けたんだ(笑)。あれは超クレイジーだったし、何かもが初めての経験だったから楽しかったなぁ」

 

一番成功したレコードのうちの1枚だと思う

LOS CAMPESINOS! Hold On Now, Youngster... Wichita/HOSTESS(2008)

――先述のEPに引き続き、ブロークン・ソーシャル・シーンとの仕事で知られるデヴィッド・ニューフェルドがプロデュースを手掛けたアルバムです。Pitchforkをはじめアメリカのメディアでも高く評価され、“You! Me! Dancing!”は後にバドワイザーのCMに起用されるなど大ヒットしましたが、あなたたち自身はどんな手応えを感じていましたか?

「一番成功したレコードのうちの1枚だと思うし、プロモーションにも一番お金が掛かっているね。バドワイザーからのオファーは、その成功とプロモーションの成果だと思う。CMに起用されたことで入ったお金は、個々人では一銭ももらわず、バンドの銀行口座に即貯金して、すべてツアーに使ったんだ。ギグのオファーが入るたびに、その口座からお金を引き出していた。パブのTVでスポーツ番組を見ていて、CMやハーフタイムに自分たちの曲がかかるのは、なんとも言えないフィーリングだったけどね(笑)」

 

ジョン・グッドマンソンを選んで本当に良かった

LOS CAMPESINOS! We Are Beautiful, We Are Doomed Wichita/HOSTESS(2008)

――デビュー作からわずか33週後にリリースされたことも驚きでしたが、あなたたちのクリエイティヴィティーが爆発していた時期だったかと思います。当時はもう〈曲とアイデアが溢れてしょうがない!〉という状況だったのでしょうか?

「このアルバムには、日本でやったショウのDVDが付いていたんだよね。〈サマソニ〉だっけ? すっごく暑かったよなあ……(苦笑)。あの当時はツアーをいっぱいやったし、新しい人々との出会いもたくさんあったし、その状況はすごく刺激的だった。だから、アイデアは豊富にあったと思うね。あと、当時はパレンセティカル・ガールズからもすごく刺激を受けていたんだ。彼らとツアーをやったあと、即スタジオに入ってレコーディングしたから、彼らからの影響も音に反映されていると思う」

――現在もバンドのコラボレーターとしてお馴染みの、ジョン・グッドマンソンが初めてプロデュースを手掛けたアルバムでもありますね。そもそも彼と出会ったきっかけは? また、ロスキャンにとってジョンはどんな存在なのでしょうか。

「彼は『Hold On Now, Youngster...』でもミックスを手掛けてくれたんだけど、あのレコードで僕たちがミックスで手こずっていたときに、(所属レーベルの)ウィチタが何人か候補を出してくれて、そのなかの一人がジョンだったんだ。彼を選んで本当に良かったよ。出会ったときから素晴らしい信頼関係が築けているからね。もう何年も一緒に過ごしているから、僕たちのことを本当に理解してくれているし、どんな音楽を作りたがっているのかもすぐ理解してくれる。僕たちに自信を与えてくれる存在だね」

パレンセティカル・ガールズの2008年作『Entanglements』収録曲“A Song For Ellie Greenwich”

 

一番長い時間をレコーディングに費やした、ダークな作品

LOS CAMPESINOS! Romance Is Boring Wichita/HOSTESS(2010)

――シュ・シュジェイミー・スチュワートや、パレンセティカル・ガールズのザック・ペニントンといった外部からのゲストを招いたほか、本作をもってアレクサンドラが脱退するなど、バンドにとってのターニング・ポイントと呼べるアルバムだったのではないかと思います。歌詞も少しダークになっていますが、当時はどんな心境で制作されましたか?

「どんな心境だったかなあ……。ていうか、なんでダークになったんだろう? 前より歳も取っているし、いろいろな経験を積んだからだと思う。あと、ツアーって楽しいんだけど、メンタル的にちょっと参ってしまうこともあったんだよね。それに、このアルバムはロス・キャンペシーノス!のアルバムのなかで一番長い時間を費やしてレコーディングした作品なんだけど、2009年からレコーディングを始めて、半分はコネチカット、もう半分はシアトルで録音したんだ。前よりも時間が長かったぶん、歌詞のディテールに時間をかけることができたんだよね。それも歌詞の内容に影響していると思うよ!」

シュ・シュの2010年作『Dear God, I Hate Myself』収録曲“Dear God, I Hate Myself”