(C)Crypton Future Media,INC.www.piapro.netphoto by 高田真希子

 

冨田勲の遺作となった《ドクター・コッペリウス》、追悼公演での人々の想いと共に

 昨年11月11日、12日に渋谷のオーチャードホールで行われた冨田勲×初音ミク《ドクター・コッペリウス》コンサートのライヴ盤が早くも登場した。

冨田勲 ドクター・コッペリウス コロムビア(2017)

 「ドクター・コッペリウス」は冨田が昨年5月の死の直前までとりかかっていた遺作である。2012年発表のオケ作品「イーハトーヴ交響曲」で歌い舞ったヴァーチャル・シンガー初音ミクが、今回はバレエ衣装をまとい、オケ(シンセサイザー込み)と合唱団をバックに本物のダンサーたちと共に踊るという斬新なスペース・バレエ・シンフォニーで、冨田が個人的に縁のあった “日本のロケット開発の父”糸川英夫の人生に日本民話の「羽衣伝説」を絡めながら、“重力のしがらみを乗り越えようとする人間の情熱”を描き出した複合アート作品だ。残念ながら完成には至らなかったが、残されたスタッフが冨田の指示に従って仕上げた総譜がこの初演版では用いられた。

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 冨田の遺稿を元に完成させられた第3~第7の五つの楽章(第1、第2楽章は欠番)の前に、最近発見された冨田の昔のシンセサイザー音源等から構成された第0楽章を加えた全6楽章で、約48分の大作。その第0楽章「飛翔する生命体」のスペイシーな電子音に導かれる形で第3楽章からフルオケの演奏がダイナミックに展開。「イーハトーヴ交響曲」でも随所でラフマニノフダンディ等の作品のメロディを援用していたが、本作でもヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ」やレオ・ドリーブ「コッペリア」、リヒャルト・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」をモティーフとして使用。豊潤な色彩感をまとったオーケストレイションとそれに溶け込む銀河のごとき電子音が織りなす音響空間は、まさに冨田勲ならでは。本来はライヴ・パフォーマンスを体験して初めてその真価が問われるべき作品ではあるが、こうして音だけを聴いてみても、冨田ならではの世界観、哲学が横溢した作品であることが改めてわかった次第。今年は再演も予定されているようだが、今後、オケ作品としてより彫琢されてゆく可能性もあるのではなかろうか。