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老若男女問わず、みんなが恋してしまうバンド

――サウンドはもちろん、晴子さんの書く歌詞にもすごく不思議な魅力がありますよね。〈アニエス・ベー〉や〈ソマリア沖〉といった固有名詞が出てくるかと思えば、すごく抽象的な表現も多くて。

真舘「ありがとうございます。私は、何かを表したいときに他のことに喩えることが多いんですよ。例えば、いまのこの場の雰囲気を描写するときに、すごく遠いところにあるもので喩えてみる。そうやって自分だけの言い方で表現しても、伝わるべきことは伝わるんじゃないかという想いもあって」

片寄「きっと、そういう表現じゃないと伝えられないことが、晴子ちゃんのなかにはあるんだろうね。彼女のツイートや送られてくるLINEを読んでも、良い意味で言語感覚がおかしいんですよ(笑)。“waltz”の歌詞の、〈叫びのようで美しい〉とかもそうだし、すごく引っかかる言葉が多い。なにより不思議なんだけど、綺麗な言葉使いだなって思います」

――そうですよね。

片寄「かと思えば、朱音ちゃんが“サウザンド・ビネガー”で使った〈センスなし子〉も、強烈なフレーズだよね(笑)。でも、僕があの曲の歌詞で好きなのは、〈さて会えたはいいけれど〉の〈さて〉! 歌のなかでの使い方がとてもユニークだと思う。テーマ自体も文学的というか哲学的というか(笑)」

――確かに。〈君は今私の前にいて 私は今君の前にいる 当たり前だと君は言ったけど 果たして本当にそうだろうか〉とか、すごく達観した視点だなと思いました。

片寄「そうそう(笑)。根源的な問いだよね。しかもこれ、高校生の時に初めて書いた歌詞なんでしょう?」

渡辺「はい。高2のときだから17歳でした」

和久利「朱音は話し言葉もそんな感じなんだよね。歌詞の〈はたして本当にそうだろうか〉とかすごく朱音っぽい」

渡辺「別に、そんなに読書が好きなわけでもないし、自分では文学的なつもりは全然ないんですよね。ただ、すごく〈気にしい〉で、相手がどう思っているかとか、いろんなことを気にしてグルグル考えちゃうんです。例えば、泉は何かあったら話してくれるからわかるんですけど、晴子は言わないけど言いたい雰囲気を出すんですよ(笑)。そういうのが気になってしまい彼女と喧嘩したこともあって。〈言わなきゃわかんないじゃん!〉って」

片寄「ハハハハ。とにかく、偶然なのかもしれないけど、“サウザンド・ビネガー”は哲学的な領域まで踏み込んだ曲だよね。ずいぶん昔に作った曲だから、本人たちは〈恥ずかしい〉と言っていたんだけど、僕はものすごく良い曲だなと思ってね。〈絶対レコーディングすべきだよ!〉と言いました」

和久利「あと、今回はコーラスワークにも片寄さんは貢献してくれたんですよ。4曲それぞれ全然違う種類のコーラスになっていて、曲の印象を変えてくれた気がする」

片寄「泉ちゃんと朱音ちゃんは2人とも歌えるし、コーラスがすごく良いんですよ。トリオ・バンドで鍵盤がいないなら、やっぱり声で厚みを出したくなるじゃないですか。コーラスを入れるだけで、楽曲の幅はぐっと拡がるし、そこは強調したいなと思いました。彼女たちのアイデアを聞いた上で考えましたね」

2016年のミニ・アルバム『シーサイド81』収録曲“鉄道”
 

――演奏能力も、作品を出すごとにどんどん進化していますよね。成長の過程が刻まれているというか。

渡辺「ほんとですよね。原始人から、だんだん現代人になっていくみたいな(笑)」

和久利「初期の音源を聴き直してみると、あれと同じことをいまやろうとしても逆に難しいなと思う(笑)」

真舘「今回は“waltz”で初めて16ビートのカッティングをやってみたんです。片寄さんから、〈この曲に入れてみたらどうかな?〉と言われて。できないながら挑戦してみたら、すごく楽しかった。〈これは絶対できるようになりたい!〉と思って一所懸命練習しました〉

片寄「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが好きだというから、それならヴェルヴェッツ後期みたいな16ビートのカッティングも絶対好きだろうと思ったんですよね。あと、リズム隊の2人もかなりおもしろいグルーヴを持っていて、意外とファンキーなところもあるんです。なのでドラムの音作りにもこだわりたくて、スタジオにGREAT3の(白根)賢一先生をお呼びしました(笑)。彼も朱音ちゃんをめちゃめちゃ褒めていたよ。〈俺が叩くよりも良い音してる!〉って」

渡辺「光栄です!」

――“Thursday”後半のノイズ・ギターと、シンセの絡みもカッコいいですよね。

片寄「あれはシンセじゃなくてギターで、とあるペダル・エフェクターを踏んで出した音なんです。ただ、晴子ちゃんはギターを弾くことでいっぱいいっぱいになっていたから、エフェクターを切り替える役は僕が担当しました。彼女の足元に跪いて、ここぞというタイミングでペダルを押して(笑)」

和久利「私たちは、〈片寄さんになんてことをさせているんだろう〉とヒヤヒヤしながら見守っていましたね(笑)。そうしたら晴子のギターからものすごい爆音が出て、超テンション上がりました」

真舘「最初、“Thursday”は英語詞にしようと思っていたんですよ。でも、片寄さんがレコーディングのときに、〈これは日本語のほうがいいよ〉と言ってくれて〈はっ!〉となった。きっと、英語で何かを隠そうと思っていたんですよね。それをちゃんと日本語で歌うことで、自分の気持ちがすごく開放されたし、音楽的にも〈私たちの曲〉と思えるようになった。日本語にして良かったな」

片寄「この歌詞に関しては、2人も気に入っているみたいだよね。〈晴子がこんなこと歌ってる!〉って」

和久利「そうそう。〈愛〉や〈光〉という単語に驚きました。とにかく恥ずかしがり屋で、高校生の頃は登校中に誰にも会いたくないという理由で、先生に怒られるくらい朝早く登校していた晴子が、こんな言葉を使っているなんて!」

――ハハハ(笑)。“Thursday”の歌詞を書けたことで、晴子さんの意識もだいぶ変わりました?

真舘「はい。いままで行ったことのない場所まで行けた気がします。隠しすぎるのも自分にとって良いわけじゃないなって。せっかくこうやって音楽をやっているのだから、自分を曝け出す気持ちも大切だなと思えました」

片寄「自分を曝け出すことは、ときに恥ずかしいと思うところまでやらないと、人には伝わらないんですよね。多かれ少なかれみんな自意識過剰だから、自分ではかなり恥ずかしいことを言っちゃったなと思っていても、聴き手の心に引っかかるまでには全然至らずに、聴き流されてしまうことも多い。〈恥ずかしい〉と思われるレヴェルにまで自分を出して、ようやく人の心を動かすことができるんだよね。それに、晴子ちゃんの声があれば、何でも言えるなって僕は思うんだよ。どんな照れくさいことを歌っても恥ずかしさがなく、心に真っ直ぐ響いてくる声だから」

――晴子さんの歌声は、透明感と説得力の両方を併せ持っていますよね。では、あらためて3人が片寄さんと一緒に制作した感想を教えてください。

和久利「自分たちの作品がこんなところにまで辿り着けるなんて思ってなかったです。もちろん、それができたのは、ずっと片寄さんが私たちと並走してくださったから。さらに、お水を渡してくださって、タオルをかけてくださって」

片寄「あははは」

和久利「一緒に完走していただいて、それで出来上がったものが、自分たちにとってすごく大切な作品に仕上がった。本当に嬉しいです」

――プロデューサー冥利に尽きますね。

片寄「そうですね。自分の名前もクレジットされるわけだし、恥ずかしくないものを作るというのは当然なんだけど、(このEPに関しては)それ以上に自分もTWBのメンバーの1人として、楽しみながら作りました。そういう意味でも、この作品は特に思い入れが深くなりそうです。TWBは3人の佇まいが本当に素敵で、その雰囲気や表情のなかからこういう音楽が出てくる。(音源だけじゃなく)ぜひライヴでも、そのさまを観ていただきたいですね。老若男女問わず、みんなが恋してしまうバンドだと思います」

 

Live Infomation
〈The Wisely Brothers HEMMING UP! TOUR〉

2017年4月5日(水)大阪・心斎橋Pangea
共演:Special Favorite Music/プププランド
2017年4月6日(木)名古屋 K・D ハポン
共演:THE FULL TEENZ/ハポン。
2017年4月26日(水)東京・渋谷TSUTAYA o-nest
※ワンマン公演
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