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昔とは違う視点

 そのように刺激的な楽曲の装填された『HIT』だが、いつも以上に受け手をヒットするのは、深みを増した歌詞の世界もそうかもしれない。なかでもトロピカル・ハウスをうっすら下地にまぶして静かなメッセージで世の中を見つめる“誰もがダンサー”は、大知自身による詞が深く刺さってくる。

 「嬉しいですね。“誰もがダンサー”は、自分がダンスで注目していただけているっていう現状もあるので、ダンスに例えて何かを書くのもおもしろいかなと思った時に、みんなが踊っているように見えるというか、踊っている時も踊らされてる時もあるけど、みんなそれぞれの場所で踊ってるし、闘ってるんだという部分に繋がるんじゃないかと思って。それを〈誰もがダンサー〉っていう言葉に落とし込んだ感じです。同じことを繰り返す日常で、開けているようで広がりがないみたいな感覚に陥ったりする時もあるじゃないですか。それでもやっぱりやり続けることが大事で。“Darkest Before Dawn”もそうですけど、うまくいかないことや報われないことのほうが多いけど、だからこそ幸せがあるっていうか、そういう部分が歌えたらいいなと思っていたので」。

 そこから伝わるのは、“Darkest Before Dawn”に顕著なNao’ymtの言葉の深みに、大知の成熟が追いついたかのような一体感だ。その雰囲気が全体を包むことで、この『HIT』という表題に〈心を打つ〉という意味が生まれている。

 「たぶん、それがいま自分にとってリアルになってきたんじゃないですかね。R&Bマナーとして恋愛の歌だったり、片思いの歌だったり、そういうものはもちろんこれからも歌うだろうし、エンターテイメントのひとつですけど、多少ノンフィクションで自分が思っていることを歌詞にしようとした時に、そういう人生観がリアルになってきたというか。もちろん“Darkroom”みたいにフィクションっぽく書いたりもしますけど、それでも何か1つ自分が言いたいことを入れたいという欲も出てきたので。まだまだ作詞もわからないことだらけですけど、確かに昔とは違う視点になってきた気はします」。

 よく考えると、Folder時代から数えて今年でデビュー20周年。8月には30歳の節目を迎えるわけで、こうした変化も必然だろう。それがまた大知のグッド・ミュージックを進化させていくに違いない。

 「もちろん〈ああ、これだけ続けさせてもらえたんだな〉っていう感謝の気持ちを皆さんに返していきたいなって感じてますし、だからこそ〈がんばらないとな〉みたいなところですよね。やっぱり1年目があったから20周年があるわけで、そういう積み重ねをコツコツやるのが〈三浦大知らしさ〉だと思っているので、いままで以上にしっかり自分をアップデートしていかなきゃいけないなって。この先どうなるかはわからないですけど、JBやマイケルみたいにその年代だからこそ出せるカッコ良さも絶対あると思うんですよ。自分も歌とダンスが年齢やキャリアとうまくシンクロして、ずっと続けられたら最高だなと思ってます」。

 間に休止期間はあるものの、20年間も理想を追求しながら最前線で活動できるアーティストもそうはいないだろう。だからこそ、20年目のキックオフに“EXCITE”がキャリア初のオリコン首位を獲得したのは、良いボーナスだったのかもしれない。

 「ホントそう思います。逆に言うと、これが1~2年目とかじゃなくて良かったんだなとも思うし、それも〈やっぱり続けてきたからだな〉って思えるので、うん、浮き足立つことなく、いままで通りコツコツ行けたらいいなと思います。このアルバムはもう『HIT』ってタイトルを付けちゃったんで、多少はヒットしてもらわないと困りますけど(笑)」。