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ゴールドフラップが歩む変幻自在のアート・ポップ道と、ビョークに通じる神秘性帯びたエレクトロニックな新境地を紐解く

ゴールドフラップ『Silver Eye』

ゴールドフラップが歩む変幻自在のアート・ポップ道と、ビョークに通じる神秘性帯びたエレクトロニックな新境地を紐解く

〈ポーティスヘッドの再来〉と評された2000年のデビュー作『Felt Mountain』を皮切りに、モードを次々と切り替えながらセールス/批評の両面で成功を収めてきたUKの男女ユニット、ゴールドフラップが通算7枚目となるニュー・アルバム『Silver Eye』をリリースした。ハクサン・クロークとジョン・コングルトンを共同プロデューサーに迎えた本作で、2人はさらに深化した音楽観をアピール。かのレディー・ガガもリミキサーとして起用するなど、世界的に愛されてきた彼女たちの新境地とは? これまでの歩みと最新モードについて、音楽ライターの新谷洋子氏に解説してもらった。 *Mikiki編集部

GOLDFRAPP Silver Eye Mute/TRAFFIC(2017)

 

次々に異なるペルソナを演じる、変幻自在のアート・ポップ道

ゴールドフラップの新作『Silver Eye』からエレクトロ・ディスコ仕立てのファースト・シングル“Anymore”が先行でお披露目された時、彼らを知る人なら、〈うん、やっぱりこう来たね〉と大きく頷いたのではないかと思う。ネガティヴな意味での〈想定内〉だと言っているわけではない。2013年の前作『Tales Of Us』でダウンテンポなアンビエンスを掘り下げて我々を魅了したふたりは、次はまったく違う試みで驚かせてくれるだろうと確信していたからにほかならない。

そう、アリソン・ゴールドフラップとウィル・グレゴリーの英国人コンビの20年近いキャリアを振り返ってみると、ひとつのパターンが浮き彫りになる。大学でクラシック音楽を学んで、広くテレビや映画の世界で作曲を手掛けていたウィルと、大学ではアートを専攻してシンガー兼パフォーマンス・アーティストとして活動していたアリソンは、99年にゴールドフラップを結成(彼らはちなみに、純粋にクリエイティヴなプラトニックな関係にある)。翌年にミュートから初作『Felt Mountain』を送り出し、ジョン・バリーやニーノ・ロータの影響を感じさせるシネマティックなサウンドスケープで無二の美意識を印象付けて、さっそくマーキュリー賞候補に挙がった。

が、2作目『Black Cherry』(2003年)での彼らはアナログ・シンセを駆使したエレクトロニック・サウンドを鳴らし、ディスコ・チューンと呼ぶべき“Strict Machine”で初めてUKトップ10入り。旺盛なポップ・センスを仄めかせたのち、3作目の『Supernature』(2005年)でさらにグラマラスなダンス・ポップを掘り下げて、“Ooh La La”と“Number 1”という2曲のUKトップ10ヒットが生まれた。ブリット・アウォーズではベスト・ブリティッシュ・ダンス・アクトに、グラミー賞では最優秀ダンス・レコーディングとダンス/エレクトロニカ・アルバム賞にノミネートされ、ここにきてすっかりダンス・アクトとして世界的に認知されるのだ。

2000年作『Felt Mountain』収録曲“Lovely Head”
 
2005年作『Supernature』収録曲“Ooh La La”
 

しかしこのあとも、ふたりはいい意味で人々を混乱させ続け、4作目『Seventh Tree』(2008年)はドリーミーなフォークトロニカ路線を打ち出し、かと思えば次はダンス・ポップ路線の『Head First』(2010年)でキャッチーさを極め、逆に『Tales Of Us』でくるりと踵を返して引き算の美学を追求……。つまり、ひとつ前の作品に反発するようにして、オーケストラル、エレクトロニック、ダウンテンポ、アップテンポ、ヘッドフォン向け、フロア向け……と、毎回アルバムごとに完結した世界を提示。次々に異なるペルソナを演じるアリソンを前面に押し出したヴィジュアル表現でも、強烈なインパクトを刻みながら、トレンドとは一線を画した変幻自在のアート・ポップ道を突き進んできた。

2008年作『Seventh Tree』収録曲“Happiness”
 
2010年作『Head First』収録曲“Rocket”

 

自然界に根差したメタファーがちりばめられた実験的サウンド

そして今回も『Tales Of Us』とは対照的なエレクトロニック路線にシフトして、4年ぶりの新作『Silver Eye』を完成。そもそもセルフ・プロデュースを基本にしているゴールドフラップも、『Seventh Tree』以降は外部プロデューサーを時折交えるようになったが、本作ではジョン・コングルトンとハクサン・クロークことボビー・ケリックという、ふたりの奇才を共同プロデューサーに迎えている。

ジョンは、いずれも高い評価を浴びたセイント・ヴィンセント『St. Vincent』(2014年)やジョン・グラント『Grey Tickles, Black Pressure』(2015年)、ワイルド・ビースツ『Boy King』などを手掛け、ボビーは自身の活動のほか、近年はビョークの『Vulnicura』(2015年)やラー『Spiritual Songs For Lovers To Sing』(2016年)でのコラボで注目を浴びた。ほかにも、ブライアン・イーノのコラボレーターとして知られるレオ・エイブラハムズも数曲に関わり、ミックスとプログラミングには、FKAツイッグスの『LP1』やカリブーの『Our Love』(共に2014年)にクレジットがあるデヴィッド・レンチを起用。テクスチャー作りにおける両者の貢献も大きかったといい、いつになく積極的にコラボレーションを行なっている。

ハクサン・クロークとアルカが参加したビョーク『Vulnicura』収録曲“Family”
 

そんなオープンなスタンスをもたらしたのは、もしかしたら近年のサイド・プロジェクトでの体験なのかもしれない、2011年にウィルは初のオペラ作品『Piccard In Space』を発表し、昨年はふたりで英国のナショナル・シアターが上演したギリシャ悲劇『Medea』の音楽制作を担当したりと、活動の場を広げていた。どちらにせよ、本作でのゴールドフラップは間違いなくエレクトロニックではあるものの、クセのあるメンツを揃えただけあって、今までになく不穏で妖しい底流に貫かれたアルバムを仕上げている。ポップには傾かず、神秘的な趣を満々と湛えていて。

そのテーマは、曲を聴き進めるうちに徐々に明らかになってゆく。まずは自然の力、さらには、自然が与えてくれた変身・変容の能力――と総括できそうだ。彼女たちがたびたび言及している月を筆頭に、水から獣まで自然界に根差したメタファーが全編にちりばめられ、溶けたメタルのようなテクスチャーの、時にヴァイオレントなマシーン・ミュージックが、ワイルドな空間をダイナミックに描き出す。冒頭に配置された“Anymore”は〈向こう側〉に突き抜ける願望を歌い、反復的な構成の“Become The One”はトランスジェンダーの子供たちをテーマにしたドキュメンタリー映画「My Transgender Summer Camp」にインスパイアされ、“Systemagic”では女性の肉体と深い関係のある月を讃える……といった具合に。コラボレーターの持ち味も音にくっきり表れており、“Systemagic”や“Moon In Your Mouth”の肉感的な音色がジョンらしいとしたら、中盤のアブストラクトかつアトモスフェリックな長尺の2曲、“Faux Suede Drifter”と“Zodiac Black”はクレジットを見ずとも、ハクサン・クロークが関わったとわかるだろう。

カナリア諸島の火山島フエルテヴェントゥラ島で撮影されたアートワークもまた、これらの曲のテーマの延長にあるもので、すべてアリソンがみずから撮影したものだ。ストーリー仕立ての歌詞は具体的なメッセージを発信しているわけではないが、実験的なエレクロニック・サウンドに自然を語らせるというのは、ハドソン・モホークらの手を借りたアルバム『Hopelessness』(2016年)でのアノーニの試みや、ビョークの諸作品に重なるアプローチでもある。ラストの“Ocean”の弾けるシンセの音が想起させるのは、まさに火口から噴き出す溶岩。一種の畏敬を抱かせてフィナーレに向かい、想定内どころか、ふと気付くとまったく予期していなかった場所に辿り着いていた。

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