70~80年代の歌謡曲や邦楽ポップスから受け継いだメロウ・マインドとスピリットをみずからの作品へと艶やかに還元してきたシンガーが、新作で聴かせるさらなる本気!

 70~80年代の歌謡曲やブラック・ミュージックから授かったメロウ・マインドを、自身の作品へとロマンティックに映し出してきたシンガー・ソングライター、中田裕二。2011年のソロ・デビュー以来、年イチのペースでコンスタントにアルバムを届けてきた彼だが、昨年はシングルを2枚……。

 「いまの時代、シングル盤を出す理由ってあまりないのかなって思ったりもするけど、でも、なにかしらチャレンジしたいと思ったときに、アルバム単位だとかなりの冒険になるから、そういう点でシングルには意味があって」。

中田裕二 thickness インペリアル(2017)

 ロッカバラード“ただひとつの太陽”、煌びやかなシンセ・サウンドを採り入れたファンク“THE OPERATION”と、それまでの作風にはあまり聴かれなかったテイストを盛り込んだ2枚のシングルを経て、さて、ニュー・アルバム『thickness』だ。まず、昨年暮れのワンマン・ライヴでアルバムの予告として披露された“静かなる三日月”が意表を突く楽曲で。

 「遊び心を取り戻したいなっていう気持ちもあって。こういうカントリー&ウェスタンみたいな曲は、前からやりたかったんですよ。あとはその、前の『LIBERTY』がAOR感の強いアルバムだったんだけど、去年あたり……そう、(生まれ故郷である)熊本で震災があった頃から、曲を作るうえでイメージする画が砂漠だったり荒野だったり、自然の景色が多くなっていったんです。言い方はあれですけど、ちゃらちゃらした気分にはなれなかった時期があって」。

 昨年のシングルの延長にある冒険心に溢れた“静かなる三日月”をはじめ、アルバムとしてのまとまりよりも、アルバムゆえのヴァラエティー性を強く打ち出した『thickness』。リード曲としてMVも公開されたR&Bテイストの“Deeper”では、徹底して音数を削ぎ、歌声を際立たせることによって、シンガーとしての本気っぷりを見せている。

 「音を抜いていこうっていうのは、ハッキリとした意識があってのことで。やっぱり、海外の同世代のシンガーとかって、すごくシンプルな音でやってたりするから、そういうふうにやれたらいいなあとも前から思ってて。以前はそういう気持ちに実力が追いついてないなと思ってたところがあったんだけど、もう〈間が持つ〉声になってきたんじゃないかと思ったんですよね。これを作ってるときはそういう目的と実力のギャップはなくなってました。ピッタリやりたいこととやることの息が合った。“Deeper”に関しては不思議な曲が出来たなっていう感触があったし、結構オリジナルなものが出来たかも!っていう実感があって」。

 そのほか、「久々に8ビートをやったらしんどかった(笑)。イメージ的には初期ジャーニー(笑)」という70年代アメリカン・ロック的風合いの“リビルド”、フィル・スペクター調のポップ・ナンバー“愛に気づけよ”など、全体的にはいつも以上にヴィンテージなニュアンスを感じさせるところも。

 「60年代のソウルとかポップスとかをよく聴いていたせいもあって、結構懐かしい曲調が多いかもなあって思います。音の感触もあえて古い質感、アナログな質感……イマドキはハイパーな音が多いから、あえて。あと最近、ミシェル・ルグランに憧れてて。ジャズ・ピアノのプレイヤーとしてもすごいし、歌も歌うし、クラシックもやるし、サントラとかいろんなタイプの音楽ができる人。こういう音楽を聴いてると、俺もまだまだやることがあるなあって思うんですよね」。

 これまでの積み重ねによって出来上がっていった音楽的な〈厚み〉を感じさせる、まさにタイトル通りのアルバム『thickness』。その出来に、彼自身も十分満足しているようだが……。

 「今年はもう一枚出したいなっていうぐらいの勢いで。あと、去年は〈ジャジー・エクスペリエンス〉とかこれまでとは一風変わったスタイルのライヴをやったり、TVにもちょこちょこ出たり……で、一年を振り返って思ったのは、中田裕二って〈何の人〉なのかっていうことがみんなにちゃんと伝わってるだろうかって。カヴァー曲歌ってる人って思ってる人もいるだろうし、そのへんが散漫になってるんじゃないかなって思うから、今年はそこをきゅっと固めていきたいですね」。

中田裕二の近作を紹介。