スガダイローとジェイソン・モラン。日米のジャズ・シーンを代表する異能ピアニストが、昨年末にNYのスタインウェイ工場を舞台に行われた即興対決イヴェント"BOYCOTT RHYTHM MACHINE WORLDWIDE VERSUS I”での共演を経て、今年4月に日本にて再コラボが実現する。〈スガダイローとJASON MORANと東京と京都〉と題して、4月11日(火)の東京・ 草月ホール、15日(土)の京都・ロームシアターと2公演が開催される。それぞれ孤高の道を突き進みながら、音楽性や演奏スタイルはまるで異なる2人が惹かれ合い、〈東京と京都〉で披露するステージの意義とは? ジャズ評論家の村井康司氏に、唯一無二のキャリアを積んできた2人の歩みを振り返りつつ解説してもらった。 *Mikiki編集部

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★4月3日(月)19時~、公演直前特番がDOMMUNEで放映!

 

多彩な共演歴と見晴らしのよい表現、〈華〉に溢れるスガダイロー

スガダイローとジェイソン・モランがピアノ2台で共演する、という話を聞いて、僕は数秒〈?〉と思い、いやいや実はこの2人は相性がいいに違いない、と思い直した。スガは74年生まれ、モランは75年生まれでほぼ同世代。ジャズ・ピアノの歴史を客観的に俯瞰しつつ、他ジャンルの音楽への関心も深いという複合的な音楽性を持っている、という共通点がまずある。

中学生のときに鎌倉で開催された〈大仏コンサート〉での山下洋輔の演奏を偶然聴いてジャズに目覚め、山下が教授をつとめる洗足学園音楽大学・ジャズコースの第一期生となったスガダイローは、その後バークリー音楽大学に進み(同期生に上原ひろみもいた)、2008年に初リーダー作『スガダイローの肖像』をリリース。自身のトリオを中心に、ジャズの枠内でのさまざまなセッション、向井秀徳や七尾旅人など他ジャンルの音楽家とのセッション、演劇の音楽監督、舞踏家や美術家との共演などなど、多彩な活躍を繰り広げるスガは、実に〈華〉のあるミュージシャンだ。

スガダイローと向井秀徳の共演ライヴ映像
スガダイローが参加した星野源の2013年のシングル“地獄でなぜ悪い”。ほかにも志人(降神)、灰野敬二、U-zhaan、後藤まりこなど共演/作品参加歴は幅広い
 

山下洋輔の愛弟子、ということもあり、フリー・ジャズのピアニストだと思われている節もあるが、スガダイローの音楽にとって、いわゆるフリー・ジャズはその一部分でしかない、と僕には思える。ビバップに対する真摯な姿勢は、演奏の中からひしひしと伝わってくるし、ミニマル・ミュージックや現代音楽への関心の深さも見え隠れするし、シンプルで美しいメロディーを持つ〈うた〉への愛情も感じるし、ラグタイムやストライド・ピアノといったスタイルも導入するし……と、スガはさまざまなピアノのスタイルをハイブリッドに重ね合わせて、聴き手をぐいぐいと引っ張ってゆく。

そして彼の最大の特徴は、リズム感の精密さと音楽全体の〈見晴らしのよさ〉だ。表現に曖昧な部分や混濁した部分がまったくなく、いっけん混沌としているようでいて、実はすべての音が晴れやかに見通せる、という不思議。

スガダイロートリオのライヴ映像

 

ジャンル/時代を自在に飛び交うジェイソン・モラン、そして共演の展望は?

さまざまなスタイルを複合的に重ね合わせ、他ジャンルへの目配りも怠らない、という点については、ジェイソン・モランも負けてはいない。ラグタイムやストライドからフリー・ジャズまでを混在させるピアニスト、ジャッキー・バイアードに師事し、特異なリズム感覚とメロディー・センスを持つアンドリュー・ヒルがアイドル、というモランは、ヒップホップも大好きで、自身はスケートボーダーでもあったりするのだ。1920~30年代に活躍したピアニストで歌手のファッツ・ウォーラーに捧げたアルバム『All Rise: A Joyful Elegy For Fats Waller』(2014年)を発表し、そのときのライヴではウォーラーの顔の被り物を着用してピアノを弾いたり、という無茶苦茶なこともやる。いや、あれには驚きました。

ウォーラーの被り物も装着するスタジオ・ライヴ映像。ロバート・グラスパーとの共演で知られるケイシー・ベンジャミン(キーボード)、ヴィセンテ・アーチャー(ベース)にキム・トンプソン(ドラムス)が参加
ジェイソン・モランとグラスパーの共演ライヴ映像
 

基本的には非常に真摯で真面目な音楽家、という印象が強いモランだが、その〈真面目〉が時としてものすごく〈ヘン〉で可笑しいことになる、というあたりが、ジェイソン・モランという人の〈華〉なのかもしれない。

2016年12月にNYのスタインウェイ・ファクトリーで行われた2人のデュオの映像を観た。多彩な引き出しを次々に開けて、お互いが発する音を繊細に聴きながらどんどん姿を変えていく音楽の流れは、スガダイローとジェイソン・モランの親和性の強さを非常に強く感じさせるものだった。そしてここでも、2人の音楽はきわめて明快な〈見晴らしのよさ〉を感じさせるのだ。

さて、4月11日(火)の東京・草月ホールでのコンサートではダンサーの田中泯が、15日(土)の京都・ロームシアターでのコンサートではドローイング・アーティストの鈴木ヒラクがゲストとして参加し、異種格闘技戦を披露してくれる。どちらも楽しみだが、僕は特に田中泯と2人のコラボレーションが気になる。田中泯と言えば、セシル・テイラーとの長い盟友関係が知られているが、セシルより45歳ほど若い2人を相手に、この世界的舞踏家はどんなダンスを見せてくれるのだろうか。

スガダイローは柳樂光隆氏とのインタヴュー(CINRA.NET掲載)で〈昔も今も関係なく、逸脱しちゃって好きなことやればいいんじゃない? って感じで〉と、ジェイソン・モランとの共演を語っている。まさにその通りの、楽しく豊穣な祝祭空間が繰り広げられることは間違いないだろう。そしてその〈逸脱〉が、ジャズという音楽、ピアノという楽器の歴史をしっかりと背負っているところが、実に実におもしろいのだ。

 


LIVE INFORMATION
〈スガダイローとJASON MORANと東京と京都〉

2017年4月11日(火)
会場:東京・草月ホール
ゲスト:田中泯
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売7,000円/当日8,000円

2017年4月15日(土)
会場:京都・ロームシアター京都 ノースホール
ゲスト:鈴木ヒラク
開場/開演:17:00/18:00
料金:
・前売 自由席5,800円/立見席4,500円
・当日 自由席6,500円/立見席5,300円
学生立見 3,500円 ※学生証・証明書など要提示

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〈JASON MORAN SOLO PIANO〉

2017年4月13日(木)
会場:広島・クラブクアトロ
出演:ジェイソン・モラン
開場/開演:18:30/19:30
料金:前売5,800円/当日6,500円
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