朗らかな陽気に恵まれたある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

 

【今月のレポート盤】

GEORGE HARRISON Gone Troppo Dark Horse/ユニバーサル(1982)

三崎ハナ「留年したわりにはテツ先輩が元気そうで安心しました!」

鮫洲 哲「真の男がいつまでも落ち込んでいられるかよ! これも人生経験だぜ!」

雑色理佳「子犬を助けたせいで追試に間に合わなかった……というベタな嘘は、まったく男らしくないけどね」

鮫洲「だからアレは事実だっつうの!」

雑色「ともあれ、もう1年キャスと一緒にいられるんだから結果オーライじゃん。それより、無事に進級した私は自分へのご褒美としてジョージ・ハリスンのソロ作を大人買いしたわけですよ、にゃはは」

三崎「全13作品が紙ジャケ&SHM-CD仕様、なおかつ最新リマスターでリイシューされたんですよね!? あれれ、ハナはこのアルバムを初めて見ました!」

鮫洲「ああ、『Gone Troppo』か。セールス的にも惨敗で、82年のリリース時から評判はイマイチだよな!」

雑色「この頃はジョージ自身も音楽業界に嫌気が差していたのか、オーストラリアで庭いじりに勤しみ、一切のプロモーション活動を行わなかったしね。音楽誌には〈ビートルたちのソロで一番の失敗作〉とまで書かれたみたいよ」

三崎「そこまで言われたら、逆に気になっちゃいます!」

雑色「OK! お茶でも飲みながら聴いてみようか?」

三崎「いきなりブリブリのシンセが流れて80s感丸出しですね!」

雑色「このアルバムは〈ジョージ流のニューウェイヴ〉なんて言われることもあるけど、冒頭曲だけ聴けばTOTOみたいよね、にゃはは」

三崎「わ、次の“That's The Way It Goes”は随分とのんびりした変型カリプソですね!」

鮫洲「そもそも〈Troppo〉はイタリア語で〈Too Much〉っつう意味なんだけどよ、ジョージはこの言葉にトロピカルな匂いを感じたとかで、アルバム・タイトルはダブル・ミーニングになっているんだぜ!」

三崎「へえ、本人としては何か吹っ切れていたんですかね~。陰のあるイメージが強いジョージだけど、ここではやたらとポップで明るい!」

鮫洲「それまでのファンからすれば、シンセを多用した南国風情の陽気なサウンドっつうのに違和感を覚えたんだろうな! でもよ、改めて聴くと悪くないよな!?」

雑色「実は私もそう感じてた! トロピカル・ムードで統一されているから散漫な印象がないし、それに各曲のクォリティーも高くないっすか!?」

鮫洲「おうよ! 特にアコギとマリンバが気持ち良い“Gone Troppo”や、メロウな“Unknown Delight”なんかは名曲と呼べるレヴェルだっつうの!」

雑色「ジョージらしい不思議な歌メロがクセになりそうな“Mystical One”も、そこに加えていただきたい」

三崎「というか、いかにも80年代なシンセ・サウンドといい、頼りなさげで柔和な歌唱といい、全体に漂うほんわかした脱力感といい、ハナにはイマドキのインディー・ポップみたいに聴こえるんですけど!」

鮫洲「言われてみりゃ、スモールプールズとかエレクトリック・ゲストに似たような曲がありそうだぜ!」

雑色「うむむ! 世評に惑わされて失敗作だと決めつけていたけど、実はなかなかの力作だったうえに、まさかいまの時代にフィットするとは!」

鮫洲「つうことは、一見ネガティヴに思われそうな俺の留年生活も、数年後には高く評価される時が来るってことだよな!」

雑色・三崎「……」

 ロッ研で初の留年部員が出てしまいましたが、本人は妙に前向きなので良しとしましょうか。 【つづく】

このたびリイシューされたジョージの作品を一部紹介。