OLAFUR ARNALDS
【坂本美雨インタヴュー】 故郷アイスランドへの旅から生まれた新作~坂本美雨が惹かれる「暮らしの中の音楽」~

(C)Marino Thorlacius / Mervury Classics

 ポスト・クラシカルのアーティストを数多く輩出し、シーンの中核をなす土地、アイスランド。今回は、そんなアイスランドの音楽が大好きだという、シンガーの坂本美雨さんにお話を伺うことができた。なかでもオーラヴル・アルナルズやヨハン・ヨハンソンがお気に入りとのこと。アルナルズといえば、坂本龍一のヨーロッパ・ツアーでフロント・アクトを務め、東日本大震災の被災地支援プロジェクト「kizunaworld.org」にも曲を提供している。

 「父が一緒に活動をしているのを知らず、普通にiTunesで見つけて、いいなあと思って聴いていました(笑)。はじめて聴いたのは、2011年の『Living Room Songs』というEP。オーラヴルのアパートメントのリビングルームで録られた音楽で、その親密な空気感がよく出ています。ピアノの音色がなんとも言えずいい味わいで、すごく好き。彼は自分でミュート・ピアノを作っているんですよ。安いピアノを買って、弦とハンマーの間に布を挟んで、ぬくもりのある音が出るように加工しているんですって」

OLAFUR ARNALDS Island Songs ユニバーサル(2016)

 アルナルズの最新作『アイランド・ソングス』には、故郷アイスランドを旅し、それぞれの土地で出会ったアーティストたちとのコラボレーションから生まれた音楽が収録されている。アーティストといっても、引退した教師や地元のブラス・トリオなど、「普通の人々」とのコラボレーションである点がユニークなアルバムだ。

坂本美雨

 「アイスランドに行ったときに感じたのは、一般の人とミュージシャンとの境目があまりないということ。誰もがみんな趣味で音楽をやっていて、そのレベルがとても高いんです。特別な楽器を持っていなくても、ムームのように身の回りにあるものを楽器にしたり。芸能界みたいなものがなくて、音楽業界も小さいので、ビョークやシガーロスといった有名なミュージシャンはほんの一握りいるものの、そのまわりにたくさんの無名なミュージシャンたちがいて、日々新しい音楽を作り続けている。アイスランドはクラシック音楽の伝統がないぶん、新たな解釈や、新たな音楽を取り入れて融合させることに抵抗がないのかもしれませんね。そこから今、クラシック音楽の新たなシーンが生まれたということは、とても興味深いです」

 アイスランドの音楽は、坂本さんが聖歌隊のCANTUSとともに作っている音楽とも共通したものを感じさせる。

 「サウンド・プロデュースをしていただいているharuka nakamuraの感性ともつながるのかもしれません。アイスランドと日本、どちらも島国で独自の文化を持っているという点で似た部分がありますよね。私はアイスランドのカルチャーがほんとうに好きなので、彼らような音楽を作ってみたいと憧れています」 (取材・文 原典子)

 

オーラヴル・アルナルズ OLAFUR ARNALDS
1986年アイスランドに生まれ、2007年にデビュー・アルバム『Eulogy for Evolution』をリリース。国際的なファンを獲得し、クラシック、ポップ、アンビエント/エレクトロニカの影響を独自の音楽言語に昇華し、ジャンルレスに活躍している。2011年、坂本龍一のヨーロッパ・ツアーでフロント・アクトを務め、東日本大震災の被災地支援プロジェクト、 kizunaworld.orgのために新作を提供している。