クルト・ザンデルリングにとってマーラーの第9が特別な作品であったことは間違いない。4種目の正規盤となるこの1987年ライヴは、ヴァント時代の北ドイツ放響との激しくも厳粛なスパークが克明に刻まれており、ザンデルリングの同曲最高の名演だ。強力な吸引力を持つ第1楽章での弛緩を許さない引き締まった音楽は非常に深く、力強い。第3楽章はまさに「ブルレスケ」、巨人の豪放な哄笑。最大の聴きものは終楽章で、一気に「死」「別れ」の様相を強め、諦念の情を深く確かめていく巨大なスケールを持つ。北ドイツ放響の合奏力も極上! 2002年に引退したザンデルリングが90年代に聴かせた巨匠様式の圧倒的な円熟はここでも顕現していたのだ。