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LFJはクラシック音楽で味わう心とからだの解放区

 LFJの最大の特徴は公演時間が約45分と短いこと。生の音楽は聴きたいけれど、長時間座することの困難な、例えば身体的に難しい人や今までクラシック音楽を敬遠していた人、さらに落ち着いて聴いていられない子供たちにも、約45分という時間は心身ともに楽に違いない。それでいて本格的な本物の公演なのがLFJの最大の魅力である。そんな公演の数々が東京国際フォーラムの各ホールで、ほとんど並行して縦横無尽に行われる。子供たちにとっては0歳からのコンサートが、10時からの公演のみだが毎日あるし、昼間のコンサートは3歳以上も入場可能だ。幼い頃から本物のクラシック音楽を聴かせたいというルネ・マルタンの心意気を感じる。〈子連れはちょっと……〉という方には託児サービスを利用するのがいい。ホールEでは、LFJのコンサートのチケットか半券が必要だが、趣向を凝らした誰もが楽しめる無料コンサートやワークショップが目白押し。事ほど左様に様々な状況の老若男女が楽しめるフェスティバルなのである。

 公演の合間の時間はフォーラム敷地内に出現する屋台村でお腹を満たすのもいいし、周辺の洒落たレストランやカフェに繰り出すのも一考。丸の内界隈はハイブランドが居並ぶショッピング街でもあるので、ウィンドウショッピングも楽しい。隣接する三菱一号館美術館に立ち寄るのも素敵なプラン。丁度〈オルセーのナビ派展〉を展覧中だ。美術館のあるブリックスクエアではLFJ出演者による無料コンサートもあり、青空の下の素敵な空間で聴く音楽の爽快感は格別だろう。他にも丸ビルや新丸ビル、オアゾなど丸の内を代表するビルでも無料コンサートの予定。街を挙げての肩ひじ張らない、それでいて決して手を抜かないクラシック音楽の祭典、そんなお祭りのわくわく感と共にクラシック音楽の醍醐味を味わいたい。

 今年のテーマは〈ラ・ダンス 舞曲の祭典〉。バレエ音楽を期待する人も多いだろう。チャイコフスキーの三大バレエ音楽のような定番はもちろんのこと、ショスタコーヴィチのバレエ音楽“黄金時代”も聴けるのがLFJ。この作品は、大のサッカー好きショスタコーヴィチのサッカーの影響が見られるが、同時にソ連政府に翻弄された作曲家の諧謔があちこちに点在する興味深い作品。あまり演奏されることの少ないレアもの公演の一つだ。

 舞踊家の石井獏を父に持つ石井眞木作曲の“モノプリズム(日本太鼓群とオーケストラのための)”も聴き逃せない。この作品のタイトルは日本太鼓の単色、つまりモノクロームとオーケストラのプリズムの合成語であるという。和太鼓を演奏するのは、ナントでも大人気の林英哲ら。この作品とのカップリングはグラスの“2つのティンパニとオーケストラのための幻想的協奏曲”。東西の打楽器対決の様相を呈する公演だ。演奏は井上道義指揮によるシンフォニア・ヴァルソヴィアら。井上は他に新日本フィル、マリンバの安倍圭子と共演し、映画「ゴジラ」など数多くの映画音楽でも知られる伊福部昭の作品“日本組曲”から、盆踊り、演伶(ながし)、佞武多(ねぶた)を。そして、“オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ”も演奏する。伊福部ファンは今からリズムを取ってしまうだろう。

 映画音楽好きなら、バカロフだ。「イル・ポスティーノ」で名を馳せたが、パゾリーニ監督「奇跡の丘」やフェリーニの「女の都」など、忘れ難い映画音楽でも知られる。そんな彼のバンドネオンも加わる“ミサ・タンゴ”はユニーク。この公演も新日本フィル、三浦一馬らを指揮するのは井上道義。

 ファンとしては高橋悠治と青柳いづみこによる“春の祭典”や竹澤恭子のシベリウスのヴァイオリン協奏曲も聴きたい。

 さらに、個人的に大好きなラヴェルのピアノ協奏曲も外せない。スペイン民謡やジャズの影響もみられるこの作品のピアノは、この演奏によって2010年ジュネーヴ国際コンクールで日本人として初めて優勝した萩原麻未。カップリングはラヴェルの“ボレロ”。演奏はパスカル・ロフェ指揮によるフランス国立ロワール管弦楽団。彼らにとってもラヴェルは薬籠中のものだろう。ただ、この公演、今回のLFJの目玉であるオネゲルのオラトリオ“ダヴィデ王”と微妙に時間が重なる。なんとも悩ましいこの現象はLFJには往々にしてあり、コンサート選び、はしごのためのスケジュール組み立てはパズルのようで、これまた楽しいのである。(text:山口眞子)

 

©Simon Van Boxtel

ドミトリー・リス(指揮)
ショスタコーヴィチ:バレエ“黄金時代”から序曲、ポルカ、ダンスを演奏!
公演番号 212、312

 

©井村重人

三浦一馬(バンドネオン)
アルゼンチンの作曲家バカロフによるバンドネオンも加わる宗教曲“ミサ・タンゴ”に登場!
公演番号 144

 

林英哲(和太鼓)
今年も大活躍。東西打楽器バトルを展開 [215]は今年1番の衝撃公演!
公演番号 215、346

 

©Mieko Urisaka

井上道義(指揮)
ゴジラの作曲家 伊福部昭の傑作とアルゼンチンの宗教曲を新日フィルと熱演!
公演番号 143、144

 

©Hideo Goto

髙橋悠治 (ピアノ)
青柳いづみこ(ピアノ)

LFJ初登場の高橋悠治と、青柳いづみこによるストラヴィンスキー:バレエ“春の祭典”(4手版)
公演番号 153

 

©Mieko Urisaka

萩原麻未(ピアノ)
ジュネーヴ国際音楽コンクールの覇者、萩原麻未が受賞曲ラヴェルのピアノ協奏曲を披露!
公演番号 313

 

 

 

 

 

 


“Reference Event”
有料公演のチケットが1枚あれば、こんなに楽しさが広がります。

■講演会
テーマの音楽的背景や作曲家が歩んだ人生、テーマにちなんだ題材など、多彩なゲストを講師に迎えてお届けする講演会。今回のテーマや音楽について、より深く理解することができる有意義なひとときです。

■アトリエ・ラ・ダンス
お昼の時間帯は楽しいトーク&ダンス! こどもから大人まで参加できるダンス・アトリエをご用意しました。

■フォル・ニュイ!!
今年のテーマ〈ラ・ダンス〉にちなんで、夜のキオスクがダンス・フロアに大変身! LFJならではの趣向を凝らしたダンス・パーティを開催します。

■マスタークラス
世界中から集まった有料公演出演アーティストが、若手演奏家に直接指導を行うプログラム。出演者たちの人柄や作品に対する情熱を垣間見ることができます。

■Hall Eキオスクコンサート
アマチュアや音大生を中心にしたオーケストラや室内楽などのコンサートが繰り広げられます。有料公演出演アーティストによるサプライズコンサートも。

■こどもたちの音楽アトリエ
子どもたちが楽しく音楽と出会える毎年人気のプログラム。音楽を見て、聴いて、感じて、全身で楽しむ時間を体験できます。