『僕のミュージックマシーン』はアメリカを通過した京都の感じ
――『僕のミュージックマシーン』に関しては、もともとどのような青写真があったのでしょうか?
キヌガサ「今回に関しては、USインディーっぽいものというよりも、もう少し古い、ソフト・ロックやサイケデリック・ロックとか、ちょっと荒いけど、いろんな音が鳴ってる感じをめざしたので、音を消していく作業はあんまりしなかったです。もともとはUSインディーが好きだから、削ぎ落とすイメージだったんですけど、今回はもう少し引っかかる方がおもしろいと思って、わりと足し算なイメージで作りました」
辻「前作より自由度がすごく増してる感じがしました。一人で録ってる曲もあったり、女性コーラスとかシンセもそうだし、いろんなことを自由にやってるなって。曲で言うと、“僕のミュージックマシーン”がめっちゃ好きで、イントロとAメロの一番最後に出てくるコードが下がるところ。あれがマジでツボで、最高に切なくなる」
――女性コーラスということで言うと、ミュージック・ビデオがアップされている“エスケープ”も非常に印象的ですね。
おざわ「ブロークン・ソーシャル・シーンの“7/4 (Shoreline)”がすごい好きで、珍しく私が〈こういうのやりたいんだよね〉って言ったら、やらせてくれました。でも、7拍子はダメだって言われたんですけど(笑)」
キヌガサ「ああいうカラッとした感じというか、ずっとリズムで行くアプローチの曲はやったことがなかったので、なるべく躓かない、最初から最後まで行き切る曲にしようと思って作りました」
――あの曲の間奏のノイズは、何で出してるんですか?
キヌガサ「あれはまつもとの持ってたカオシレーターで、酒呑みながら録りました」
辻「あ、だから〈ずっとずっと目がまわってる〉と歌ってるの?」
キヌガサ「そうそう(笑)。最初はギターでやったんだけど、全然ピンと来なくて、まつもとがベロベロになった状態で適当にカオシレーターいじったらいい感じだったから、これでいいやって。〈どうせ70年代のバンドもこんな感じでやってたんでしょ?〉って(笑)」
――まつもとさん的には、どれが押し曲ですか?
まつもと「“アンサー”が好きですね。真ん中にアルペジオがあって、左右からザクザクとミュートの音が入ってくる。あの構成が気持ちよくて」
辻「“なにかしたい”の間奏のギター・フレーズもめっちゃ好きだし、あと歌詞も好きなんです。直接何かを言ってるわけじゃないですけど、耳馴染がよくて、曲と合ってるし、京都の感じがする」
キヌガサ「僕もそれは思う。アメリカを通過した京都の感じ(笑)」
――それってどういうことですか?
キヌガサ「最初に名前が出たdOPPOとかbedって、一度アメリカに行ってるとしか思えないようなセンスがあって、でも京都の人たちで、独自の音楽を作ってて、何を作ってもその人たちの色になるっていう、その感じですかね」
辻「英語で歌ってもよさそうな人たちが、あえて日本語で歌う美しさを大事にしてる感じが、歌詞に表れてる気がする」
キヌガサ「あと、メッセージが押しつけがましくないのも特徴かもしれない。〈自分たちは自分たちでやるから〉っていう」
おざわ「めっちゃ引きこもり感(笑)」
辻「今はメンバーみんな京都から出て、離れ離れになって、ドラムも抜けて、〈苦労したんじゃないですか?〉って絶対訊かれると思うんですけど、でも、(アルバムを)聴いててあんまりその感じはしなかったんですよね。メンバー的にはそういうことをストレスに感じてない気がして、〈そういうの関係ないです〉と言ってるようにも聴こえて」
おざわ「私個人で言うと、いい感じに1枚目を出せて、次もすぐ出したいけど、バラバラになっちゃって、〈もしかしたら、バンドなくなってしまうかもしれへん〉って、すごい焦ってたんです。でも、他のメンバーは意外と全然気にしてなくて(笑)、〈あ、気にしなくていいんや〉ってなりました」
――普通に考えたら、メンバーが抜けて、住むところもバラバラになったら、それはやっぱり焦りますよね。
キヌガサ「でも、ディアフーフとかもそうなんでしょ?」
おざわ「マーチング・バンド※もそうだしね」
※星野源やCzecho No Republicもお気に入りに挙げている、スウェーデンのポップ・デュオ。my letterとは&のレーベル・メイトで、共演したこともある
辻「海外のバンドだと普通なんですよね」
キヌガサ「僕らは言っても日本国内ですし、3時間あれば集まれるんで、いざやってみると、楽曲制作に関してはそこまでストレスなくできたんです」
おざわ「バンドを始めて2~3年目くらいからみんな働いてたけど、(その頃から)土日に週1でスタジオに入って、ライヴも土日にやってたから、離れても案外大丈夫だったのかも。まあ今思えば、前はよく週1でスタジオ入ってたなって思いますけど(笑)」
ずっとキッズでいたいし、音楽を追いかけていたい
――アルバムのラストには、京都について歌った“スイート・ホーム・キョート”が収録されていますね。
おざわ「『僕のミュージックマシーン』を出してから、買ってくれた人が、1曲目が“ニュータウン・パラダイス”で、最後の曲が“スイート・ホーム・キョート”となっているのをよく話題にしてくれてるんですけど、私はそれを全然意識してなくて(笑)。でも、私が1曲だけ歌詞を書いた“ブルーバード”も、京都のことを思って書きました。キヌガサがこういう“スイート・ホーム・キョート”みたいな曲を書いたのは結構意外やったけど」
キヌガサ「やっぱり、場所は大事というか、自分たちはそこで形成されていて……シネマもそうでしょ? 自分が育った場所に対する想いというのは、出てきてしまいますよね」
――辻くんとしては、東京に出てきて、メジャー・デビューをした一方で、地元の岐阜でイヴェントを始めたり、個人としてもレーベルをやったり、えるえふるをオープンさせたりと、活動が多岐に渡っていますよね。バンドの続け方に関して、今はどう考えていますか?
辻「やっぱり、ずっとキッズでいたいし、ずっと音楽を追いかけていたいです。まあ、僕らももう30歳なんで、これだけバンドをやってくると、最近は後輩ができてきて、〈シネマのことがずっと好きでした〉とか言われるのって、すごいなって思うんですよ。そういうことが今はバンドを続ける活力になってる気がします」
――それこそ、昨年からスタートした〈シネマのキネマ〉※は若手バンドとの対バン企画なんですよね。
※5月19日(金)に東京キネマ倶楽部で開催される第2回では、Age Factory、SHE'S、PELICAN FANCLUBと共演
辻「これまでは先輩バンドと何かをやることが多かったんですけど、あのイヴェントをやることによって、今また新しい刺激を感じてますね」
おざわ「京都は学生の街なので、若い人もめちゃ出てきて、よくキヌガサが〈年下の人に誘われたら、なるべくそのイヴェントには出たい〉って言ってるんです。自分たちで企画をするときも、オープニング・アクトとかで、若いバンドが出てくれたらなって。その一方ではbedみたいな(活動歴の長い)バンドもいて、私たちはその中間ですけど、上の世代のバンドは大学を卒業したら、働かずにバンドをやるか、辞めちゃう人も多かった印象だけど、私たちの世代くらいからは、仕事とのバランスを取りつつ、バンドをガツガツやってる人も多いですよね。別に生活がどうなってもバンドはできるっていうのは、私たちずっと思ってることなので、みんなで続けていけたらいいなって」
――一昨年にピンバックのロブ・クロウが〈家族のために〉とか言って、一度引退宣言したじゃないですか? でも、その翌年にはしれっと新しいバンドで新作※を出してましたよね(笑)。
※ロブ・クロウズ・グルーミー・プレイスの2016年作『You’re Doomed. Be Nice.』のこと
キヌガサ「復帰に対して、何の驚きもなかったですね(笑)」
おざわ「あれをみっともないと思う人もいると思うんですけど、そういうもんやろって。やめられへんから今までやってきたんやん」
――シネマも5月17日(水)に新作『熱源』が出ますが、それこそキッズな部分が出てるというか、もちろん、ここまでの積み重ねがありつつなんだけど、でもどこか一周回ったような、ある種の衝動が感じられる作品だと思いました。
辻「まさにその通りで、前作『eve』(2016年)はプロデューサーを入れたり、〈こういう音源を作ろう〉という明確なアイデアがあったんですけど。今回はそういうのを取っ払って、昔の感じを思い出して、もう一回やってみるのがいいんじゃない?っていうのがみんな一致したので、エンジニアもファースト(2011年作『Cinema Staff』)と同じ方なんです」
キヌガサ「まつもともそれ言ってたね。もともとファンだから」
まつもと「僕は高校生くらいから聴いてたので、今回は『document』(2008年の初EP)の頃みたいな、初期の感じをすごく感じて。特に8曲目の“diggin'”は〈これぞcinema staff〉っていう感じで、すごく嬉しかったです」
おざわ「1曲目(“熱源”)のドラムもめちゃめちゃカッコイイ。シネマを聴いてると、巻き込まれたくなるっていうか、着いていきたくなる」
キヌガサ「シネマの曲は一曲一曲にストーリーがあって、映像的だなって思うのと、あとあんまり同じことをやらないじゃないですか。メロディーは同じでも、絶対アレンジを変えてくる。たまにコミカルな、キャッチーな部分をぶっこんでくるのも魅力的で、普通に一番格好良いパターンを2~3回やって終わりじゃなくて、〈こんなのもあるよ〉って投げかけてくる感じがすごくいいなって思いますね。僕が音楽を作るときのちょっとエゴイスティックな部分として、何も知らない若い人の道をちょっと踏み外させたい気持ちがあるんです。それは自分がそうだったからで、TSUTAYAでドアーズやスマッシング・パンプキンズ、セックス・ピストルズを借りて、バンドを始めることになった。そういう気持ちを与えられるものを作りたくて、シネマの今回のアルバムにもいろんなきっかけが入ってると思いました」
おざわ「そういうのが理想的だなって思う。自分たちのことを好きな人が、自分たちの好きなものも好きになってくれたらなって」
――では最後に、『僕のミュージックマシ―ン』というタイトルの由来を教えていただけますか?
キヌガサ「アルバムを作るにあたっての、自分のなかでの一番の想いが〈バンドをやること自体は大したことじゃない〉ということで。仕事もしてますし、メンバーはバラバラだけど、それでもバンドはできるよって気持ちがあった。ただ、やっていくうえで、もちろん時間とお金はかかるんですよね。で、60年代に活動したレモン・パイパーズというバンドに“Green Tambourine”って曲があるんですけど、それは路上で演奏してる人の歌で、その歌詞の一節に〈money feeds my music machine〉って出てくるんです。身も蓋もない言い方をすると、お金をいただかないと、僕たちはバンドができないわけで。でも、そうやってちゃんと生活基盤を作って、新しい音楽を作ることで、何かを生み出せたらなと。そういう想いでタイトルをつけました。あとは単純に、ミュージック・マシーンというバンドがすごく好きなので、〈彼らは僕だけのもの〉っていうのもあります(笑)」
LIVE INFORMATION
■my letter
〈night after night vol.12〉
2017年4月29日(土) 東京・下北沢 THREE
共演:余命百年、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、The Whoops、THE FOREVERS
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売り2,300円/当日2,800円
〈『僕のミュージックマシーン』release tour in 名古屋〉
2017年5月14日(日) 愛知・名古屋 spazio rita
共演:CARD、ログメン、eito
開場/開演:18:30/19:00
料金:前売り2,300円/当日3,000円
■cinema staff
〈シネマのキネマ〉
2017年5月19日(金)
会場:東京キネマ倶楽部
共演:Age Factory、SHE'S、PELICAN FANCLUB
開場/開演:17:45/18:30
料金:前売3,000円/当日3,500円
★詳細はこちら
〈“熱源”Release tour 『高機動熱源体』〉
2017年6月1日(木) 東京・渋谷WWW X
共演:9mm Parabellum Bullet
2017年6月2日(金) 愛知・名古屋BOTTOM LINE(ワンマン)
2017年6月8日(木) 大阪・梅田CLUB QUATTRO(ワンマン)
2017年6月10日(土) 千葉・千葉LOOK
共演:mudy on the 昨晩
2017年6月11日(日) 静岡・静岡UMBER
共演:the band apart
2017年6月17日(土) 愛媛・松山Double-u Studio
共演:THE NOVEMBERS
2017年6月18日(日) 香川・高松TOONICE
共演:THE NOVEMBERS
2017年6月23日(金) 宮城・仙台MACANA
共演:SAKANAMON
2017年6月24日(土) 栃木・HEAVEN'S ROCK 宇都宮
共演:SUPER BEAVER
2017年6月25日(日) 石川・金沢vanvanV4
共演:SAKANAMON
2017年7月1日(土) 福岡・福岡BEAT STATION
共演:GOOD ON THE REEL
2017年7月2日(日) 岡山・岡山IMAGE
共演:GOOD ON THE REEL
2017年7月4日(火) 岐阜・柳ヶ瀬Ants
共演:bacho
2017年7月8日(土) 北海道・札幌BESSIE HALL
共演:サイダーガール
2017年7月9日(日) 青森Quarter
共演:サイダーガール
2017年7月15日(土) 神奈川・横浜BAYSIS
共演:yonige
2017年7月16日(日) 群馬・高崎club FLEEZ
共演:My Hair is Bad
2017年7月17日(月祝) 埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心
共演:My Hair is Bad
2017年7月28日(金) 東京都恵比寿LIQUIDROOM(ワンマン)
★詳細はこちら