自分の〈パパ〉がこういう人だったらイヤ

――では皆さんにトリビュートした楽曲についてこだわりやら何やらお伺いしていきたいのですが、まずはゴンドウさんの“くれない埠頭”から。

ゴンドウ「高校生の頃にカセットデッキ2つ使ってピンポン録音で曲を録ってたんですけど、その頃この曲が好きで、博文さんの歌詞とメロディーをパクッてオリジナル曲を作りました(笑)。ご本人にも聴かせたことがあるんですけどね。(ヴォーカルを担当した)幸宏さんにそれを話したら〈僕もこの曲がやりたい〉ってことで。アレンジは打ち込みベースですが、そうしたらなんとなくシティー・ポップっぽい雰囲気が出て、よしこれでいこうと」

――青春時代を振り返るという意味合いもあったんでしょうか。ゴンドウさんが感じるこの曲の魅力は?

ゴンドウ「情景がはっきり見えてくるところですね。すごく素敵な曲だと思います」

――ライダーズの作ったスタンダード・ナンバーのひとつですよね。続いて1983は“ダイナマイトとクールガイ”とは意外な選曲ですよね。

新間「みんながあまり採り上げなさそうな年代のものがいいかなと思いまして、90年代の『A.O.R.』(92年)からこの曲を。僕はこのアルバムと『AMATEUR ACADEMY』がベストだと思っているんです。今回のトリビュートにはスカートの澤部(渡)くんや佐藤(優介)くんとかマニアが揃っているんで王道はみなさんにお任せして、逆に自分たちは持ち味を活かせる曲ができたらいいなと。歌詞がすごくいいんで、そこをちゃんと聴かせられるように心掛けました。あとサウンド面に関しては、流行を取り入れてきたライダーズに敬意を示してフォニー・ピープルやジ・インターネットなど90年代テイストのいまの旬なバンドっぽいニュアンスでできたら、とメンバーと一緒に考えましたね」

 ――ポニーさんの“犬にインタビュー”は、これまた大胆に変身していますね。

ポニー「自分がやっている音楽がカントリーなんで、そのスタイルでカヴァーできる曲を探していて。ムーンライダーズはコードや展開が複雑な曲も多いのでなかなかカントリーに変換しづらいんですが、これはうまくハマるんじゃないかと。以前に7インチで“スカーレットの誓い”のカヴァーもリリースしているんですが、それも同じ80年代くらいの曲をカントリーに、というコンセプトだったんですよね」

――オリジナルは白井良明さんのアンディ・パートリッジ風のギターが大変印象的で、それが耳にこびりついていたりするわけですが、見事なまでにアーシーな世界が構築されていて素晴らしいなと。

ポニー「そうですよね。サビの追っかけコーラスもカントリーっぽくうまくアレンジできたと思います」

――さてANNA★Sさんは“DON'T TRUST ANYONE OVER 30”という超ビターなナンバーをやられたわけですが、歌っているときどういうことを考えているのかを訊いてみたかったんです。尊敬する〈パパ〉が実は心の中でこんなことを考えているって知ったら、娘はどう思うんだろうって。

杏奈「最初に聴いたときは、歌詞の意味を理解するのが難しかったですね」

――そうでしょう。

杏奈「そこで30歳の気持ちになってみようと(笑)。でも切ない歌詞ですよね」

優奈「新鮮でしたね。こういう歌詞は自分たちの曲にはないので」

――そうでしょうそうでしょう。

優奈「でも曲はめちゃカッコ良いから、ね」

 

 ――率直に言って、この曲の歌詞に出てくる男性像ってどう思いますか?

涼夏(ANNA☆S)「なんだろう、人生いろいろあるんだなって」

一同「ハハハハハ(笑)」

涼夏「男の人ってこういうこと考えてるんだな、困難に立ち向かうだけじゃないんだなって思いました」

優奈「自分の〈パパ〉がこういう人だったら正直嫌ですけど(笑)、いろんなことから逃げ出したくなる気持ちは私たちでも理解できるところなので」

杏奈「でもこの歌を歌うことで元気がもらえたというか、私たちもがんばろうという気持ちになれました」

86年作『DON'T TRUST OVER THIRTY』収録曲“DON'T TRUST ANYONE OVER 30”のライヴ映像

 

〈なんだコレ?〉が入り口になる

――この曲は30年以上も前に作られた曲ですけど、3人は昔の古い音楽とか興味があったりしますか?

杏奈「私はビートルズさんが好きです」

新間「ビートルズさん! なんか新鮮だ(笑)」

優奈「最近ここの姉妹(優奈&杏奈)でWAY WAVEという名前でユニット活動を始めたんですが、そこでは昔の洋楽をカヴァーしよう、というのがテーマなんです」

杏奈「ベン・E・キングさんの“Stand By Me”とかカヴァーしてます。でも邦楽はまだレパートリーがないので、これからいろいろ知りたいですね」

 

涼夏「いま流行りの〈パリピ〉な感じより、こういうカッコ良い曲もいいなと。アイドルでこういう曲をやっている人もいないし、持ち歌にできて得した気分というか」

――うんうん、そうか。

杏奈「でもどの曲もタイトルがおもしろいですよね。“犬にインタビュー”ってどういう意味なんだろう?って。“僕は走って灰になる”の歌詞もめっちゃ短いのがおもしろくて、こんな短さで何が伝えられるんだろう?と。すごいですよね」

新間「でも彼女たちが感じていることは僕らもまったく同じですよ。〈なんだコレ?〉っていうところからまず入るというか。僕にとっては彼らの〈ヘン〉なところがカッコ良く感じられるんです。“ダイナマイトとクールガイ”とか、そのネーミング・センスにもシビれますし、僕はムーンライダーズの作品ってポップ・アートのようなものだという認識があって。だから彼女たちの感じ方は正しいんじゃないかと思います」

――ところでムーンライダーズの曲に登場する恋愛像ってどう響きますか?

新間「あの……最近メンバーが恋人にフラれまして、そのお別れのデートで熱海へ行ったらしいんです。別れを噛み締めながら荒涼とした気持ちで海岸線を歩いていたら富士山が見えて、〈これは完全に“ダイナマイトとクールガイ”の世界じゃないか〉と。〈愛の果てにやってきてしまった〉と天啓を受けたらしくて(笑)。何が言いたいかというと、ムーンライダーズの歌詞ってパッと見て特殊な状況が書かれているんだけど、実は抽象化してみると普遍的なところが多々あって。ラヴソングひとつとっても優れた短編映画を見ている気分になれるところにグッときますね」

――いい話ですね。さてこの先のライダーズに期待することなどはありますか。

ゴンドウ「いまもいっしょに仕事している最中ですが、特に慶一さんには健康でいてくださいと伝えたいですね。とにかく働きすぎなので。マグロみたいに止まれない人なんですよ。いまでも真夜中にカツ丼食ったりしちゃうし」

ANNA☆S「え~!」

ゴンドウ「いろんなプロジェクトをやりながら合間にサッカーしていたりするんだけど、いつも飄々としているんだよね。いつまでも元気でいてほしい」

新間「僕も同じですね。また活動再開するのを待ってます。あとアルバムの完全再現ライヴって最近流行ってるじゃないですか。ライダーズは一枚ごとにコンセプチュアルに作り込んでいるバンドだし、やってもらえると非常に楽しいと思うんです。『AMATEUR ACADEMY』とかぜひやってもらいたいですね。あと『MANIA MANIERA』(82年)も捨てがたいな」

ポニー「長生きしてほしいというのは前提ですが、ここまで現役感を持続してこられていることは本当にすごいことだと思いますし、それを続けていただけたらわれわれも励みになると思うので。無理をせず、たまにみんなで揃って元気な姿を見せていただければと」

――ANNA☆S はどうですか?

杏奈「またお会いしたいです(笑)!」

新間「次はうどんとは違ったものを配膳してもらうとかね(笑)」

――最後に、5月5日(金・祝)に新代田FEVERで行われる発売記念ライヴに向けての意気込みを訊かせていただけますか。

ゴンドウ「成り行き上、今回のイヴェントでは名義がゴンドウトモヒコになってしまっていますが、何をやろうか考えているところで。いまも絶賛悩み中です。ま、歌うしかないと思うんですけど、かなりダメな歌を披露することになるんじゃないかと。でも僕、(ライヴで)歌ったことなんてないですからね」

ゴンドウトモヒコの2013年のライヴ映像
 

――レアですよね。おおっ!って思うようなものが披露されるなんてことは……。

ゴンドウ「ないですね(笑)」

新間「僕はとにかくムーンライダーズ・マニアをガッカリさせないものをお見せしなければ、ということですね。ほんと、いまの音楽のショウケースのようなラインナップになっていると思うんで、そのなかで自分たちの持ち味をちゃんと出せたらなと」

――ほかのバンドには負けねえぞ、というような意気込みは?

新間「〈音楽殺人〉を成し遂げる心づもりで(笑)」

※高橋幸宏が80年にリリースしたソロ2作目のタイトル

1983の2016年作『golden hour』収録曲“”文化の日”
 

――ポニーさんは。

ポニー「演者だけでなくお客さんも一筋縄でいかなそうな人が多いような気がしていますが、僕がやっている音楽ってその中では素直っていえば素直なんで、ほかとは違う穏やかな時間を提供したいなと思ってます(笑)」

ポニーのヒサミツの2013年作『休日のレコード』収録曲“休日”
 

――では最後はANNA☆Sさんが締めてください。

杏奈「はい、当日は全力で30歳の気持ちになって“DON'T TRUST ANYONE OVER 30”を歌わせてもらいます!」

涼夏「それまで3人でいっぱい話し合って、30代になるイメージ・トレーニングに励みます!」

優奈「ライヴが近付くにつれてどんどん老けていったりして(笑)」

――きっと涙なしには観られないな(笑)。それでは皆さん、期待しております!

 


 

 

LIVE INFORMATION
〈ムーンライダーズ トリビュートアルバム『BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS-we can't live without a rose-』発売記念ライヴ〉

日時:2017年5月5日(金・祝)
会場:東京・新代田FEVER
開演/開場:15:00/16:00
出演:アシモフが手品師/ayU tokiO/ANNA☆S(うどん兄弟)/ゴンドウトモヒコ/スカート(澤部渡)+佐藤優介/たをやめオルケスタ/1983/ポニーのヒサミツ/本日休演/3776/ゆるめるモ!
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