17年ぶりの新作がついに解き放たれる! 上下左右から襲い掛かる鋭いギター、耳にこびりつく高音ヴォーカル、暴力的なまでのスピード感、沸き上がる感情、吹き出す汗、緊張、興奮、衝撃、熱狂、恍惚――完璧だ!!

あの頃の厳格な姿を!

 再結成を果たした2012年当初のアット・ザ・ドライヴ・インには、どこかぎこちないムードが漂っていた。それは特に〈コーチェラ〉や〈フジロック〉での、ほとんど棒立ち状態でプレイしているオマー・ロドリゲス・ロペス(ギター)の姿に顕著だったと言える。当時の状況についてトニー・ハジャー(ドラムス:以下同)はこう話す。

 「あの時の様子を正しく表現すると〈再結成〉というより、〈混乱〉って感じだった。俺たちがまた会話を交わすようになったのは2009年。2011年にはジャム・セッションもした。そして10公演だけライヴをすることになって、一緒に楽しい時間を過ごしたし、人間関係も別に問題なかったけど、ライヴの数日前にオマーの母親が亡くなってしまってね。それがグループ全体に影響したんだ。バンドは一心同体だからさ。メンバーのうちの1人が悲しみに包まれ、エネルギーの落ちた状態になっていたために、みんなの一体感も後退した。バックステージでは一緒に食事を取ったりして、いつもと変わらないように過ごしていたけど、やっぱり精神的に100%ではなかったな」。

 同じ2012年の5月と12月に、オマーはオマー・ロドリゲス・ロペス・グループとしても来日。その時すでに彼の気持ちが新バンドのボスニアン・レインボーズに移っていることはあきらかだった。翌2013年には、そんなオマーに対し、セドリック・ビクスラー・ザヴァラ(ヴォーカル)がTwitter上で怒りをブチ撒ける事態が発生。マーズ・ヴォルタも解散状態に陥ってしまう。その後、オマーとセドリックはアンテマスクを結成することにより、関係を修復。このアンテマスクでの活動は2人にとって必要なプロセスだったと言えるが、こうしたゴタゴタを潜り抜けている裏で、どうやらトニーも不満を溜め込んでいたらしい。

 「2014年にはATDIとしてスタジオに入り、新曲を作りはじめたんだけど、そこでもちょっとした問題があって、それがどんどんみんなの苛立ちになっていった。で、その状態に耐えられなくなったのは俺なんだよ。俺はこのバンドに情熱を持っていたのに、帽子を投げ捨ててしまったんだ。もう終わりだって、すっかり打ちのめされてね。それはポール(・ヒノジャス、ベース)も同じだった」。

 だが、オマーがセドリックとの絆を繋ぎ止めたように、今度はセドリックがトニーたちとヨリを戻すべく働きかけた。

 「2015年になってセドリックから電話がかかってきて、〈君に戻ってきてもらうには何が必要なんだ?〉と訊かれたんだ。俺は〈全員が100%の気持ちでいてくれたら、それ以上に求めるものはない〉って答えたよ。そしてもらった返事が〈約束する〉だった。その時、まるで砂の上に線を引いて〈もしここを越えたらすべてが変わる〉っていう規約のようなものができてね。その規約に則って、去年はたくさんのライヴをやった。それ以降は、以前のような苛立ちを感じることがなくなったよ」。

 もうひとつ、2016年のツアー直前になってジム・ワード(ギター)が脱退し、キーリー・デイヴィスが加入するというメンバーの交代劇も起きている。だが、結果的にはこれによって新生アット・ザ・ドライヴ・インが完全な状態に辿り着いたと言えそうだ。

 「キーリーが示したポジティヴさは本当に素晴らしかった。おかげでいまの俺たちは最高の状態にいて、とてもハッピーなんだ。まだアップダウンはあるけど、それもコントロールできるようになった。いまはギャングみたいな気持ちだね。俺たちは軍隊やギャングのように制服を着ていて、結成時の厳格なATDIに戻ろうとしているんだよ」。

 

最高到達点!

 10年以上の歳月を経て再集結し、そこからも多くの大波を乗り越えて、ついに彼らは固い結束を取り戻した。そのバンドの勇姿は、昨年の〈サマソニ〉でも大勢のオーディエンスが目撃している。

AT THE DRIVE-IN In・ter a・li・a Rise/BMG Rights/HOSTESS(2017)

 そしていよいよニュー・アルバム『In・ter a・li・a』に向けて本格的な作業がスタート。〈サマソニ〉前には9日間ソウルに滞在し、プリプロを行なっている。限られた機材やスタジオ環境のなか、5人のメンバーが集中して音作りに向き合った経験も、活動初期の精神状態を呼び起こしたそうだ。その後、USへ戻ってレコーディングに取り掛かった彼らに、もはや迷いはなかった。

 「LAで改めてプリプロをして、その後はいままでにないようなスピードでレコーディングしたよ。スタジオに入るやいなや、みんな凄まじい勢いとエネルギーで作業に取り組んで、凄く気持ちが良かった。俺らは曲の新鮮さを保つためにプリプロをやらないこともあるんだ。レコーディングの最後までその曲を残しておいて、グルーヴが出てきた時にそれを録音する。今回もアルバムが完成に近付いた頃、〈あの曲があるよな!〉って引っ張り出してきて1回だけ練習し、そのまま本番に入ったよ。それが“Ghost Tape No.9”だ。あと、俺が2015年にエレクトロニックのトラックとして作ったデモに、オマーが良い感じのギターを入れたものがあったんだけど、レコーディング終了2日前に、6時間ほどかけてロック・ソングに生まれ変わらせたんだ。そしたら“Hostage Stamps”が出来上がった。ミキシングを手伝ってくれたエンジニアのリッチ・コスティからも、〈こんなふうにその場で曲を完成させるプロセスは見たことない〉って言われたよ」。

 外部からは、そのリッチ・コスティに加え、2000年の前作『Relationship Of Command』に続いてデーモン・ロックスがジャケット・デザインを請け負っているが、全体のプロデュースはオマーみずからが担当。「オマーはプロデューサーとバンドの一員としての存在を行き来している感じだったな。みんなの意見に耳を傾けて、良い仕事をしたと思う。彼は凄くデリケートな対応をしていたよ」と、トニーもその働きぶりを高く評価している。

 こうして完成した『In・ter a・li・a』には、楽曲のクォリティーも演奏のテンションも、間違いなくATDIの最高到達点が記録されている。オマーとキーリーのギターは左右のチャンネルからナイフのように鋭利なリフを繰り出し、トニーのドラムが爆走するなか、ポールの図太いベースも負けじと唸りを上げる。そしてセドリックの歌声は、〈エモーショナル〉なんていう形容が安っぽく感じられるほど本物の感情を爆発。本作で打ち鳴らされているのは、ATDIとしか言いようのないサウンドだ。ただ、それがここまで完全な形で音源化されたのは初めてだと断言したい。