Page 2 / 2 1ページ目から読む
Still Caravan
 

ゼロから生まれてくるものに惹かれる

――『IN YA MELLOW TONE 13』には、GOON TRAX所属で年初にリリースした2作目『EPIC』も話題のStill Caravanも2曲で参加していますね。スティルはライヴも続々決まっているみたいだけど、つい最近ドラムスも桃井裕範くんに変わって、演奏もグッと強みを増した感じがする。桃井くんの加入で、ジャズ方面にも拡がりのある音楽性をめざしている?

「スティルだけじゃなくて、そもそもGOON TRAXがやってる音楽ってジャズ界隈の人たちが聴いても嫌な気持ちがしないものだと思うし、アプローチできるところにはしたいなと。スティルはサウンドとしては全然違うのにfox capture plan、toconoma、Suchmosとかのリスナーも聴いてくれているみたいなんだけど、それってもしかしたらGOON TRAXを続けるうえで、ものすごく大きなチャプターになるかなとも思ってるんだよね」

――なるほどね。

「あと最近、Takashi Tsurumi(Still Caravanのギター)が突然歌い出して(笑)、ゲストを呼ばずにメンバーで歌えるようになったのもおもしろくて、トラックメイカーが多いなかで自前でライヴができるのもいいなと」

――ライヴに対するこだわりが強いですよね。〈ライヴできないやつなんてアーティストじゃない〉と言っていたり、ヒップホップっぽいというか。

「ステージに立ってちゃんと自分を魅せられない人は、地道に音源を作ってYouTubeやSoundCloudにアップして、フォロワーが増えて喜べばいいじゃんって思うよ」

Still Caravanの2017年作『EPIC』収録曲、Takashi Tsurumiがヴォーカルもとっている“Railroad No.9”
 

――以前トラップ・ミュージックについて、〈海外のチャートの上位がトラップだったら、こっちもそれにならってトラップをやるべきなのか?〉という話になりましたよね。さっきも〈時代や流行りに合わせることをあまり格好良く思ってない〉と言っていたけど、〈どこで誰が何を聴くの?〉っていうのが重要だと思わないですか?

「そうですね。ギャングスタ・ラップがアメリカで流行ったら日本でも同じことをやりましょうっての、クソ格好悪いと思っていて。日本人はギャングスタ・ラップができないけど、音楽の知識やトラックの作り方とかはわかるから、反対に日本人に合ったものを日本に持って来ようと。俺は日本人だから、日本人に合ったことをヒップホップでもやれたらいいなと思っています。だから、いわゆる〈メイク・マネーするぜ!〉みたいなイメージとは違うものをずっとやってるんだよね。それがたまたま日本でフィットすれば、人気がバーッと出たり、全然違う捉え方をされてアジアで注目されたりもしていくわけですよ。真似事をする必要性はゼロ、このネットが普及した時代には、なおさらそういう気がしますね。海外と同じことやろうとしても、どうしてもタイムラグが出てリアルタイムじゃなくなってしまうし。ガチでやれたら良いけど、結局〈○○っぽい感じ〉に収まってしまう。それをやっていても仕方がないし、ゼロから生まれてくるものに惹かれるんですよ。その点、〈IN YA MELLOW TONE〉は日本から生まれているので」

――でもいま日本のヒップホップ界ではKOHHがキーとされている節があるけど、宇多田ヒカルがKOHHやPUNPEEとコラボする感じ、これじゃあ何も変わらない?

「KOHHが“忘却”じゃなくて、もっとキャッチーな曲で宇多田とフィーチャリングしたら俺は世界は変わったと思うけど、やらないよね。でもアメリカの連中はそれをやるじゃん、平気で。マルーン5とウィズ・カリファとかさ。ああいう極めてキャッチーな曲にラッパーがフィーチャリングされることについて、ラッパー本人はメイク・マネーのことも当然考えてると思うけど、それよりマーケットが広がる、そうすれば自分の名前が広まる、これを俺がやることによってこのジャンルをもっといろんな人が知ってくれれば、という考えでやっているはずで。日本人のアーティストは、そういうものに対して壁がある」

宇多田ヒカルの2016年作『Fantôme』収録曲、KOHHがフィーチャリングされた“忘却”
 

――それはある気がしますね。たぶんヒップホップ、〈日本語ラップ〉のマーケットは、それこそKICK THE CAN CREWやSteady&Coが全盛期の頃に比べたら……。

「聴いてる人は増えてるけど……って感じはあるね。それこそKOHH、ANARCHY、BAD HOPとか、いま最前線にいる誰かがすごくキャッチーなのを1曲ポンとやって、いまの時代のKICK THE CAN CREWのような存在になったらおもしろいよね。批判的な意見も出るとは思うけど、その先に広がるマーケットは無限」

BAD HOPの2016年のミックステープ『BAD HOP 1 DAY』収録曲“Life Style”
 

――突き抜け感のある存在。

「あといつも考えているのは、スタイルを気にする必要はないということ。好きなラッパーがオススメするブランドを着ようとか、本を読んでみようとか、音楽を好きな人は感受性が豊かだからいろんな影響を受けるじゃん。それもいいんだけど、全然そうじゃない〈新しい日本人〉みたいなのがいま生まれていて。例えばネット・レーベルからも出してないけど、サンクラで100万回再生とかいっているアーティストとか、物凄く音楽を消費しているんだけど、ビジネスになってない人がすごくたくさんいる。これからはそっちのマーケットのほうが大きくなっていくと思います。音楽のフォーマットは増えないかもしれないけど、音楽を聴くアプリはどんどん増えていくと思うので、一個に対する価値が落ちていくというか――本当にカリスマ的に成功するのはほんの何人かで、それ以外のアーティストは以下同文、言ってみれば〈消費される音楽〉になっていくのかなと。もしそうなるのであれば、アーティストももっとチャレンジしていいかなと思うんです。流行りのトラップじゃなくて、例えばディスコに乗せてラップをするとかね。昔のように何でも売れた時代はカメレオンみたいにアルバムごとにサウンドを変えたりしていたけど、いまでこそそういったチャレンジ精神が必要じゃないのかな」

――そういう若いアーティストたちが音楽を作っていけばシーンもがらっと変わると。

「そういうアーティスト(の活動)に大人が介入して失敗することもあるけど、でもそこをうまくできれば、もう一回チャンスはあると思います。〈盤〉というものに新たな付加価値をつけていかないといけないけど」

10周年イヤーの2016年に発表された『IN YA MELLOW TONE GOON TRAX 10th Anniversary BEST』トレイラー
 

――そこはわれわれやレーベルが考えていくところですね。寿福さんは常々〈続けることが大事〉だと言っていますけど、レーベルも辞めることはいつでもできるし、続けるのはいかに難しいかと。

「レーベルをはじめることは誰でも簡単にできるんですよ。〈やりまーす〉って言えば誰でもはじめられる。ただ、夫婦生活もそうだけど(笑)、続けることが難しい。またこの先10年やっていくためにこの『13』を作ったわけだから。はじめにも言ったけど、何も変えずに自分たちのスタンスのままやってるから、10年も続けられたのかもね」

 

――それこそ〈硬派ですよ〉と。そもそも、本当は2014年の第10弾でやめようと思ってたんですよね?

「そう。(コンピの)タイトルを変えるのか、レーベルをやめるのか。潮時でしょうと。10年なんて続くと思わなかったから」

――今後の10年はどうしていく?

「リリースのペースはこれまでより落ちるかもしれないけど、とにかく続ける。日本人が好きな音楽を世界中で探して、音楽を好きになってくれる人をもっと作りたいからね」

 


LIVE INFORMATION
〈「IN YA MELLOW TONE 13」release party〉

 

日時:2017年6月4日(日)
会場:東京・渋谷CIRCUS TOKYO
開場・開演:18:00
チケット:前売り 3,000+1drink/当日 3,500+1drink
出演:
【LIVE】
GEMINI、re:plus(BAND SET)、Still Caravan、and more!
【DJ】
CM Smooth(PLANT RECORDS/STORE One)from OSAKA、SASAKI JUSWANNACHILL、and more!
★詳細はこちら