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“ファニソン”

――ここからは石井さんの曲が続きますが、まずは唯一の打ち込み曲の“ファニソン”。

桜井「名曲ですね」

――私もそう思います。石井さんのヴォーカルが入っていなかったとしても、石井さんの曲だとわかるであろう切ないエレポップで。

石井「これはアルバムの中でいちばん、TDで印象が変わった曲ですね。この曲、全編にストリングスがかなり入ってるんですよ。だからギターはあんまりコードを弾いたりしないって感じだったんですけど、どっちの音が前に出るかのバランスがね」

――現場の解釈でだいぶ変わったということですね。あと、歌詞は同調圧力的なものに対してのものでしょうか。

石井「まあ、他の曲と言ってることはほとんど一緒なんですけど。例えばね、個人の生き死にとか、特定の人にとっては大きい出来事ですけど、それを世界的な目線で大きく捉えたら、何言ってもどうにもなんないよね、みたいな話ですよね」

――広い目で見たらどうにもならないから、なるようになれ、と。

石井「うん、そうですね」

 

“落花枝に帰らず破鏡再び照らさず”

――続いては“落花枝に帰らず破鏡再び照らさず”ですが……。

石井「これもさっきの『ロミオとジュリエット』のパターンですよ。〈落花~〉を解説してるだけですよ(笑)」

――失ったものはもう戻らないと。

石井「まあ、そういうことですよね。歌詞は別にどうでもいいんですけど(笑)、この曲はサウンドが素晴らしいなと。皆さんのプレイが。曲調は元のものから変わってないですけど、研次郎君のベースも思った以上にすごく良かったし、ピアノもね、林さんがレコーディングに来るっていうんで入れてもらったんですよね。急遽データを作って、全編にピアノを入れてほしいっていうオファーだけ」

――ということは、全編アドリブ?

村井「僕、現場にいましたけど全然アドリブですよ。全曲、2回ぐらいしか弾いてないですもん。初見で(笑)」

林正樹の2015年作『Pendulum』のトレイラー映像
 

――やっぱりジャズ畑の方なんですね。

石井「ピアノも凄いですけど、楽器それぞれの解釈、絡みが凄いですよね。中西(祐二)君のドラムもベースもギターも。よくこんな、奇跡的なバランスで絡んだなってところがかなりありますね。俺、あまり自分の曲とかでいいなって思わないけど、これは凄く良いと思いました」

 

“深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた”

――そして、川崎で録音されたSE“0’ 13” III”を挿んで、最後に青さんの曲。“深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた”はスロウコア、サッドコア的なムードで。

桜井「テーマ的には、〈盛者必衰〉とか〈焦燥感〉とか、まあ、cali≠gariを歌ってるような感じですよ」

石井「今のカリガリを歌ってんの? これ(笑)」

桜井「このバンド、破滅に向かってるかなって(笑)」

――なぜ(笑)。

桜井「まあ、13曲目なんでね。(絞首刑の際の)13階段とかあるじゃないですか。その13階段を登る間に過去を振り返って、それで飛び込むわけでしょ? その13段目で考えることってどんなことだろうなって思うんですけど、この曲はそんなところから作ったものですね。まあ、その13段目みたいな状況がどういうものかわからないけれど、その先がある人もいるじゃないですか。成功する人なんてそれまでに何度も失敗してると思うし、落ちても再生する、みたいな。この曲の前のSEに川崎の住所が付いてますけれど、場所は13階段と関係ないですよ? 単純にここで書いてる風景は僕の好きな場所で、夜景が綺麗だからよく行ってるってだけで、むしろそこにいるときはテンションが高いんですけど(笑)、そこを無理矢理、哀愁が漂うように一生懸命書き直したんです。曲順で最後になっちゃったもんで(笑)。まあでも、深夜に工場地帯とか巡ってると、〈こいつ死ぬんじゃないか?〉って人もやっぱいるんですよ(苦笑)。でっかい倉庫のシャッターの前で、スーツ着た男の人が体育座りしてたりね。そういうのを見ると、しんみりしたくなっちゃうじゃないですか」

石井「この、〈夢を信じていなければ―――――。〉ってどっちの意味?」

桜井「どっちの意味にも取れるじゃないですか」

石井「どっちでもいいの? 俺が訊いても教えてくれないやつなの?」

桜井「どっちの意味でも取れるから、〈夢を信じていなければ―――――。〉にしてる。夢を信じていなければよかったのか、夢を信じておけば何々になったのかっていう、どっちの捉え方もできるようにしてるんです」

――石井さんもまた、今それを訊くんですか(笑)。

石井「ほとんど訊くことはないんですけどね。これはどっちなんだろうな?って思ってたんです。この曲もカッコイイですよね。ギター・ソロの音もめちゃくちゃイイ」

桜井「あれ、ビット・クラッシャーっていうのを使ってるんです」

石井「超ラインの音じゃないですか」

村井「音でかいよね」

石井「でかいけど、すっごくカッコイイね」

桜井「あそこ、ほぼリテイクなしの一発録りなんですよね。もともとは初期のミニストリーみたいなパートがあったんですけど、エンジニアの白石(元久)さんや健さん(上田健一郎)の意見でそっちはやめて、ソロを弾こうかってことになって(苦笑)。でも、結果的には凄く気に入ったソロになったし、ギターの音もなんか、さっきラインみたいなって話がありましたけど、工業製品っぽい感じで。あの音がホントにね、ライヴで出せたら素敵ですよね。だからあの部分を、もうギターは弾かないで……」

――まさかの打ち込み。斬新すぎる(笑)。

桜井「そこでポージングしてるってどうですか? なのにギター・ソロがキュイーン!って鳴ってるっていう(笑)。それはともかく、この曲は作るのに凄く時間がかかったし、めっちゃ気に入ってますよ、長いタイトルから情景を連想させる歌詞って、僕、よくやるじゃないですか。でも、歌詞の言葉数は少なくて、だけど何を言いたいかはわかりやすい。そこが凄く難しかったです」

 

青さんが死にそうになってるのがいちばんいいんです

――ということで全曲振り返りましたが、アルバム全体に対してはいかがですか?

桜井「“マグロ”みたいな『第7実験室』(2002年)の頃を彷彿とさせるような面もありつつ、あそこまでねっとりしてない。それと、その次の『8』(2003年)のバラバラさ加減――バラバラだけど結果的に良いものが出来たあの感じの両方があると思うんです。だから、僕の中での『13』は〈破綻してない『8』〉なんですよね」

『8』収録曲“青春狂騒曲”
 

――はい、活動休止前の〈実験室〉時代のテイストは感じます。

桜井「ただ、初心に返ってるようなところはあるけど、すべて上位互換されてる。復活後のcali≠gariは、“―踏―”みたいに打ち込み感があって、っていうイメージも強いみたいなんですけど、別にそれだけでもないんですよっていう。〈2002年のcali≠gariへのオマージュ〉って感じの15周年記念アルバムになったかなって思いますね」

――はい。

桜井「あと、『13』を作ったことで、次はこういうふうにいきたいなっていうものが今回は明確に浮かんだから良かったです」

――次の構想がもうあるんですか?

桜井「ある。内緒だけど」

石井「そういうことを青さんがいつでも考えてるのがcali≠gariにとってはいちばんいいってことですよね。いつも大変で、なんか死にそうになってるのがいちばんいいんですよ」

――ヒドイ(笑)。青さん、こんなこと言われてますが……。

桜井「それで僕、Twitterで〈死にたい〉とかつぶやくんでしょ(一同笑)?」