INTERVIEW

唾奇×Sweet William『Jasmine』 繊細な手捌きで音を紡ぎ〈変わりゆく自分〉へ導いた、予期せぬ縁が生んだコラボ作

唾奇×Sweet William『Jasmine』 繊細な手捌きで音を紡ぎ〈変わりゆく自分〉へ導いた、予期せぬ縁が生んだコラボ作

 ネットを介した遠くて近い繋がりがどれだけありふれたものになっても、互いの距離を越えて現実の偶然が結ぶ縁はやっぱり不思議でおもしろい。他ならぬ本稿の主役、唾奇(つばき)とSweet Williamもそうして出会った。大学の卒業旅行で名古屋から沖縄を訪れたWilliamが、那覇の国際通りでふと耳にした日本語ラップから、予期せぬ2人の交流は始まったという。

 「国際通りで俺がバーの店長をやってたんですよ。そこで外にスピーカー置いて、SHUREN the FIREの曲を一日中流してたら、Will(iam)さんが〈SHURENじゃん!〉って入ってきたのが出会いですね(笑)。俺はちょっと環境が複雑で、Willさんの生活とは対極すぎるから、ただ街で会ってたら絶対に友達にはなってない(笑)」(唾奇)。

 「沖縄に行く機会もそんなないのに、そこでラップをやってる奴に会うのも初めてだったし。唾奇にしても、いきなりビートメイカーが目の前に現れるっていうことも、そんなないだろうし」(Sweet William)。

唾奇×Sweet William Jasmine Manhattan/LEXINGTON(2017)

 以来、事あるごとに互いに曲を共にし、会うことわずか2回目にして東京でのMV撮影も経験。Williamの所属するPitch Odd Mansionに唾奇が加入するに至って、2人はついに共作アルバム『Jasmine』へと歩を進めた。制作当初「全然うまくいかなかった」と2人は笑って口を揃えるが、それでも互いへの信頼は揺るがなかったようだ。

 「〈普通そんなこと言わんだろ〉っていう内容でも、聴けちゃうラップを唾奇は作るからおもしろい。僕のビートに乗らないようなラップなのに逆にすっかり馴染んじゃう感じがすごい気に入ってるし、一緒に作ればおもしろい作品が出来るんじゃないかってワクワクしてやってました」(William)。

 「昔は俺もビートを作ってたんですけど、〈ここ別に気持ち良くないけど普通に聴けるからいいや〉みたいな音も入ってたんですよ。でも、WillさんのビートにはWillさんの好きな音しか入ってない。一緒にやってて出してくるものが全部めっちゃいいから、俺はもうビート作んのやめて、MPCも先輩に売ったっすね」(唾奇)。

 みずからの曲を「自分が見て聞いたものとか生きてる環境とかを、身の丈も越えず、低くもせず、率直な気持ちで適当にラップした」ものだと語る唾奇。かつては憂さ晴らしでしかなかったというその表現も、ここではその姿を変えつつある。ディテールの一つ一つに耳を凝らし、繊細な手捌きでメロディーと音を紡いでいくWilliamのビートは、いわばその道しるべともなったのかもしれない。アルバムの始まりこそ、ささくれだった思いが随所に覗く“South side ghetto”だが、ノスタルジックな風景に愛する祖母の姿や一瞬の病んだ光景すら挿し込む“Kikuzato(Pianiment Remix)”を経て、kiki vivi lilyの涼しい歌と相まった瑞々しいトラックが心地良い“Good Enough”、春を思わせるビートに〈いずれ胸張って言いてえ/生きてるっていいぜって〉と歌う“Made my day”へと繋ぎ、唾奇の思い入れもひとしおだというラストの“道 -tao-(Soulera Remix)”に辿り着く頃、リスナーはその音楽をより近くに感じることができているはずだ。そして、そのように「変わりゆく自分」を誰よりも楽しんだのが唾奇であり、Williamも今回の『Jasmine』に手応えを感じている。

 「ラッパーと2人で一つの作品を作るっていうのはやりたかったことだし、とにかく納得のいく作品が出せた。ラップの曲とかってことじゃなくて、普通に音楽として聴いてほしい」(William)。

 「曲の中では生々しいことも言ってるけど、清々しく聴き流してほしいっすね。〈こういう人いるんだ、おもしろいね〉みたいな。それぐらいラフな気持ちで俺はラップしてるんすよね」(唾奇)。

 すでに各々の次なる動きも見据えているという唾奇とSweet William。「自分の環境がどう変わっていくかが楽しみだし、それを変えるためにやってる」(唾奇)——その動きが2人の音楽をどう変えていくかにも、もちろん注目だ。



唾奇×Sweet William
共にPitch Odd Mansionに所属する、沖縄で生まれ育った唾奇(MC)と神奈川を拠点とするSweet William(トラックメイカー)のコンビ。地元で活動していた唾奇と名古屋で活動していたSweet Williamが沖縄で出会い、Williamのソロ作『LO ONE』(2015年)などで共演。2016年、BCDMGの『FACT OF LIFE』に収録された“Same As”で脚光を浴び、Williamの2作目『Arte Frasco』や、CHICO CARLITO“一陽来復”、hokuto“Cheep Sunday”などのプロデュース/客演を通じて注目を広げていく。今年に入って、3月にkiki vivi lilyをフィーチャーしたコンビ名義の“Good Enough”を先行配信。このたびファースト・アルバム『Jasmine』(Manhattan/LEXINGTON)をリリースしたばかり。

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