ATDIにも携わった、アレックス・ニューポートとの制作エピソード

――途中で出たアレックス・ニューポートの話をもう少し聞ければと思うんですけど、そもそもは『JAPAN』を聴いたアレックスが〈いつか一緒に仕事をしたい〉というメールをくれたんですよね?

「そうなんです。当時自分たちで運営していたHotmailに、代理人みたいな人から日本語でメッセージが来てて、でも正直そのときはアレックスの名前を知らなかったんです。それで経歴を調べてみたら、ATDI、マーズ・ヴォルタ、デスキャブとか書いてあって、〈これは嘘だな〉と(笑)。そんな人が俺たちの音源を聴くはずないと思って、完全にスルーしてたんですよ。で、その後に僕らがUK.PROJECTに入ったら、POLYSICSから〈今度アレックスと仕事をする〉って聞いて、そこで初めて〈フィッシング・メールじゃなかったんだ〉とわかって(笑)。それで改めて〈ぜひ一緒にやりたい〉と連絡したんです」

アレックス・ニューポートと制作した、the telephones『Rock Kingdom』収録曲“A A U U O O O”
 

――NYでのレコーディングは、どんなことが印象的でしたか?

「ブースに入って、軽く音出そうかってときに、向こうのスタッフから〈お前ら酒も呑まないしドラッグもやらないのか?〉と言われて、〈日本ではこれが普通だよ〉と言ったら、〈それでいい作品が作れると思ってるのか?〉と、なぜか怒られるっていうのがスタートでした(笑)。アレックス自身はビーガンだから、全然そんな感じではなかったんですけど」

――当時のインタヴューで、ヘッドフォンではなくスピーカーで音を流しながらヴォーカル録りをしたと読んだんですけど、それって音被りはしないんですか?

「一応被んないように計算はされてるんですけど、アレックスは〈多少被っても、かっこいい音が録れてたらそれでいいんだ〉というスタンスでした。いいテイクを録ることがとにかく大事なんだと。ヘッドフォンで歌って勢いが出ないなら、リハスタで爆音でやってるような環境の方がいいだろうと言われて、実際いい感じで録れましたね」

――セドリックの勢いのあるヴォーカルも、きっとそういう環境で録ったんでしょうね。

「かもしれないですね。アレックスは〈ポピュラーな録り方だ〉と言ってたから、ATDIもやってるかも。日本では一回もやったことないですけどね」

――他には、レコーディングでどんなことが新鮮でしたか?

「アレックスはドラムとベースにすごくこだわる人で、(長島)涼平は常時チューナーがオンになってて、ちょっとでもシャープすると、〈ストップ、指に力が入り過ぎ〉と言われるし、弱く弾くと、今度は〈ストップ、モア・エナジー〉と言われて(笑)。だから、開放弦じゃなくて、押さえるところでチューニングしろと言われて、僕は未だにそうしてます。逆に、ギターに関しては〈これはパッションがある〉みたいに、上手く弾けたものより大雑把なものを選んだり、曲にとって最善なテイクを選んで行くんですよね。理論的にエナジーを込める天才というか、繊細さを積み重ねて、それがものすごいエネルギーになってるんだと思います。オマーも彼からは(プロデューサーとして)影響を受けてるんじゃないですかね」

 

ATDIの新作は、大人の怒りになって重さが増した

――新作の『in・ter a・li・a』に対しては、どんな感想でしたか?

「まずFacebookに〈5月に新作が出る〉というニュースが出た瞬間に、ものすごくテンションが上がったと同時に、〈これは聴かない方がいいんじゃないか?〉と、不安にもなったんです。フジロックで観て、ライヴ自体はよかったんだけど、あのバンドから新しい曲が生まれてくる空気はあんまり感じなかったので。でも、とりあえず聴いてみようと思って、最初にミュージック・ヴィデオがアップされた“Govemed By Contagions”を聴いたら、ヴァースで〈キタ!かっこいい!〉と思いましたね。音の感じが『In/Casino/Out』とか、初期の感じに近いなって思いました。『Relationship Of Command』はもうちょっとロウミッドが出てたけど、もっと尖った音作りになってるなって。さらにその後で“Incurably Innocent”を聴いて、〈これはいいアルバムだな〉と、楽しみになりました」

――後日談によると『Relationship Of Command』はミックスが気に入ってなかったらしいし、ホントにやりたかったのは今作みたいな感じだったんでしょうね。ただ、再結成バンドの常で、やっぱり最初はちょっと不安だったと。

「アンテマスクも好きだったので、オマーがATDIに対してどこまでパッションを持ってるのか疑問だったんですよね。でも、ちゃんと〈このバンドが好きでやってるんだな〉という感じが伝わってきたので、ホッとしました」

――一時期のマーズ・ヴォルタは完全にプログレでしたけど、アンテマスクはハードコアな感じで、一周して戻ってきていたというか。

「確かに、アンテマスクはそういう感じでしたね。エフェクターも一切使ってないと思うし、そう考えると今回のアルバムも必然だった気がしますね。ある意味、アンテマスクはリハビリだったというか、あれを経てのいまなのかなって」

――アルバム全体に対してはどんな印象でしたか?

「改めて〈ATDIはこういうバンド〉というのを示した一枚になったと思います。“Call Broken Arrow”とかすごく好きなんですけど、子供の怒りだったのが、大人の怒りになってる気がして、重さは増したと思いますね。昔は〈怒りがあり過ぎて溢れ出ちゃう〉みたいな感じだったのが、ちゃんと絞り込まれてて、個々のアイデンティティーもより確立されて、濃いものになってるなって」

“Call Broken Arrow”のライヴ映像
 

――個々のアイデンティティーというと?

「オマーのギターはエフェクティヴなプレイがほぼなくなって、シンプルになってますよね。ただ、妙にオリエンタルなメロディーを奏でたり、相変わらず変なギターだなって(笑)。もう一人のキーリーのギターもいいなって思ったし、あとはセドリックの歌が素晴らしいと思いました。マーズ・ヴォルタのときは上手くなり過ぎちゃって、一時期はロバート・プラントみたいで、レッド・ツェッペリン聴いてるみたいな感じがしたんですけど(笑)。でも、今回は上手さもありつつ、ちゃんと衝動が出ていて、〈ATDIのセドリックだな〉という、そこが素晴らしかったですね」

lovefilm Haruka DAIZAWA(2017)

――いまの石毛くんのメイン・プロジェクトであるlovefilmとATDIを直接結び付けるのは難しいけど、〈アメリカのパンク/ハードコアが背景にある〉という意味では、通じる部分もあると言えるかなと。

「あると思います。今回のシングルの“Haruka”は3~4年前、まだthe telephonesをやってた頃に書いた曲なんですけど、ドラムの音を少し歪ませてたり、あえて汚して作ってあるんです。これをクリアな音でミックスしてしまうと、ホントにただのポップスになってしまうので、そういうサウンド・プロデュースはやっぱりパンクとかハードコアを通っているからこそでしょうね。ATDIに関しては、もはや僕の血肉になっているので、だからこそ、どんなタイプの曲でも自分らしくなるという自信になってるのかなって」

※3曲入りシングルで、5月24日(水)リリース

――去年のファースト・アルバム『lovefilm』に関しては、ダイヴやウェイヴスからの影響を挙げていましたよね。

「彼らもきっとATDIを通ってると思うし、ウェイヴスには“I Wanna Meet Dave Grohl”という曲もあるから、すごくシンパシーを感じます。やっぱり、新しいものが好きなので、自分がずっと好きなものと、いまっぽいものを合わせるっていうのが考え方の基本なんです」

『lovefilm』収録曲“Kiss”
 

――一方、新しいシングルの3曲目にはエレクトロニックな“Umineko”という曲が入っていて、これまでの曲とは少し毛色が違いますね。

「その曲だけ新しく書き下ろした曲で、すんごい簡単にわかりやすく言うと、XXみたいなイメージかな。ドラムが抜けたこともあって、〈打ち込みなんだけどバンドの作品〉というのを一曲作りたくて。いま僕がlovefilmで燃えてるのは、ポップ・ソングをいかに料理できるかっていうことで、基本的にピクシーズとかもすごく好きなので、歪なポップというか、弾き語りでやったら普通にいい曲なんだけど、CDで聴くと〈変だけどいい〉みたいな、そういうのを目指してますね」

――ちなみに、ちょっと蛇足なことを言わせてもらうと、ATDIとthe telephonesって、〈あっという間にシーンを駆け抜けた〉という意味でも近いなって思うんですね。ATDIは仲違いをしてしまったわけですけど……。

「俺たちは仲違いはしてないですよ(笑)。でも、メンバーが分かれたっていうのも似てますね。マーズ・ヴォルタとスパルタ、lovefilmとFINAL FRASHみたいな。ちょうどこの前、久しぶりに4人で呑んだんですよ。〈CONNECT 歌舞伎町 MUSIC FESTIVAL〉にlovefilmもFINAL FRASHも、あとフレンズも出てて、ライヴ終わった後に、〈デビュー10周年おめでとう〉って(笑)」

――そうか、インディーズ・デビューからちょうど10周年なんですね。まあ、いまはそれぞれがそれぞれのバンドで頑張っていて、さらに石毛くんは最近ソロでも新たなプロジェクトを始めたんですよね。

「それは久しぶりに歌があるダンス・ミュージックというか……でも、いろいろ混ざってます。ワープとサブ・ポップを掛け合わせたような、いろんな要素をミックスした日本人のバンドって感じかな。歌はボン・イヴェールみたいな感じにしたくて、ヴォーカル・エフェクト使ってるんですけど、いまいちハマらなくて、プリズマイザーほしいなって(笑)。この間初ライヴで9曲やったんですけど、結構フロアも踊ってくれて、いい手応えがありました。キャリア総括的なイメージもあるので、いろいろやっていこうかなと。あ、あと久しぶりに高い声で歌ってます(笑)」

――いまのセドリックみたいに、深みのあるハイトーンが聴けると(笑)。

「いつかそれで、(ATDIの日本盤リリース元である)Hostessのイベントに出られるようにがんばります(笑)」

 

LIVE INFORMATION
AT THE DRIVE INJAPAN TOUR 2017

2017年9月19日(火) 東京・ZEPP TOKYO
2017年9月22日(金) 大阪・なんばHatch
2017年9月24日(日) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
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