(左から時計回りに)ユウキ、橋本薫、マナ
 

今、国内のインディー・ポップ・シーンを見回したとき、もっとも熱い視線を浴びているのが、このガールズ・バンドだろう。名古屋出身で、現在は東京を拠点に活動する4人組、CHAIだ 。去る4月にリリースしたセカンドEP『ほめごろシリーズ』では、ファンクやブルーアイド・ソウルからヘヴィー・ロック、レイヴ・ミュージックまでを吸収したグルーヴィーなポップ・サウンドで、現代に暮らすガールたちの繊細な感情をユーモラスなタッチで描き、くるりの岸田繁GotchRIP SLYMEのDJ FUMIYAらも絶賛。一時は大型ショップでも品切れが続くなど、彼女たちを取り巻く状況はにわかに騒がしくなっている。

そんな彼女たちをいち早くプッシュしていたのが、オルタナティヴな感性を持つギター・ポップで人気を博し、6月7日(水)にはtetoとのスプリット・シングル『split』のリリースを控える新世代バンド、Helsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)のフロントマン、橋本薫だった。2016年当時、未知数の存在だったCHAI を、ヘルシンキのアルバム『ME to ME』のリリース・ツアーに招き、名古屋と大阪会場で共演。その恩返しとばかりに、今度はCHAI 主宰の企画〈ロード・ツー・ダ・GRAMMYs season3〉にヘルシンキが登場。5月24日(水)に東京・渋谷TSUTAYA O-nestでツーマンを果たす。

今回、Mikikiでは同企画に向けて、CHAIへのインタヴューを実施。ヴォーカリストのマナとベーシストのユウキに、ヘルシンキの橋本も交えて、彼女たちが耳の肥えたリスナーを次から次へと魅了してしまう理由に迫った。このインタビューをしながら頭に浮かんでいたのが、ロクサーヌ・ゲイの著書「バッド・フェミニスト」(2014年)。教条主義的と捉えられがちなフェミニズムから〈かくあるべし〉という完璧主義を取り除くことで、よりカジュアルで自由な視線の獲得できることを軽やかに歌った同書とCHAIは、共通の時代性を堪えているのではないか。「バッド・フェミニスト」や『ほめごろシリーズ』が筆者を勇気づけてくれたように、このインタヴューもまた、いまだ生きづらさを抱えながら日々を送るリスナーにとって、なにがしかのヒントとなることを願う。

CHAI ほめごろシリーズ OTEMOYAN(2017)

 

〈可愛い〉を変えたい

――実は自分にCHAIを教えてくれたのはHelsinki Lambda Cubの橋本さんだったんです。ヘルシンキのアルバム『ME to ME』(2016年)のインタヴューをしたときに、最近オススメのバンドとしてCHAIの名前を上げてくれて。

マナ(ヴォーカル、キーボード)「へー! ありがとう!」

ユウキ(ベース、コーラス)「めっちゃ嬉しい!」

――そもそも橋本さんはCHAIのどんなところに魅力を感じていたんですか?

橋本薫(ヴォーカル、ギター)「最初に聴いたのは前のミニ・アルバム『ほったらかシリーズ』なんですけど、こんなバンドはそれまで日本にいなかったから衝撃を受けました。今の日本のバンド・シーンは〈踊れ!〉とか言いつつ、実際はそこまでちゃんとビートやグルーヴのことを考えていないバンドが多いと思うんですけど……」

マナ「めっちゃわかるー」

橋本「それに対して、CHAIは本当の意味でダンサブルだったし、他のバンドとは圧倒的に違うんだなと思いました。しかも踊れつつ、歌詞も耳に残る。僕もいろいろな要素を詰め込みたいタイプなのでシンパシーを感じたし、それをちゃんと形にできているのが凄いなって」

2016年のEP『ほったらかシリーズ』収録曲“ぎゃらんぶー”
 

――橋本さんがCHAIを聴いて、想起した他のバンドはいました?

橋本「サウンド的にはCSSやゴシップなど、2000年代初頭にニュー・レイヴやポスト・パンクと言われたバンドを思い出しました。ただ、そのあたりの雰囲気がありつつも、あふりらんぽとかがいきなり出てきたときに近いフレッシュさも感じて。だから、何物にも似てないバンドが出てきたという衝撃ですね」

――今CSSとゴシップの名前が出てきましたけど、実際にCHAIが影響を受けた存在は?

マナ「CSSは大好き。いっぱいあるよ。トム・トム・クラブ、ベースメント・ジャックス、ジャミロクワイ、タワー・オブ・パワー、ビースティ・ボーイズ……」

ユウキ「ゴリラズ、N.E.R.D、ウィークエンドも好き」

マナ「あとはフェニックス!」

ユウキ「ディスクロージャーもジャスティスも!」

マナ「めっちゃ出た(笑)」

CSSの2005年作『Cansei De Ser Sexy』収録曲“Alala”
フェニックスの2000年作『United』収録曲“If I Ever Feel Better”
 

――なるほど。いずれもCHAIのサウンドに血肉化されている印象です。いろいろな年代のさまざまなジャンルのバンドを出してくれましたが、彼らに共通点はあると思いますか?

ユウキ「ダンサブルってこと?」

マナ「あと、自由ってことじゃん? 展開がワンパターンじゃないし、本人以外には真似できない音楽。CHAIでは表現できないものを持っとう。自分たちでは絶対になれやんものが好き。CHAIで近い曲はできたとしても、同じにはなれない」

ユウキ「うん。そんくらい強いものを持ってる人が好き」

――だから、CHAIも彼らを真似をしたいわけではないんですよね。

マナ「うん、真似じゃない」

ユウキ「すごく好きだけど、同じことをCHAIがしなくていいよね」

――では、CHAIの2人は、Helsinki Lambda Clubのどんなところが好きですか?

マナ「えー、もういっぱいある。まず薫さんはメロディーのセンスがあまりにも良すぎる。曲は外国っぽいのに歌詞は日本語で、そのハメ方がすごく上手!」

ユウキ「歌詞が頭に残るもんね」

マナ「ヘルシンキは音に隙間があるから、メロディーの良さがちゃんと伝わる。今、お洒落なバンドはいっぱいいるし、英語で歌っている人も多いけど、私はヘルシンキがダントツで好き」

ユウキ「演奏も上手いし、ライヴも良いし。あと、セクシーだよね。チャラさじゃなくて色気が出てる」

橋本「めっちゃ褒められてる(笑)」

2016年作『ME to ME』収録曲“目と目”
 

マナ「だからガチで好きなんですよ(笑)。ヘルシンキも、その人たちなりの、その人たちにしかできない表現をやってる」

橋本「洋楽っぽいサウンドでそれらしい英語の歌詞を乗せて、みたいなのはそんなに好きじゃないんです。それだったら洋楽を聴くし、自分にしか出来ないものを作りたい」

ユウキ「大賛成。みんな似てるよね。つまんない」

マナ「私は、Aメロ~Bメロ~サビみたいなわかりやすいものも、あんまり好きじゃないかも。あとCHAIとしては、あんまり直球の歌詞は書かないかな。例えば〈会いたい〉とか、私は歌えない。〈好き〉とか〈愛している〉とか〈がんばれ〉とかも」

ユウキ「応援ソングはイヤだよね。〈絆〉みたいな言葉をCHAIが言うのは違う(笑)」

マナ「あと、〈仲間〉とかね。それをもっと違う言い方では表現しようと思うけど、ストレートには言いたくない」

――応援や慰めとしての歌ではなく、CHAIは聴き手が自然と自分を肯定できるようなメッセージを歌っていますよね。

マナ「歌ってます!」

――だからこそ、CHAIの音楽が日本の女の子像を更新してくれるんじゃないかという期待があるんですよ。

ユウキ「えー、嬉しい! それが狙い」

マナ「今の世の中にある〈可愛い〉を変えたいんだよね。私たち自身、凄くコンプレックスが多いからね。クラスに10人可愛い子がいるとすれば、その10人には入らなかった存在だし、周りから〈可愛い〉と言われて育った4人じゃない。だからこそ、反骨精神があるし、誰よりも可愛いと言われたい。自信がなかったからこそ、毎日鏡に向かって〈私は可愛い、私ならできる〉とおまじないみたいに言ってきた。それで自信をつけて、今はコンプレックスを武器に生きているし、みんなにも自分を否定し続けるんじゃない生き方もあるよと知ってほしい。〈そのままでいいんだよ〉ってことを伝えたい」

ユウキ「ほんとはみんな可愛いんだよ」

マナ「ブスな女の子なんていない」

――美醜というのは概して、客観的な評価だと思われがちですよね。誰かから思われる/言われるものとして、他人の目を通じて判断されるものとして。それがゆえに、○○と比較して、私は可愛い/可愛くないと悩んでしまう。

ユウキ「うんうん」

――だから、CHAIのやろうとしていることは、〈可愛い〉という言葉を、他人のものじゃなく自分のものにするということだと思うんです。

マナ「わー、確かにそう!」

ユウキ「そういうこと!」

マナ「だからさ、〈可愛い〉と言われたら〈ありがとう〉と言ったらいいんだよ。日本人はそう言われたら〈私なんて可愛くないよ〉って否定するじゃない?」

ユウキ「でも、〈ありがとう〉って認めたら自分のものになるよね」

橋本「前の『ほったらかシリーズ』のときは、さっきコンプレックスが反発心になったと言っていたけど、〈なにくそ〉って感じで戦っているイメージだったんですよ。今回の特に“sayonara complex”は、〈認めてあげる〉という肯定感が凄く出ていますよね。しかも、コンプレックス自体にサヨナラを言っているわけではない。だから、コンプレックスも個性だと思うんですよ。この曲は、コンプレックスをネガティヴに捉える見方に対してサヨナラと言っているんじゃないかな」

ユウキ「すごい」

マナ「ちゃんと聴いてくれていて嬉しい」

橋本「そこで、サヨナラできたら自分を変えられると思うんです。でも、それまでの自分とお別れする寂しさもちょっと出ているんですよね。それが伝わってくるから、泣きそうになる(笑)」

――“sayonara complex”は名曲ですよね。今、橋本さんが言われたように、いやおうなく時間が過ぎていってしまうことへの前向きさとセンチメンタリズムを溶け合わせていて、その点においてもくるりの“バラの花”スマッシング・パンプキンズの“1979”に匹敵する、と言ってもいいくらい。

マナ&ユウキ「わー嬉しい! 今度はCHAIが褒め殺されている(笑)」

――しかも、可愛さ自体を否定していない。〈かわいいだけの私じゃつまらない〉という想いに辿り着くまでの流れがたまらなく感動的です。

橋本「そうなんですよ。そこにバンドの成長を重ねることもできて、めちゃくちゃグッとくる」

――CHAIの2人とって、自分の生き方を後押ししてくれた存在はいますか?

マナ「私は、CSSのラヴフォックスとトム・トム・クラブのヴォーカルかな」

――ティナ・ウェイマスですね。

マナ「そうそう。もうおばさんなのに2つ結びして、そんなに細くないからパンパンのワンピースでピュンピュン跳ねている感じがもう堪らなく可愛い。それを見て、そのままでいいんだなと思えた。何も隠す必要なんてないんだなって」

ユウキ「気にしている自分がバカだなと思っちゃった」

トム・トム・クラブの2009年のライヴ映像