写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

オリジナリティをベースに、メロディアスにジャンルを横断するトリオ作品

 前作もロブ・ジョスト(b)とグレッグ・ジョゼフ(ds)とのトリオを核に、ギターやハーモニカの演奏家をゲストに迎え、電気・電子ピアノを用いてポップなフィールを前面にしてみせた。多才なケヴィン・ヘイズ(p)はそこで歌手としても優秀なところを聴かせている。

 「僕はどんなインスト曲もヴォーカル曲のように、メロディに重点を置いて聴く傾向がある。ピアノを演奏する時も、必ず歌のように微妙なタイミングを持ったフレーズを意識するんだ。そのためには常に自分の直感とつながって、それを数万分の1秒の正確さで実行できる準備をしておかなければならない。前作では、それを実際のヴォーカルで試してみたってこと。だけど音楽って、気まぐれな魚のようにどこへ泳いでいくか分からない。僕はそいつの泳ぎに任せることも、自分の音を完成させるのに肝心なことだと思っている」

KEVIN HAYS NEW DAY TRIO North SunnySide/King International(2016)

 尊敬するソニー・ロリンズたちから、ヘイズはそんな作法を学んだという。そして新作の『ノース』では彼がここまでひたすら堀り下げてきたアコースティックな、真に眩惑的でスリリングで詩的な(歌のない)ピアノ・トリオの形態へ立ち戻り、ジャンルの枠を超えて活動するメンバーたちと新しいドアを開いたのだった。美しいメロディを最優先に、優秀なコメディアンが持ち合わす絶妙なタイミングで3方向から音を交わらせる…。狂おしいほど心に響く音が完成していた。そこでヘイズはこれに、“ニュー・デイ・トリオ”というオリジナル名を冠することにしたわけである。

 「グレッグはブルックリン時代にルーム・シェアしていた盟友。その後サンタフェで4年間暮らし、またNYへ戻ってきた時彼から紹介されたのがロブだった。2人ともポップスも、ロックも、ブロードウェイの仕事もこなすし、何より波長がよく合うんだ。多くのツアーをこなし、前作にはなかった熱量と熟成が感じられるようになってきた。そう、まるで南国の蝶が飛び交い花粉を舞い上げるような現象が起こったんだ。人の心にコネクトできる演奏を、そこで実感できたのさ」

 既成曲ではそれを鋭い目線で見つめ、解体し、原作がどこにあったのか見過ごすほど再創生してみせる。が、その新しい躍動感や美しさは驚きものだ。自作曲から想起される種々の感情もまた格別で、人は誰しも複数の思いを混在させ、そんな状態を表現したくて音楽と向き合うのだとヘイズは言う。ただしそれは混乱へと転じるものでもあり、そうならないための秩序的バランサーとして本作で“ノース(北=指標)”を掲げてみたというわけである。ヘイズにとっての“ノース”は、これまでの経験で克ち得てきた、いくつかの心の拠り所をも意味する。あまりに深淵かつ優雅な仕様。