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愛の素晴らしさを伝えたい

――そういう荒技や無茶なことの果てにできた『WAVES』は、いろんな想いのこもった作品だと思うんですけど、出来上がっての率直な感想を教えてください。

粕谷「前作よりも曲のクォリティーも上がったし、歌っているテーマも大きくなったなと思うんです。2人が入ってくれたおかげで音楽的な素養も充実していて。例えば細かい音の位置とか、どうやったら音の抜けが良くなるかって部分もそうだし、単純に演奏もすごくいいし。僕らも長くYogeeをやってきたなかで、今がベストな状態でやれているとアルバムを聴き返して思いましたね」

――今回、一度出来上がったミックスを再度やり直していましたね。1度目のミックスはデッドな音像で生々しく演奏が耳に飛び込んでくる感じだったのが、完成形は低音が強調されて音に厚みが出ていた。曲のダビーな要素も強調されて深みが出た印象を受けました。

粕谷「北さん(北澤学/Bayon production代表)が最終的なマスター音源を聴いて〈すごく良いんだけど平たく聴こえちゃうから、もっと出すところは出して引くとこは引いたほうがいいんじゃないか〉と伝えてくれて。俺も実は同じことを思っていたんですよね。良いんだけど聴き流せちゃうなって。自分たちだけで血眼になって作った作品だからこそ引いて見られない面があった。そこで、こうやってギリギリのスケジュールでもしっかりと意見を言ってくれる人がいるからこそ、ちゃんと愛される作品になるんだなって思いましたね」

角舘「北さんが、いい感じにスパイスをつけてくれたのは大きかったですね。俺は、トゲトゲしさや歪さを出しすぎていたし、放っておいたらYogeeを壊しかねなかったんですけど、そこをいいバランス感でフォローしてくれた。北さんはレコーディングにあんまり来られなかったから、客観的な耳で聴いてくれたのが良かったのかも」

――音を聴いて思ったのは、Yogee New Wavesってシティー・ポップとよく言われますけど、むしろ今作は90〜2000年代にかけてのオルタナティヴのニュアンスが出たのかなって思って。サニーデイ・サービスやフィッシュマンズとか。

角舘「ずっと好きなバンドなんでその影響は出ているかもしれないですね。俺は特にアルバムの前半部分で、自分の中のハイスタ感が出たなぁと思っているんですよ。メロコアにはなってないんだけど、ロックンロールの要素が前面に表れていて。〈どこが?〉と言われると、自分でもなかなか説明しづらいんですけど(笑)。あと、いまフィッシュマンズの名前を出してくれたけど、昔からダブは好きなジャンル。ギターでメジャー7thのコードを舐めるように弾くのがYogeeの音楽的な色の一つだと思っているんです。ダブという音楽ジャンルにあるエスケーピズムを、Yogeeでは体現しようとしています」

――山田健人さんによるミュージック・ビデオも素晴らしかった“World is Mine”は、現実の世界をもっとキラキラとしたファンタジックな観点から眺めている楽曲ですが、こういうロマンティシズムが角舘さんの表現に見られるのはなぜでしょうか?

角舘「僕はこれをファンタジーだと思って書いてないんです。僕のなかではありのままの現実だし、彼女に対してロマンティシズムを爆発させることも、ごく日常的にやっている。“World is Mine”を僕の現実に当てはめるのであれば、好きな子に対して〈こんな街を出て、俺と一緒にどっか行こうぜ〉と言っていることの誇張表現なんじゃないかな。ただ、曲のテーマとしては、リスナーに対してのプロポーズでありますね。〈あのヒーローは嘘をついているぜ、俺らと一緒に行こうぜ!〉と誘っている」

――ロックンロールや音楽の未来を引き受けようという意思表明なんでしょうか?

角舘「うーん、引き受けるところは引き受けますけど、 みんなそれぞれが自立しなきゃいけないんだから。強制ではなく、インスピレーションを与えて鼓舞しようと俺は思っていますね。結局、夢を見たことのある奴にしか夢は語れないし、恋愛をしたことのある奴しか恋愛は教えてあげられない。それと一緒で、俺は音楽をやる楽しさを知っているから、曲を聴いてくれる人たちにも、その楽しさを共有したいんです」

――“HOW DO YOU FEEL?”もそういうYogee流のヒロイズムが表れている楽曲なんじゃないかと思うんです。歌詞のなかでも〈Sister〉という象徴的な庇護すべき存在が出てきますけど、ここまで他者に対して全面的に祈りのような〈愛〉を歌っているアンセムは、この10年ぐらいなかったんじゃないかなと思って。

角舘「〈Sister〉というのは俺のなかで尊いもの、ホーリーなものの象徴なんですよ。みんなで一生懸命守ってあげなきゃいけない存在。人は人を愛したほうが絶対に大きくなると俺は思うんです。俺は人に愛情を与えられた経験がすごく心に残っていて、与えてくれた人たちに感謝している。音楽の感動をみんなにわかってもらいたいと思うのと同じで、愛の素晴らしさを伝えたいと思う。つまんないことや悲しいことがなくなって、嬉しいことがもっと増えればいいし、俺らの音楽を聴いてくれた仲間内からそれが始まったら最高だなって」

粕谷「この曲を最初に録音したとき、メンバーそれぞれがヘッドホンで聴いていたんですけど、曲が終わると、その場でみんな動けなくなっちゃった。そして、全員で目を合わせた瞬間、泣きながら抱き合ったんです。〈お前、本当にいい曲書いたな! ありがとう!〉と、普段出ないような感情が爆発しちゃって。ラフミックスの音源で聴いても、曲の力を感じました」

――粕谷さんは、ライヴでもすごくいい顔で歌詞を口ずさみながらドラムを叩いているときがありますよね。

粕谷「そうですね(笑)。歌詞がハマった時はズブズブ刺さって来ちゃって、ライヴやりながら泣きそうになるときあります。自分でも怖い(笑)」

角舘「〈これはあいつに刺さるぞ、ヘッヘッヘッ〉ぐらいの気持ちで歌詞を書いたりしますよ(笑)。でも、曲は出来上がるともう俺の手元を離れちゃっているから、自分でも自分が歌っている歌詞に感情移入してグッときていることがあります。急に〈あれ、これ、俺が作ったんだよね?〉と気付くこともある(笑)」

 

50歳になったときに演奏していてもおかしくない作品

――5月13日に放送されたTOKYO FMの番組〈KIRIN BEER “Good Luck” LIVE〉のなかで、角舘さんがシティー・ポップについて〈生き様が表れている音楽〉と言っていました。Yogee New Wavesが考える、シティー・ポップとは?

角舘「シティー・ポップをやっている人たちは今も昔も達観していると思うんです。流行している音楽と、自分たちの持っているものとの関係に、ある種のニヒリズムとアンチテーゼを持ちながら、そのうえで自分たちにできることを最大限に引き出していく音楽だと俺は勝手に思っていて。だからこそ、今はソウルや横ノリのファンクが流行っていて、それはそれで大好きなんですけど、俺らがやることは全然違うんですよね。流行りに乗るんじゃなくて、それを見つめつつ、もっと自分たちの可能性を広げなきゃいけない」

――そんななかで、今4人が大切にしているものは何なんでしょう?

上野「音楽って突き詰めていくと、どんどん内向きになっていきがちなんだけど、普通の人はそうやって音楽を聴いているわけじゃないし、生活のなかに音楽があるわけですよね。ミュージシャンだからちょっと変わっている部分があるとは思うんですけど、でも、それを受け入れちゃったら狭い世界で生きていくことになる。音楽が好きなだけの普通の人たちとして、普段の生活のなかで音楽がずっと続けていけたらなと思います」

角舘「本当にその通りだね。俺も自分のこと普通だと思っているし、そうじゃないと思われることも多いんだけど、すごく憤りを感じるし。そういう感覚が大事だよね」

――山下達郎さんが今年のライヴ・ツアーのMCで〈今の若手のアイドルやミュージシャンが、今の自分と同じ年齢になったときに同じクォリティーで音楽をできているかは疑問だ〉という趣旨の話を冗談混じりでされていたんですよ。これも挑発的な発言ですが、今のYogee New Wavesが思い描く未来像はどんなものでしょうか?

角舘「角舘「いや、本当に山達さんは最高ですね。俺もそう思います(笑)。でも、俺らには俺らの時代と価値観があって、最初の話に戻るけど〈若気の至りと評されるとして。俺たちが楽しいのがいっちばん楽しい!〉んですよ。山下達郎さんが仲間たちとひとつの時代を作ったように、この言葉に〈おぉ!〉っと感銘を受けた人たちと共に、僕らも新しい時代を作っていくんだと思います」

粕谷「30年後もバンドをやっていることが、意外と想像できるようになったんですよ。アルバムの歌詞を読んでも、俺らが50歳になったときに演奏していてもおかしくないなと思える。それくらい、歌詞も曲も普遍的なことを歌っていますよね。普遍的な音楽とは何なんだろうってずっと考えていたんですけど、30年後、40年後も演奏できていたらそれは絶対に普遍的な音楽だなと、今日あらためて思いました」

角舘「今は、4人がテレパシーとシンパシーで繋がったような感じなんですよ。頭でもいろいろ考えるんだけど、先に身体でそう感じている。一緒にいてとにかく楽しいし、間違いじゃなかったなと思えます。大事なものを最初に共有できたたし、これからもそれを携えて音楽を鳴らしていくんだろうな」

 


Live Infomation
〈RIDE ON WAVES TOUR〉

2017年5月25日(木)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2017年5月26日(金)岡山YEBISU YA PRO
2017年6月4日(日)仙台JUNKBOX
2017年6月10日(土)大阪・梅田TRAD
2017年6月11日(日)福岡GRAF
2017年6月16日(金)北海道・札幌KRAPS HALL
2017年6月20日(火)東京・赤坂BLITZ
2017年6月30日(金)沖縄OUTPUT
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