高校の音楽の教科書に掲載された“Six Greetings”など数々の人気ボカロ曲を手掛け、東京女子流らへの楽曲提供、ゲーム音楽の制作でも知られるサウンド・クリエイターのきくお。そして、あらゆる難曲を歌いこなす驚異の歌唱力でネットを中心に支持を集め、昨年には映画「ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~」の挿入歌を歌うなど、活躍の場を広げている女性シンガーのYURiCa/花たん。この実力者2人から成るユニットの〈きくおはな〉が、セカンド・アルバム『第二幕』を完成させた。
2016年リリースのデビュー作『第一幕』にて、みずから〈ぶっ壊れおとぎ話〉と称するダークかつシアトリカルな歌世界を広げてみせた彼ら。それに続く今回の『第二幕』では独特の毒々しい色味をさらに深めつつ、エレクトロニカからジャズ、ミュージカル、オペラ、テクノ、ブレイクビーツ、サンバ、フォルクローレ、タンゴ、ミュゼットまで、あらゆるジャンルを組み込んだ精緻極まりないサウンドと、楽曲どころか小節ごとに表情を変化させる花たんの圧倒的な歌唱で、妖しくも中毒性の高いアヴァンギャルド・ポップスを生み出している。ジャケット・イラストは、アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の魔女/空間デザインなどで著名な劇団イヌカレー・泥犬が前作に続いて手掛けており、絵本仕立ての特装パッケージやミュージック・ビデオといったヴィジュアル面も含め、アート性の高い作品とも言えるだろう。
この独創性に満ちた音楽は、一体どういった構想のもとに生まれ、どこに向かおうとしているのか。ディープなようでいて意外とふわふわしている、きくおと花たんの不思議なコンビに話を訊いた。
2人の良さがいちばん出るのが、ドローッとした世界観だった
――Mikiki初登場ということで、まずは結成のいきさつを教えてください。
YURiCa/花たん「まず、私がきくおさんの“月の妖怪”(2011年)という和風でダークな感じのボーカロイド楽曲を素敵に感じまして、〈歌ってみた〉動画で歌わせていただいたんです。それをきくおさんご本人が聴かれたのが出会いのきっかけでした」
きくお「自分は“月の妖怪”の〈歌ってみた〉ですごいのがあるということをTwitterで知って、実際に聴いてみたら〈すげえ〉ってなったんです。そこで花たんの存在を知りましたね」
――そこからユニットを結成するまでの間に、何曲か一緒に制作されてますよね。
花たん「私が『Dirndl.Frau』(2012年)という同人CDを作ったときに、きくおさんに楽曲制作を依頼したのが最初になります。その作品は〈赤ずきんちゃん〉をテーマにしたもので、いろんな方に赤ずきんの物語をモチーフにした楽曲を作っていただいたんですが、きくおさんの楽曲は歌詞やストーリー性がとても深いのでお願いしました」
きくお「そこから、花たんの作品に指名をいただく形で誘われるようになって。何曲か一緒に作っていくなかで、自分としてもすごく良い曲が出来たと思えたので、お互いにガッツリ何か作ってみたいという雰囲気になったんです」
――花たんさんのアルバム『Flower Rail』(2015年)に収録されている“うらみのワルツ”という楽曲は、『第一幕』にも〈第一幕Mix〉という形で収録されています。この曲が起点となってユニットが本格化したのでしょうか?
きくお「そうですね。“うらみのワルツ”はもともと花たんのアルバムの一曲として自分が参加したものだったんですけど、この曲がものすごく早く出来たので、その流れで何か一枚作りませんかみたいなことを何となく話して(笑)、『第一幕』を作ることになりました」
花たん「『第一幕』を制作しはじめた時は自分の新しいアルバム(『ERiCa』)も制作していたんですけど、そっちが全部終わってない間に2~3曲がドドドーッって上がってきて。これどっちが先に出るんだろうと思うくらい早くて(笑)」
きくお「曲があればあとはどうとでもなるって感じでしたね(笑)」
――きくおさんは、それまでにもやなぎなぎさんやDAOKOさんといった方に楽曲を提供されたり、しーく(si_ku)さんとのコラボ作『いきものの魂のゆくえ』を制作されたり、女性ヴォーカリストの方とご一緒する機会が多かったわけですが、そのなかでなぜ花たんさんとユニットを組もうと思ったのですか?
きくお「まあ、そういう流れだったからですね(笑)。もともと2~3年くらい前からやりたいというムードはあったんですよ。それがダダーと流れ出したというか。それまでに花たんに提供した3曲にはドローッとした感じがあったので、その路線で何かやれば良いものができるんじゃないかと思って」
――その曲調が花たんさんの歌声にも合うと思ったわけですか?
きくお「そうなんでしょうね。自分と花たんのテイストをどういうふうに合わせればいちばん良いのか探っていったら、そこに着地したみたいな。だから、最初からコンセプトをガッチリ決めていたわけではないんですよ。結果的にこのようなダークな雰囲気になったという(笑)」
――前作も今作も〈ぶっ壊れおとぎ話〉というキャッチコピーが付いてますが、それも結果的にということですか?
花たん「そうですね」
きくお「だから〈ぶっ壊れおとぎ話〉も微妙にしっくりきてない感じがあるんですよね」
――えっ、そうなんですか!?
きくお「人にどんな作品かを伝えるにあたって、キャッチコピー的なものを上手く付けないといけないじゃないですか。それで何だろうと思って、〈ぶっ壊れ〉プラス〈おとぎ話〉みたいな感じですかねえってポロッと言ったら、じゃあそれでいきましょうとなって(笑)」
――わりといろいろな部分がふわふわしてますね(笑)。では、そのように意気投合して『第一幕』を作られて、それに手応えを感じたので今回の『第二幕』の制作に入ったわけですか?
きくお「もともと一枚で終わらせるつもりは1ミリもなくて。最初から『第二幕』どうします?みたいなことは言っていて、もう『第四幕』ぐらいの話までしてますよ(笑)」
――ええっ!? 先ほどから衝撃の事実だらけですが(笑)。
きくお「そのほうが自然じゃないですか。一枚で終わっちゃうほうが不自然な気がして」
花たん「私も出すのを許してもらえる限りは作り続けたいですね」