INTERVIEW

きくおはな〈第二幕〉もアヴァンギャルド全開! 精緻極まりないサウンド×驚異の歌唱力、カオスな不思議コンビはどこに向かう?

きくおはな『第二幕』

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  • 2017.05.30
きくおはな〈第二幕〉もアヴァンギャルド全開! 精緻極まりないサウンド×驚異の歌唱力、カオスな不思議コンビはどこに向かう?

高校の音楽の教科書に掲載された“Six Greetings”など数々の人気ボカロ曲を手掛け、東京女子流らへの楽曲提供、ゲーム音楽の制作でも知られるサウンド・クリエイターのきくお。そして、あらゆる難曲を歌いこなす驚異の歌唱力でネットを中心に支持を集め、昨年には映画「ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~」の挿入歌を歌うなど、活躍の場を広げている女性シンガーのYURiCa/花たん。この実力者2人から成るユニットの〈きくおはな〉が、セカンド・アルバム『第二幕』を完成させた。

2016年リリースのデビュー作『第一幕』にて、みずから〈ぶっ壊れおとぎ話〉と称するダークかつシアトリカルな歌世界を広げてみせた彼ら。それに続く今回の『第二幕』では独特の毒々しい色味をさらに深めつつ、エレクトロニカからジャズ、ミュージカル、オペラ、テクノ、ブレイクビーツ、サンバ、フォルクローレ、タンゴ、ミュゼットまで、あらゆるジャンルを組み込んだ精緻極まりないサウンドと、楽曲どころか小節ごとに表情を変化させる花たんの圧倒的な歌唱で、妖しくも中毒性の高いアヴァンギャルド・ポップスを生み出している。ジャケット・イラストは、アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の魔女/空間デザインなどで著名な劇団イヌカレー・泥犬が前作に続いて手掛けており、絵本仕立ての特装パッケージやミュージック・ビデオといったヴィジュアル面も含め、アート性の高い作品とも言えるだろう。

この独創性に満ちた音楽は、一体どういった構想のもとに生まれ、どこに向かおうとしているのか。ディープなようでいて意外とふわふわしている、きくおと花たんの不思議なコンビに話を訊いた。

きくおはな 第二幕 Subcul-rise(2017)

 

2人の良さがいちばん出るのが、ドローッとした世界観だった

――Mikiki初登場ということで、まずは結成のいきさつを教えてください。

YURiCa/花たん「まず、私がきくおさんの“月の妖怪”(2011年)という和風でダークな感じのボーカロイド楽曲を素敵に感じまして、〈歌ってみた〉動画で歌わせていただいたんです。それをきくおさんご本人が聴かれたのが出会いのきっかけでした」

きくお「自分は“月の妖怪”の〈歌ってみた〉ですごいのがあるということをTwitterで知って、実際に聴いてみたら〈すげえ〉ってなったんです。そこで花たんの存在を知りましたね」

きくお“月の妖怪”
 
花たんによる“月の妖怪”
 

――そこからユニットを結成するまでの間に、何曲か一緒に制作されてますよね。

花たん「私が『Dirndl.Frau』(2012年)という同人CDを作ったときに、きくおさんに楽曲制作を依頼したのが最初になります。その作品は〈赤ずきんちゃん〉をテーマにしたもので、いろんな方に赤ずきんの物語をモチーフにした楽曲を作っていただいたんですが、きくおさんの楽曲は歌詞やストーリー性がとても深いのでお願いしました」

きくお「そこから、花たんの作品に指名をいただく形で誘われるようになって。何曲か一緒に作っていくなかで、自分としてもすごく良い曲が出来たと思えたので、お互いにガッツリ何か作ってみたいという雰囲気になったんです」

――花たんさんのアルバム『Flower Rail』(2015年)に収録されている“うらみのワルツ”という楽曲は、『第一幕』にも〈第一幕Mix〉という形で収録されています。この曲が起点となってユニットが本格化したのでしょうか?

きくお「そうですね。“うらみのワルツ”はもともと花たんのアルバムの一曲として自分が参加したものだったんですけど、この曲がものすごく早く出来たので、その流れで何か一枚作りませんかみたいなことを何となく話して(笑)、『第一幕』を作ることになりました」

YURiCa/花たんの2015年作『Flower Rail』収録曲“うらみのワルツ”
 

花たん「『第一幕』を制作しはじめた時は自分の新しいアルバム(『ERiCa』)も制作していたんですけど、そっちが全部終わってない間に2~3曲がドドドーッって上がってきて。これどっちが先に出るんだろうと思うくらい早くて(笑)」

きくお「曲があればあとはどうとでもなるって感じでしたね(笑)」

――きくおさんは、それまでにもやなぎなぎさんやDAOKOさんといった方に楽曲を提供されたり、しーく(si_ku)さんとのコラボ作『いきものの魂のゆくえ』を制作されたり、女性ヴォーカリストの方とご一緒する機会が多かったわけですが、そのなかでなぜ花たんさんとユニットを組もうと思ったのですか?

きくお「まあ、そういう流れだったからですね(笑)。もともと2~3年くらい前からやりたいというムードはあったんですよ。それがダダーと流れ出したというか。それまでに花たんに提供した3曲にはドローッとした感じがあったので、その路線で何かやれば良いものができるんじゃないかと思って」

きくお feat. si_kuの2013年作『いきものの魂のゆくえ』トレイラー
 

――その曲調が花たんさんの歌声にも合うと思ったわけですか?

きくお「そうなんでしょうね。自分と花たんのテイストをどういうふうに合わせればいちばん良いのか探っていったら、そこに着地したみたいな。だから、最初からコンセプトをガッチリ決めていたわけではないんですよ。結果的にこのようなダークな雰囲気になったという(笑)」

――前作も今作も〈ぶっ壊れおとぎ話〉というキャッチコピーが付いてますが、それも結果的にということですか?

花たん「そうですね」

きくお「だから〈ぶっ壊れおとぎ話〉も微妙にしっくりきてない感じがあるんですよね」

――えっ、そうなんですか!?

きくお「人にどんな作品かを伝えるにあたって、キャッチコピー的なものを上手く付けないといけないじゃないですか。それで何だろうと思って、〈ぶっ壊れ〉プラス〈おとぎ話〉みたいな感じですかねえってポロッと言ったら、じゃあそれでいきましょうとなって(笑)」

――わりといろいろな部分がふわふわしてますね(笑)。では、そのように意気投合して『第一幕』を作られて、それに手応えを感じたので今回の『第二幕』の制作に入ったわけですか?

きくお「もともと一枚で終わらせるつもりは1ミリもなくて。最初から『第二幕』どうします?みたいなことは言っていて、もう『第四幕』ぐらいの話までしてますよ(笑)」

――ええっ!? 先ほどから衝撃の事実だらけですが(笑)。

きくお「そのほうが自然じゃないですか。一枚で終わっちゃうほうが不自然な気がして」

花たん「私も出すのを許してもらえる限りは作り続けたいですね」

 

宇多田ヒカル“Automatic”で、ヴィブラートというものを知った

――まあ、ひとまずは『第二幕』のお話ということで(笑)。作詞と作曲はすべてきくおさんが手掛けられていますが、今回はどの曲から作っていかれたのですか?

きくお「最後の曲“ぽんこつ人形の唄”からですね。花たんはポテンシャルのすごく高い方なので、いろんな角度から曲を投げたら、もっと歌のポテンシャルを引き出せるというのがあって。『第二幕』では『第一幕』に比べて歌にもっと起伏があればと思っていたので、この曲では前半と後半で展開を大きく分けて、すごく弱く歌うところとすごく盛り上がるところを作りました」

花たん「『第一幕』は2人でガッチリ組んで作る初めてのアルバムだったので、お互いにテンションが上がっていて、ものすごく気合いが入ってたんですよ。なので感情を豊かにすることは大事にしながらも、強めに歌い上げることが多くなって。だから、『第二幕』は個人的にももっと強弱をつけて歌いたいと思っていたんです」

きくお「何も話し合ってないのに共通の認識があったのがおもしろいですよね」

――花たんさんは実際にこの曲を受け取って、どう歌おうと思われましたか?

花たん「きくおさんの曲と歌詞はイメージがすごく浮かび上がってくるので、まず自分のなかで映像に起こしてから歌うことが多いんです。音もたくさん入ってるのにひとつひとつに意味があるので、物語を作りやすいというか。“ぽんこつ人形の唄”を最初に聴いたときはミュージカルみたいな、暗い舞台にスポットライトがひとつ当たっていて、そこで人形が静かに歌ってるようなイメージが浮かびましたね」

――確かにこの曲は歌い方にもミュージカルっぽい部分がありますね。少し話が逸れますが、今作では“そこにはまた迷宮”などでオペラ風の歌唱も披露されています。花たんさんには声楽の素養があるのでしょうか?

花たん「全部自己流で、オペラ歌手さんの真似をしてるというか(笑)。“そこにはまた迷宮”は、出だしの部分と最後のサビは男性でアルトのオペラ歌手のイメージでちょっとゴツく歌っていて、サビはソプラノのオペラ歌手というイメージはありました」

――自己流でここまで歌えてしまえるのがすごいですね。

きくお「そうなんですよ。そういうところを見せていきたいんですよね」

花たん「昔から歌うことが好きだったんですけど、最初は技術的なことは何も知らなかったんです。宇多田ヒカルさんがデビューされた頃、“Automatic”のちりめんヴィブラートを聴いて、このすごく小刻みな震えは何なんだろうって思ったりして(笑)。その歌い方に興味を持ったからひたすら練習して、ヴィブラートができるようになったんです」

宇多田ヒカルの98年のデビュー・シングル“Automatic”
 

――そうやっていろいろな歌い方を体得していったんですね。

花たん「もうひとつ苦戦したのは、元ちとせさんですね。初めて聴いたときにあの歌い方は何!?ってなって」

――あの方は奄美の島唄がルーツにありますものね。

花たん「別に歌手になりたいとは思ってなかったんですけど、昔からそれを歌いたいと思ったら研究してしまう性質なんです。あとは曲に合った歌い方をしないと曲に失礼だという意識があったので、歌い方に対するこだわりは昔から強かったです。練習したあとは、いかにその人に似ないように歌うかを研究したりとか(笑)」

――そこは物真似ではなく、自分の技術として体得したいと。

花たん「そうです。このクセを上手く自分のものにしたいと思って。でも、きくおはなの場合は、きくおさんの曲だからこそいろんな歌い方をしたくなるんだと思います」

きくお「嬉しいですね(笑)」

――きくおはなで音楽を作るにあたって、花たんさんからきくおさんに〈こんな曲を歌いたい〉といった提案をすることはありますか。

花たん「基本的に楽曲を作る方の世界観があるので、私はそこを大事にしたくて。曲や歌詞にどうやって自分の声を合わせたり、演じていけばいいかを考えるのが好きなんですね。ただ、“おわり祈願”という曲だけは、私がアヴリル・ラヴィーンの“Smile”にハマッていることをきくおさんに話したら、〈じゃあそんな感じの曲を作ってきます〉と言ってくださって出来た曲です」

アヴリル・ラヴィーンの2011年作『Goodbye Lullaby』収録曲“Smile”
 

――この曲がアヴリルだとは、言われるまで気付きませんでした(笑)。確かにビートのダイナミックなロック感とか、サビで開放的に歌い上げる部分はそれっぽくもありますが。

きくお「それっぽく作ろうと思ったらいきなり頭が3拍子になってしまって(笑)、難航しましたけど、結局きくおはな感のある曲になりました」

花たん「きくおさんと言えば3拍子ですものね(笑)。でも、ちょいちょいアヴリルっぽいところが感じられて、すごく考えて作ってくださったんだなって思いました(笑)」

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