KEN THE 390への恩返し

――いまお話に出たLick-Gさんは、カップリングに収録されている“Walking on water”のリミックス・ヴァージョンに招いていらっしゃいますが。

「リミックスはね、『OLIVE』をもう一回聴いてもらおうっていうのと、あと、これもほんとに悲しいことにウィズアウト・ジャパンだけど(笑)、今、鬼ほど流行ってるから入れようと思ってて。ブルーノ(・マーズ)の最近のヒット・シングルもブートのリミックスから火が点いて、オリジナルもPVになって」

――“That's What I Like”ですね。

「で、サウンドだけだとアレだから、ラッパーを呼ぶリミックスも作ろうと思って……っていうか、そう思ってたらついこの間、ブルーノ・マーズがオフィシャル・リミックスを3つ発表して(笑)。サウンド、サウンド、ラッパーでおんなじことしてると思って(笑)、哀しくなりました。なんかね、現実を思い知る。歳も近いから、考えること同じなのは当然なんですよ、変な話。だけど、向こうがやったことは世界的で、こちらはこの規模にしかなれないっていう現実を思い知るから、ブルーノ・マーズに対して本気で悔しがってたんですけど(笑)」

ブルーノ・マーズの2017年作『24K Magic』収録曲“That's What I Like”
 

――(笑)まあ、まだリスタートのタイミングですし。

「うん。そういうわけでラッパーを呼ぶってなったときに、Lick-GとRAU DEF……LとRですよ。左と右なんだけど、たまたま(笑)。まあRAU DEFはもともとリリースを手伝ってるし、それはなんでかっていうと、才能が図抜けてると思うから。ラップが単純に上手い人が脚光を浴びるシーンにしたいから、RAU DEFは呼ぼうと最初から思ってて。で、もう一人は誰にしようかなと思ったときに、そういえば、自分が最初にスポットを当ててもらったのはフィーチャリングで呼んでもらったときだな、と。それまでは、それこそバトルに出て、ネットに音源を上げて、それが少しだけバズって、っていうのをやってたんだけど、その頃にいち早く声をかけてくれたのがKEN THE 390で。それで2011年にKEN THE 390に客演で呼んでもらったのをきっかけに(KEN THE 390の2011年作『ONE』に収録の“What's Generation”にフィーチャリング)、正式にキャリアをスタートできた。完全にキャリアアップだったんだけど、確か、俺の思い違いじゃなければKENさんは、〈恩返しとかは俺にじゃなくて、日高のさらに下の若い子とかにいつかしてあげればいいよ〉みたいなことを言ってくれてたなと思って。で、ほらLick-GはKEN THE 390のレーベル(Genesis)から出てるから、KENさんへの恩返しをLick-Gを経由してやろうっていう(笑)」

“What's Generation”
 

――(笑)とはいえ、スキルの面でも思うところはあったんですよね?

「もちろん、もちろん。最近名前の上がる若い子で、一番ラップが上手いのはLick-Gだと思ってたから、いつか一緒に何かやれたらと思ってたのと、あと、トラップじゃない曲でのLick-Gを聴いてみたくて。声も一本でね。いつもはかぶせまくってやってるから」

――リリックへのリクエストは?

「もう、そもそもがボースティングだからあんまり言ってなかったんですね。だけど、二人とも最後に〈Walking on water〉でヴァースを締めるっていう(笑)」

――そこは指定していたわけではないんですね。

「うん。だから、ちょっと気持ち良かった。まあでも、正しいことをしてるときはそういうふうになるっていうのは知ってます。上手くいかないときはね、人選とかやり方とか、何かが間違ってるときが多いから」

 

現行への意識

――そして二つ目のリミックスは、TJOさんによる“ナナイロホリデー”。BPMが上がっていたり、ベースラインの動きが激しくなっていたり、原曲と比べてずいぶんアクティヴな仕上がりです。

「TJOがクラブでかけやすいのを作ってほしくて。もともとの曲も優秀なディスコ・ソングではあったんですけど、“Silly Game”が重いから、すごい軽快なやつを作ってほしいなと。iTunes用で“リインカーネーション”のリミックスも作ったんですけど、どっちも〈ハウス再構築〉みたいな感じで」

――そうですね。qliusさんが手掛けた“リインカーネーション”はトロピカル・ハウス仕様で意外でした。

「あ、そうですか? 全然好きですよ」

――『OLIVE』を通過してるので、今は全然アリだなって思いますけど、それまでの日高さんからここまでの開放感は想像できなかったかも。個人的にはエッジーな音に寄っていらっしゃるイメージを持っていたので。

「トロピカル・ハウスは流行りすぎててやりづらいっていうのは正直ありました。でも去年1曲ね、これもiTunes限定だけどカップリングで“Blame It On Me”っていう曲を出してて。(実際に聴いてみる)…………確かに明るくはないですね(笑)。ああでも、このレゲエのノリとかもいまだに続いてるもんな。現行(の音楽)はずっと聴いてるし、意識はしてますね。『OLIVE』とかもそうだけど。(ふたたび音を聴く)でもこれ、エド・シーランの“Shape Of You”と繋げてかけられそうですね」

――ああ~、確かに。

「トロピカル・ハウスはわかんないけど、レゲエのリズムはまだ流行りそうですよね。これとかも良い。(曲をかける)クレイグ・デヴィッド&シガラの“Ain't Giving Up”」

――ほかにもあります?

「ゆる~いレゲエで……どこらへんかな? メジャー・レイザーの新曲(パーティーネクストドア&ニッキー・ミナージュとの“Run Up”)も良かったな」

クレイグ・デヴィッドの2016年作『Following My Intuition』収録曲、シガラとの“Ain't Giving Up”
 
パーティーネクストドア&ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたメジャー・レイザーの2017年の楽曲“Run Up”
 

――3月からツアーで全国を回っていらっしゃいましたが、その間も新譜のチェックはされていたり?

「そうですね。まあ、今はしやすいですし。あとはなんか、いい友達が多い(笑)。周りから入ってきますね。自分もアンテナを常に張ってて、そういう情報をやり取りできる人間でいられてると勝手にいろんな音楽が入ってくるし、それが入ってこなくなったらたぶん、自分自身が情報を追えてない、っていうバロメーターになってるんじゃないかな。だから新譜を聴こうって意識してる感じじゃなくて、ナチュラルに新譜を聴けてる、情報が入ってくるっていうイメージですね」

 

海外へ行く理由

――なお、この“Silly Game”が次のタームへの第一歩になると思うんですけど、先の構想はあるんですか?

「あります。あるけど、次のアルバムまでの間にちょっと寄り道をしたくて」

――それはシングルで、という意味ではなく?

「それもあるし、海外に行くことをちょうどツアーのファイナルで発表してて。そもそも、俺が今なんとなく自分の土台に自信があるのって、(メディアでよく書かれるような)〈人気グループAAAメンバーのソロ・プロジェクト〉って感じじゃなくて、普通に自分の音楽をずっとやってたから。もう10何年目だし(笑)、ずーっと活動しててやっと、っていう感じがあるから、日本でもっと売れる予定ではあるんですけど、その前に一回、海外に行って、ちっちゃなライヴハウスを回るっていうのをやりたいなと思って。人が何人来るのか全然わかんないですけど、そうしたら振り切って、現行の音楽がやれるなと思って」

――海外というのは、どちらへ行かれるんですか?

「アジア、ヨーロッパ、アメリカ……いくつか回るんですけど、具体的なことはまだわからないんですよ。突然、航空チケットもらって〈えっ!?〉ってなるんじゃないかって、『電波少年』的に(笑)」

――(笑)ライヴをやりつつ、現地の音楽を直に吸収することが目的ということでしょうか。

「うん、普通に現行っぽいものを作るきっかけにもなるかなって。そういうのをやるのに、日本だとやっぱ、微妙な違和感をずっと感じてるから」

――それはなぜでしょう?

「自分の中のサービス精神にそぐわない。趣味になっちゃうっていうか。カッコ良いことをただカッコ良くやるっていうのは、もちろん喜んでくれる人が多いのはわかるし、w-inds.の(橘)慶太君が評価されるような状況になってきてるからタイミングを見てとは思ってるんだけど、日本はね、〈ヒップホップが好き〉って言ってもケンドリック・ラマーを知らないこともあるわけで(笑)、ドレイクがヒップホップかそうじゃないかみたいな論争をすることも少ないし。当のドレイクは自分のことを〈ヒップホップじゃない〉って言ってるけど。〈僕はマイケル・ジャクソンみたいにポップスを作ってるのに、グラミーとかでベスト・ラップ・ミュージシャンにノミネートされるのは遺憾だ。僕はポップスターなんだ、ラッパーじゃなくて〉って」

w-inds.の2017年作『INVISIBLE』収録曲“We Don't Need To Talk Anymore”
 

――まあ、ジャンルがどうというよりも、ケンドリックやドレイク、ヒップホップ~R&Bがメインストリームであるかどうかが欧米と日本との大きな違いなのかも。

「そうですね。良いとか悪いとかじゃなくて、日本はもうガラパゴスだから。現行っぽい音楽をやるにしても、日本の国内でCDシングルを出すときは、ちゃんと日本の音楽シーンを見て作りたい、愛情の一方的な押し付けはしたくないなと思ってたけど、こと海外へ目を向けたら、自然にそういうものを作れますよね。それってすごい健康的なことだし、どうせ行くなら海外で何曲か作りたいなあと。それこそ(ドレイクの最新作)『More Life』みたいに(笑)。ドレイクが『More Life』を作ってるときUKに5日間いたりして、〈ツアー終わったのにまだUKにいるぞ〉みたいに言われてたけど、たぶん、そこでアルバムの曲を作ってたんですね」

――じゃあ、日高さんがどこかの国に留まってたら、そこで曲を作ってるのかな?って。

「(笑)ですね。あと、友達増やしたいし。〈今後も世界平和を歌う〉ってツアーで言ったけど、国交のあり方が大きく変わることもあり得るから、今、いろんなところに行っていろんな人と会わないとね。もう第三次世界大戦は空想じゃないっていうか……5年前とかにそういう話したら〈陰謀論が好きな人〉〈ちょっとオカルトが好きな人〉みたいなニュアンスになってたと思うけど、今そういう話しても誰も笑わないでしょ? だから今なんだと思います、海外へ行くべきは。音楽的な意味でも、人間的な意味でも」