このすきっぱ青年が紡ぐ音世界には、ワイシャツのボタンを1つ掛け違えたかの如く微妙な違和感が漂っている。極上の昼寝音楽としてインディー愛好家の喝采を浴びた前作より3年ぶりのアルバムは、NYからLAへ引っ越したことが理由なのか、アコースティック色を強めて和みと脱力の別天地に辿り着いたような出来だ。誤解を恐れずに言えば、とびきり優れた曲を書くライターでも、求心力のある言葉を放つ歌い手でもない。だが、リヴァーブの効いた変なチューニングのギターと、薄っぺらいシンセ、そして気の抜けきった鼻歌みたいなヴォーカルは、聴き手を日常からやや外れた〈どこか〉へと軽やかに誘う、奇妙で強烈な魔力を孕んでいる。ジャケをよく見たらYMOの名前も刻まれており、生楽器とシンセを織り交ぜて巧みに現実との位相をズラした楽園的サウンドを奏でている本作と、〈プレYMO〉とも言うべき細野晴臣&イエロー・マジック・バンドの『はらいそ』には、意外と共通点が多いと思うのだけど、いかがだろう。