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不思議な温かみを持つササノマリイの音世界を形作るもの

 「音と組み合わさるから言葉がスッと入ってくる、それをものすごく美化したいというか。これを手紙として書き起こして、誰かに朗読するとしたら恥ずかしい言葉になるなって思ったり、そんなこと伝えてどうするのさ、ってなりかねないようなこともたまに書くんですけど、音楽の一部にすることによって、その言葉を受け取った人が同じ気持ちであるとしたら、楽になってくれるといいな、って。そういう音楽をいままで聴いてきて、僕は救われる感じがあったので。だから〈伝えたいこと〉はあるんですけど、歌がメインというよりは、それをトラックに溶け込ませたいっていう感じはありますね」。

 ボカロPのねこぼーろとして活動を開始し、自身が歌唱するスタイルへと転向したササノマリイ。シンガー・ソングライターとしての在り方を冒頭のように語る彼だが、そのルーツを訊ねてみると……。

 「新居昭乃さんの曲がすごく好きで。あの音と声、言葉の重なり……あと、あの方のコード進行ってはっきりしてないところがよくあるんですね。部分転調っぽいものだったり、半音で下がったり、どこか影がある、アンニュイな感じが聴いてて気持ち良くて。あと、音作りのほうだとぼくりり君にもトラックを提供してるbermei.inazawaさん。僕の個人的な見方ですけど、お二人ともなんとなく死の香りがするんですね。それがすごく良いなあっていう。外国のアーティストで言うとマッシヴ・アタックとか。すごく奇麗だけど、言葉で表し難い空気を纏ってるものを作る人たちに憧れを抱いてますね」。

 骨格のしっかりしたビートが敷かれていながらも、靄のように煙るリヴァーブ/リヴァースによってメランコリック&ノスタルジックな幻想性を立ち上げるササノマリイの音世界。そんな彼に〈好みの音〉をさらに質問したところ、挙がってきたのはこんなラインナップだ。

 「まずはレイ・ハラカミさん。それと矢野顕子さん、電気グルーヴ、haruka nakamuraさんも大好きで。あとはポスト・ロックでtoeやSpangle call Lilli line。音で嵌めていくっていうSpangleの歌詞は理想です(笑)。それから、単に聴くってことならスクリレックスやマシーンドラム。マシーンドラムはすごいメカニカルだけど、音の使い方がオーガニック。そういうサンプリングありきのものが好きで。あとは、ぼくりり君経由で知った雲のすみかさんも。それとシガー・ロスだ。“Hoppipolla”は一番好きな曲ですね」。

 その、電子音楽的な処理が施された有機的な音――人工的だからこその不思議な温かみを持つ音は、彼の作風にも通じる部分だろう。

 「生演奏とも違う温かい音――生音を一回(機材に)取り込んで処理をした音っていうのは、現実世界では絶対に発生しないんですよね。そういう音が好きで。あとはCAPSULEだ。『L.D.K. Lounge Designers Killer』(2005年)とか、エレクトロにいき切らないときの感じがすごく好みで。それとピチカート・ファイヴ。ピチカートもドラムはサンプリングが主だったりしますし、中田(ヤスタカ)さんのほうはガッツリとコンプレッション処理をしたピアノの音だったりが気持ち良い。音を潰すことによって増える雑音も要素の一つにしたいっていう気持ちがあって、僕はわりとやってますね。そこがいわゆる〈僕らしい音〉に繋がってるのかなって思います」。

 

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