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居場所のなかった人たちが〈BLOCK PARTY〉に集まれた

――そして、いよいよサード・アルバム『CAR10』がリリースされたわけですが、ファーストからセカンドの短いスパンとは違って、アルバムとしては2年半が空いています。川田くんとしては、セカンド以降を振り返ってみて、どういう期間だったと思いますか?

「アルバムこそ出してないけど、2015年にはシングルの“Best Space”、2016年にはTHE GUAYSとのスプリットEP『room share ep.』のリリースがあったし、自分たちでもびっくりしている感じですね。2年半かーって」

――確かにCAR10というバンドが止まっていた印象はまったくないです。この2年半の間では、下北沢THREEのイヴェント〈BLOCK PARTY〉が始まったことも、CAR10の活動において大きかったのかなと思っているんですよ。CAR10もよく出演されているし、今年の5月にリリースされた同イヴェントのコンピレーションに提供した、その名も“Block Party”は、今作でも最終曲として収録されているし。

「そうですね、〈BLOCK PARTY〉はかなりデカいです。ただ、どちらかと言うと自分が出た回よりも、客として行った回のほうが記憶に残っているんですよ。Jappersやすばらしかを観に行ったら、The ManRayがすごくいいライヴして〈気分良く帰れるわ〉とか、明け方の3、4時くらいのJappersのライヴでウワーとなって横を観るとsuueat.のギターのヒデしかいない、〈こんなにすごいライヴなのに、なんで俺とこいつとでしか共有してないんだろう〉と笑っちゃったこととか、そういう良い思い出が積み重なっていった。それを経て、金曜の夜に仕事終わったばかりで眠さと戦いつつ、車を走らせてTHREEにJappersを観に行くということが快感になっていたのかも。それで自然と〈このイヴェントは最高だな〉となっていきました」

Jappersの2017年作『formulas and libra』収録曲“Praise The Moon”
 

――メディア的には、〈BLOCK PARTY〉を新しいカルチャーがここから生まれている!みたいな打ち出し方をしたくもなっちゃうんですけど(笑)、川田くん的にはそういう感じでもなかったと。

「なかったですね。でも、それまでほかのところでは居場所がなかった人たちが、〈BLOCK PARTY〉では、めちゃくちゃのびのびとやっているという感覚がある。Jappersとかは絶対そうだと思います。そういう人たちを、(THREE店長のスガナミ)ユウさんが〈お前ら最高だよ〉って受け入れて、ライヴをやる場所を作ったことはすごく良かったことなんじゃないかな」

――川田くん的にもCAR10の“Block Party”は大事な曲ですか?

「あの曲は自分たちのなかでも1、2を争うくらい好きだし、大事ですね。今作のなかでも最後に作った曲だし、いまの自分たちにいちばん近い曲なんですよ」

――“Block Party”の途中でドゥワップ的なコーラスが入るじゃないですか。アルバム全体としても、オールディーズや60年代のガール・ポップを思わせるムードが強いと感じたんですが、そういう古き良き時代のポップスは、川田くんがここ数年で発見していった音楽なんですか?

「そういう要素が入っているのは、大瀧詠一からの影響だと思ういますね。“Night Town”や“Pale Blue”をライヴでやりはじめたくらいのときに、(レーベルの)与田さんから〈大瀧詠一を絶対聴いたほうがいい〉と言われて聴きはじめて。あと、ちょうどコーラスを録るタイミングでブライアン・ウィルソンの映画(『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』)を観たのも大きいと思います」

――なるほど。このアルバムで決して脱パンクという作品ではないと思うんですが、いわゆるパンク・チューンではない楽曲も多く収録されていますね。そういったサウンドになったのには、Jappersやすばらしかといった〈BLOCK PARTY〉の常連であるパンク以外のバンドとの出会いも大きかったのかなと想像したんですが。

「めちゃくちゃ関係していますね。別にそれまでも音楽と向きあってなかったわけじゃないんですけど、彼らの音楽愛を見ていると、ホントにこの人たちは音楽が好きなんだなって思ったし、彼らが好きなものを教えてもらうと、もう全部良くて、そういうものを吸収していったんです。例えば、Jappersの榊原(聖也)さんからはビッグ・スターを、すばらしかの加藤(寛之)くんからはザ・バンドを教わったり。それまでの自分が〈古くて、どうせ似たような音楽でしょ〉と思って避けてきたようなバンドほど、いまの自分のやりたいことにフィットしてくる感じがあって、おもしろかったです」

すばらしかの2017年のライヴ映像
 

――自分のやりたいことにフィットしていたというのはどんな点で?

「ビッグ・スターやザ・バンドの音楽って良いメロディーなんだけど、ちょっと気持ち悪さもある。その気持ち悪さが大事だなと思ったんです。一聴はポップスなんだけど、よく聴くとおかしいみたいな」

――わかります。でも、CAR10の出自であるパンク・シーンもハードコアなリスナーはめちゃめちゃ多いじゃないですか? 安孫子さんしかりSEVENTEEN AGAiNのヤブ(ユウタ)さんしかり。榊原さんや加藤さんは同じ音楽狂でもパンクの面々とはタイプが違ったんですか?

「だいぶ違いますね。榊原さんとかは音楽が日々じゃないですけど(笑)、音楽と共に生きているという感じ。ヤブさんとかにも、もちろんそれはあるんですけど、何て言えばいいんですかね?」

――自分が外から見た印象として、パンク・カルチャーの人たちは生活者としてもしっかりしている人が多い気がします。榊原さんがそうじゃないというわけではないんだけど、彼はなんかロック・スター感がありますね(笑)。

「そうなんですよね。音楽との触れ合い方がカッコイイじゃないですか。いい音楽が流れたら、自然と踊ったり、情熱的なところが。〈この人をこんなに踊らせる音楽って何なんだろう?〉と興味を持って訊くと、いろいろと教えてくれて」

――川田くんのライヴでの振る舞いみたいも、この1年くらいですごく変わってきた気がするんですよ。今鳴らしている音楽を心底最高だと思っていて、そこにフルスロットルで乗っていっているというか。今の話を聞いて、その変化にも彼らとの出会いが影響していたんだなと思いました。

「自分達を観てくれているお客さんは、つまんなさそうに観ている人が多くて、ふと考えてみたときに、自分から踊ってないと、そりゃ周りも踊んないよなと思ったんです。つまんなさそうに歌っているバンドのライヴでは、観ている人も絶対に踊らないなって。だから、自分がライヴを観ているときも素直に反応できるようになったし、自分もすごく素直になったのかもしれない」

 

――川田くんは“マチフェス”の〈早くこっちにおいでよ〉という歌詞じゃないけど、MCでもそういう呼びかけを躊躇なく伝えるようになりましたよね。それがあまりに胸を打つものがあるから、僕もここ1年くらいのCAR10のライヴでは、幾度となく頬を濡らしているんです。

「ハハハ。嬉しいですね」

――川田くんは、ファーストもセカンドもそうですが、自分の周りで起きていることを歌ってきたと思うんです。今作でも、“BLOCK PARTY”“マチフェス”“Night Town”あたりがわかりやすいけれど、基本的に全部の歌詞がそうだと思う。そのうえで、特に変化したのはタイトルのセンスじゃないかなと思います。まったくひねらなくなったというか。

「曲名は〈これで大丈夫かな感〉はあるんですけどね(笑)。とってつけたようにパッパッてつけちゃっています。でも、それだけ〈BLOCK PARTY〉と〈マチフェス〉は自分にとって大事なのかもれない。これらのイヴェントのことは自信を持って推し出せるから。曲きっかけで知ってくれる人がいればいいなというのもあるし」

――歌詞がほぼすべて日本語になったという大きな変化にも、特定の何かを伝えたいという意思が関係しているのかなと思いました。

「まず日本語になったのは、全然自分では似てないと思っているようなバンドに英語で歌っていると似ていると言われちゃって、すごく違和感があったんですよ。そんななか、レーベルから〈わかりやすい曲、みんながガッツポーズできる曲を1曲作ってくれ〉と言われて、“Best Space”を作ったんです。そこで〈こういうのでいいんだな〉と思えた。それから“Mr.bread”を作って、あの曲も日本語で歌ってみたら、すごく自分のなかでしっくりきて。日本語だと、歌う度に意味を反芻できる感じがあって、歌っていても気持ちがいいんですよね。これに最初から気付けていたら、ずっと日本語でやってたな(笑)」

――そうそう。“Mr.bread”の歌詞はどういう人のことを綴ったものなんだろうと思っていたんですよ。

「あの曲、(A PAGE OF PUNK)の勉さんなんですよ」

――あー! 勉さんはパン屋をされていますもんね。

「“Mr.bread”を作るちょっと前に、すごくひさしぶりに同じイヴェントでA PAGE OF PUNKと共演したんです。その頃、俺は〈この人、もうあんま俺たちに興味ないんだろうな〉と思っていたんですけど、実はずっと興味を持ってくれていたみたいで、この日もいろいろなことを言ってくれた。言葉を聞いてなかったからって、思ってくれていないということじゃないんだなって」

 ――いい話ですね。“Mr.bread”や“ミルクティー”あたりは、歌詞で自分の変化や成長に言及しているけれど、それをストレートに歌えているのがすごく素敵だなと思いました。

「それを歌えるようになったのは、デカイですね。今までだったら恥ずかしくて出せなかったんですけど、ふとしたきっかけで、素直に歌ったほうがいいんだなとわかったんです」