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田舎の工場員が、素直にやりたい音楽をやるという姿でいたい

――今作はサウンド面でも前2作とは変化があります。川田くんがセカンド以降に発見したビーチ・ボーイズや大瀧詠一は録音術の人たちでもあるし、レコーディングによって作品がどう変わるかという意識も高まっていたんじゃないですか?

「それはかなりありましたね。今回は、録りの最初の段階から、めちゃくちゃ音がいいなと思いました。NOT WONKとかも録っているカナイ(・ヒロアキ)さんがディレクションで入ってくれて、レコーディングの1か月くらい前から足利のスタジオにも来て、その度に〈この曲はこうしたほうがいいよ〉と言ってくれていたんです。“Best Space”だったらコーラスを爆発的にデカくするとか(笑)。アルバムの音に関しては、カナイさん様々ですね」

――今作の音の拡がりや残響は、ウォール・オブ・サウンドやナイアガラが参考になっているんですか?

「フィル・スペクターやブライアン・ウィルソンみたいに録りを工夫したわけじゃないんですけどね。“Best Space”をシングルで出したときのインフォで〈ウォール・オブ・サウンド〉と書かれたときには、その言葉の意味もよく知らなかったくらいですし(笑)。ちなみに、ナイアガラの流れで言えば、コーラスはすべてYMOの“君に、胸キュン。”をめざしています。ああいうふうに飛んでくるコーラスにしたいなってのはありました」

――へー! 最近のバンドで参照にしたものは特になかったんですか?

「うーん、ギターのフレーズはすごくクリブスに影響を受けていますね。今回はこれまでより曲の幅も出たけれど、それは櫛田に音楽好きの友達が増えたこともデカかったんです。“Night Town”も〈クリブスのこんな感じのギターをAメロで弾いてほしい〉と伝えたら、その次のスタジオでは〈もうそれ完璧〉というフレーズを弾いてくれて。あと“Pale Blue”は、サニーデイ(・サービス)の“夢見るようなくちびるに”なんですよ。あの曲のコード進行を使っている」

――なるほどねー。今作は川田くんのヴォーカリゼーションもすごく良いですよね。最近のライヴもそうですが、この人は自分の気持ちを数ミリのブレもない言葉で発しているんだなというのが伝わってくきます。

「それもやっぱり、無理やり曲を作らず、1曲1曲をゆっくりと作れたのが良かったのかな。どっかに行って、何かがあって、良い思い出になった、〈じゃあその瞬間の曲を作ろう〉として出来たものばかりなんです。だから、おのずと歌詞も付いてきて、全部にちゃんと思い入れがある。無理やり歌詞を付けましたという感じではなかったので、嘘じゃない感じが出ているんじゃないかな」

――しかも川田くんの言葉はシンプルじゃないですか。聴き手として辞書が必要になるような言葉はほぼ出てこない。

「ハハハ(笑)。絶対そうだと思います。いろいろもう吹っ切れたというか。なんか文豪みたいな歌詞を書こうとしても、俺には無理だし。俺より腐るほど小説を読んでいる人はいるし、腐るほど音楽を聴いている人もいるから。自分のフォーマットとして出せるものを、いちばん美しい姿でいかに見せられるかだけなんです」

――今、〈美しく見せる〉と言ったけれど、CAR10はすごく美しいバンドだと思うんですよ。僕の思うCAR10の美しさは、言葉というか歌に奥行きがあること。その言葉を発している川田くんの気持ちには嘘がないんだけど、でも嘘がある/ないとは別で、0.0000……1ミリくらいそういうことを歌っている自分自身への自嘲や葛藤みたいなものが透けてみえる瞬間があって。例えば誰かに対して〈好きです〉と言っても、その〈好きです〉にはいろんな感情が混ざっているじゃないですか。それと同じで、言葉自体はシンプルだけど、川田くんが歌うことによってその奥行きが出る、青色に見えるけど実は青一色じゃない深みがあるというか……。

「それは、すごく嬉しいですね。今回はいままででいちばん気取ってないのかもしれない。背伸びもしてないし、スーパー・ナチュラルというか。櫛田と永井はそれがずっとできているんですよ。あいつらはずっとナチュラルでいるし、そこに俺がやっと寄り添えた、みたいな感じなのかも。だから、スタジオに入って曲を作っても、すごくいい感じに仕上がっていったのかな」

――ただ、自分や周りのことを自然に歌っている以上、最高な瞬間を収めた歌詞ばかりではないと思うんです。たぶん〈嫌になっちまうよな もう吐けないくらい 空っぽなんもねーや〉と歌っている“ゴーバック”あたりは……。

「あれはもう最悪なやつですよ(笑)」

――ハハハ(笑)。でも、その最悪な思い出も含めて自分だけの生活をしていて、自分たちだけの時代に生きているというムードが伝わってくる作品になっていると思います。そして、昔のR&Bやガールズ・ポップを含めたソウル・ミュージック的なビートを下敷きにしつつ、〈これが自分たちの生きている時間なんだ〉という圧倒的な肯定感が溢れている点で、僕が今作の隣に置きたいと思うアルバムはストーン・ローゼズのファースト・アルバムなんですよね。

「ハハハ! それ、おもしろいっすね(笑)」

――でも、“マチフェス”の間奏の頭打ちのビートは完全にローゼズの“I Am The Resurrection” にだなと。

「フフフ(笑)。あれ、ギター・ソロ前のベースは完全に意識していますね」

“I Am The Resurrection”のライヴ映像
 

――“Best Space”の〈光った時間に寄り添えたら あとは何もいらないから〉はローゼズ“This Is The One” の〈This Is The One I’M Waiting For〉というフレーズの言い換えともとれるし。

「なるほど。でも、今回のイギリス的な雰囲気は、俺と櫛田がオアシスのドキュメンタリー映画「オアシス:スーパーソニック」を観たことがいちばん関係していると思うんです」

――あー。“Block Party”のイントロは、まさオアシスの“Rock 'N' Roll Star” ですよね。

「ハハハ(笑)。あれを観て、〈オアシスはめちゃくちゃすげえな〉となり、2人とも数か月くらいかなり毒されて」

――すごくわかります。コミュニオンズのオアシス化もあり、自分も去年の半ばくらいから急速にオアシス再評価が加速していたんですけど、あの映画が決定打になりました。

「あのなかでも、ノエルが〈俺がよくわからないときに書いた歌詞で大合唱が起きている〉とか言っていたじゃないですか。それを観て〈歌詞なんてそれでいいんだな〉というのはありました。だから余計に、下手に考えて良い言葉を使おうとするよりも、ぱっとどんどん投げていったほうがいいんだなって」

――この間、マンチェスターでテロがあったじゃないですか? そして、テロへの不屈や犠牲者への追悼を込めて、マンチェスターの市民たちが“Don't Look Back In Anger”を合唱している。でも、ノエル・ギャラガーがあの曲を書いたときは絶対そんなふうになるなんて思ってないじゃないですか。作り手にとっては特にたいした意味を持っていない曲でも、期せずしてリスナーにとってはとてつもなく大きな意味を持つ曲になることがある。だから、それと同じですよね。川田くん的にはシンプルに書いた歌詞かもしれないけど、自分はそこに意味を見出してグッときているという(笑)。

「ハハハ。それは嬉しいすね」

――ローゼズもオアシスも歌詞はすごく簡単じゃないですか。だから、そういう言葉のほうがアンセム化するんでしょうね。

「たとえばのマヒト(マヒトゥ・ザ・ピーポー/GEZAN)くんや下津(光史/踊ってばかりの国)さんは圧倒的なカリスマじゃないですか。でも、無理やり彼らみたいになろうとしている人たち見ると、気持ち悪いと思うんです。アーティストぶらなくていいよなって。そこで、自分を見直したときに、俺みたいな田舎で、工場で、鉄に穴を開けているだけの工場員が、素直にやりたい音楽をやるという姿でいたいと思うんです。たぶん昔は、無理やり勝負しようとしていた部分があった。マヒトくんや下津さんのソロとかを観ると、〈こんなすごい人がいるんだったら、俺とかがバンドをやる意味はないんじゃないか〉とすごくショックを受けていたんですよ。でも、よくよく考えてみたら、別にそれで俺がやらない意味にもならないし、かといって同じことで勝負しようとしなくてもいい。のらりくらりじゃないけど、スピード対スピードじゃなく、俺らは違う角度でちゃんと突き詰めればいいんだなって」

GEZANの2016年作『NEVER END ROLL』収録曲“blue hour”
 

――このアルバムには超最高な瞬間も超最悪な瞬間も両方刻まれているんですが、通して聴いたときにリスナーに残るのは未来へのなんとなくの楽観みたいなものだと思うんですよね 。

「それはかなりあるかもしれないですね」

――川田くんがそういう雰囲気の作品を作れたということは、いま言ってくれた話と関係していますよね?

「そうすね、自分がそういう状態にいれたから、というのはかなりデカイと思いますね」

――“Block Party”でも〈どんな未来でもなんだか僕らさ 笑えてるような気がするのさ〉と歌われていますが、今後CAR10をどうしていきたい、みたいなことを考えることもありますか?

「それがホントに何もなくて。このフェスに出たい/このバンドと共演したいとかもなく、〈このアルバムを出したことで何かおもしろいことが起きればいいな〉くらいにしか3人とも思ってないんですよ。欲を言えば、〈もっとラクにバンドをがやれたらいいな〉くらいですかね。いまはライヴをたくさんやればやるほど、金銭面で自分たちが追い詰められているから、それが結構ダメージになっている部分があって」

――ライヴをやればやるほど収支の面ではマイナスになっていということですよね。

「そうですね。遠征費とか。もう少しお客さんがついてくれてれば、もっと気楽に楽しくやれそうだなとは思います。今も毎回ライヴを観に来てくれる人が1人、2人くらいはいるんですけど、毎回絶対その人たちに向けて良いライヴをしないとな、自分たちがつまんなさそうな姿を見せたらダメだなと思っています。だからいま2~3人しか来てくれないライヴが、今作で10人くらいになるといいなーって感じですね」

 


Live Information
〈アルバム発売記念CAR10ワンマン・ライヴ〉

2017年6月25日(日)東京・下北沢THREE
出演:CAR10
DJ:かたしょ
開場/開演:18:00 /18:30
料金:前売り1,500円 当日2,000円 (いずれも1D別)