COLUMN

マームとジプシーの10年を振り返る―最初期作や代表作などをテーマごとに再編した〈10th Anniversary Tour〉開催

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  • 2017.06.22
『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』(C)三田村亮

繰り返されるシーン 更新される思い出

 藤田貴大に数年前会ったとき彼はすでに岸田國士戯曲賞を獲った押しも押されもしない新進気鋭の劇作家で、セリフと動きとそれらからなるシーンの反復、彼のことばを借りれば、リフレインと呼ぶ手法への自覚的なアプローチをみせており、その時点で完成したたたずまいだった。おりしも演劇が演劇のサークルにとどまらない人材を各方面に輩出し何度目かの注目を集めはじめていた時期で、芝居といえば燐光群くらいしかなじみのない私はマームとジプシーの『cocoon』を観劇し、なるほどこういった戦争の描き方があるのかと感心したのはそこに演劇という行為の可能性の新雪のような手つかずの中心を観る思いだったからである。さらに数年、藤田貴大は野心的な作品を世に問いつづけ、気づけばマームとジプシーのうえには旗揚げから10年という短くない時間がながれていた。バンドであれば七割の確率で解散しているにちがいない長きにわたり、マームとジプシーがつづいているのは人的流動性を担保する運営形態にもよるが、それ以上に作品がいまを生きつづけているからである。

『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、 そこ、きっと──────』(C)橋本倫史

 たとえば上述の『cocoon』(2013年)は今日マチ子のマンガを演劇化したものだが、初演の翌年に刊行した藤田貴大と今日マチ子の共著をふまえ、2年後に再演されている。むろん演劇や音楽は形式のなりたちから一回性にさらされているのだから、上演のたびに作品はあらたに生まれ変わるが、ライヴという場がアミューズメントの近傍につなぎとめられがちな昨今、作品の動態をたもつにはことのほか意識的でなければならない。

『夜、さよなら 夜が明けないまま、朝Kと真夜中のほとりで』(C)細野晋司

『あっこのはなし』(C)橋本倫史

 マームとジプシーのこの10年をふりかえる結成10年記念ツアーはおそらくそのことをあらためて確認する機会になるだろう。今回の公演では、最初期の『クラゲノココロ』や代表作『Kと真夜中のほとりで』、岸田賞受賞作『帰りの合図、』などを、テーマごとに再編し上演するのだという。主題とは、原風景と家族であり、夜と不在であるとともにおそらく経過した時間が演劇空間をどのように変容させたかという含意がある。私性とかかわってくるそれらの作品(群)と2016年の新作『あっこのはなし』をみくらべることで、私たちは藤田貴大の、マームとジプシーの10年目の現在地をまのあたりにすることになる。まるで雑踏のなかにいるような気分にさせるきわめて現代的な言語感覚と、身体性の気づきをうながす役者たちの演技と彼らの身をつつむ衣装――そこに成熟を感じるのか、それを拒む姿勢をみいだすのか、2000年代の旗手の2010年代の視点をたしかめるためにも全部観たいに決まっているじゃありませんか。

 


LIVE INFORMATION

マームとジプシー『10th Anniversary Tour』
○7/7(金)~7/30(日) 会場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』
作・演出|藤田貴大
音楽|山本達久
衣装|suzuki takayuki
出演|石井亮介、尾野島慎太朗、川崎ゆり子、中島広隆、成田亜佑美、 波佐谷 聡、吉田聡子/山本達久

『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、 そこ、きっと──────』
作・演出|藤田貴大
音楽|石橋英子
衣装|suzuki takayuki
出演|石井亮介、荻原 綾、尾野島慎太朗、川崎ゆり子、斎藤章子、中島広隆、成田亜佑美、波佐谷 聡、⻑谷川洋子、船津健太、召田実子、 吉田聡子

『夜、さよなら 夜が明けないまま、朝 Kと真夜中のほとりで』
作・演出|藤田貴大
衣装|suzuki takayuki
出演|石井亮介、伊野香織、尾野島慎太朗、川崎ゆり子、中島広隆、成田亜佑美、波佐谷 聡、長谷川洋子、船津健太、吉田聡子

『あっこのはなし』
作・演出|藤田貴大
音楽|UNAGICICA
出演|石井亮介、伊野香織、小椋史子、斎藤章子、中島広隆、船津健太
www.saf.or.jp

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