INTERVIEW

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〈新日本フィルハーモニー交響楽団 2017/2018シーズンプログラム〉

上岡敏之インタヴュー/すみだトリフォニーホールとともに歩んできた、20年―/定期演奏会、ここに注目!

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  • 2017.06.29
写真=橋本直己

上岡敏之インタヴュー
謎の日常生活? いや、音楽漬けの日々、それが指揮者だ

 欧米のセレブ男性が一番憧れる職業、それは「オーケストラの指揮者」だと言う(日本は何なのだろう?)。筆者の知っている範囲では、クラシック音楽に惚れ込み、自分でオーケストラを借り切ってマーラーの大作交響曲を指揮したお金持ちもいた。しかし、オーケストラを指揮するということは、そんなに単純なものではない。音楽を愛し、音楽の勉強を積み、さらに指揮法を学び、実際のオーケストラの指揮を体験し、その上で、小さなオーケストラへの客演、歌劇場のアシスタントなどの経験を経て、ようやく指揮台の一歩手前に立つことが出来る。その後は「運」である。100人指揮者希望の学生がいたら、その中で本当に指揮者として活動出来るのは、おそらく1~2人だろう。時間もかかる。

 上岡敏之は神奈川県で幼少時代を過ごし、現在、新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を勤める。2年目のシーズンを前に、上岡という指揮者に迫ってみた。

——なぜ、そんな困難な指揮者の道を目指したのですか?

 「子供の頃は、横浜の根岸という所で育ったのですが、そこに米軍の住宅があった。日本の中だけど、隔絶された世界。子供たちの遊ぶ姿を、子供の自分が見て、憧れるというか、海外の生活をしたいという気持ちが芽生えたことが最初のきっかけだと思います。それから音楽が好きになり、音楽大学(東京藝術大学音楽学部指揮科)へ入学したものの、それほど裕福な家ではなかったので、アルバイトに明け暮れ、ピアノも学校で練習していました。たまたま指揮科の先生のレッスンが週に1回しかなかったので、その教官室のピアノを毎日借りて弾きまくり、自分なりに音楽を勉強していった。その後一度就職したり、いろいろありましたが、運が良いことに、ロータリー国際奨学生としてハンブルク音楽大学に留学が出来たのです」

 上岡の学生時代のアルバイトやホテルマン経験談はとても面白いのだが、それを書くと1冊の本になってしまうので、先へ進む。

写真=橋本直己

——ドイツでの修業は?

 「音楽大学からキール市立劇場のソロ・コレペティトールに入ることが出来ました。コレペティトールとは、歌手と一緒にリハーサルするピアニストであり、ピアノが弾けるだけでなく、音楽的な知識、またオペラ上演に対する知見も必要です。その仕事はとても楽しくて、そのままでも良いかと思ったくらいでした。でも、そこでの活動が認められ、ヘッセン州立歌劇場に引き抜かれ、音楽総監督となったということですね」

 ドイツでは常にどんな優れた人材がいるのか、様々な歌劇場の関係者がリサーチしている。その網にひっかかったという訳だ。

 しかし、上岡の日常生活の話を聴くと、本当に指揮者とは激務だと思う。

 「とにかく毎日、新しいスコアを読まないと。だからスケジュール帳は2つあります、5年先までのスケジュールと、今年1年の毎日のスケジュールを管理するものと。毎日のスケジュールはほぼ10分刻みで、そこで何をするかを書いてあります。だからテレビを観ている暇もないので、家にテレビも、また音楽を聴くものもないんです。東京に来て、たまたまホテルのテレビを何時間も見入ってしまうこともありますが、ああ、時間を無駄にしたと後悔する(笑)。髪の毛も15分ぐらいでカットしてもらうし、音楽以外のことには本当に時間を使わないです」

写真=橋本直己

 心の余裕が無くなりそうだが、意外な趣味・嗜好? もある。まず愛煙家。「煙草、高いですね~」と上岡。服のサイズがドイツでも日本でも合わないので、シャツ、スーツなどはすべてオーダーメイド。常に朝はコカ・コーラでリフレッシュする。パソコン、携帯電話、スマートフォンは使わない主義、などなど。もっと突っ込んで聞きたいところもあるのだが、それはまたいつか。

 2017/18年のシーズンは、いよいよ第2ステップへというプログラムのラインナップ。「常にオーケストラの状態を感じて、ああ、この曲がこう出来るのなら、このレパートリーを次に入れよう、などと考えています。1シーズンのプログラミングは、飛行機に乗ったら、だいたいのイメージは1時間ぐらいでまとまってしまいます」

 せっかちなのではなくて、それだけ上岡の中に音楽が詰まっているのだ。その指揮姿を、ぜひ生で体験してみて欲しい。
[interview&text:片桐卓也(音楽ライター)]

 


上岡敏之
東京藝術大学でマルティン・メルツァーに指揮を師事し、作曲、ピアノ、ヴァイオリンも並行して学ぶ。後に、ロータリー国際奨学生としてハンブルク音楽大学に留学し、クラウスペーター・ザイベルに指揮を師事。キール市立劇場ソロ・コレペティトール及びカペルマイスターとして歌劇場でのキャリアを開始。ヘッセン州立歌劇場音楽総監督、北西ドイツ・フィル首席指揮者、ザールランド州立歌劇場音楽総監督、ヴッパータール市立歌劇場インテンダント兼音楽総監督等を歴任。手兵ヴッパータール響とは二度の日本ツアーも大成功させた。2016年9月より新日本フィルの第4代音楽監督に就任。また、コペンハーゲン・フィル首席指揮者、ザールブリュッケン音楽大学指揮科正教授も務める。2007年第15回渡邉暁雄音楽基金 音楽賞・特別賞、2014年第13回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。

 


上岡敏之のこだわりの逸品

○イニシャル入りのシャツはずっとオーダー・メイド。

 

○指揮棒は、軽く、あくまで、軽く!

 

○日本に帰ってからハマった、フリスク。 ※写真はイメージです。

 

○常に朝はコカ・コーラでリフレッシュ! ※写真はイメージです。

 


上岡敏之ピアノを弾きます!
新日本フィル・すみだサマーコンサート2017
7/29(土)13:15開場/14:00開演
会場:すみだトリフォニーホール 大ホール (東京)
曲目:ペルト(子どもの頃からの歌─少年少女合唱とピアノのための)/オルフ(カルミナ・ブラーナ)
出演:甲田潤(指揮)上岡敏之(p、指揮)安井陽子(S)絹川文仁(T)青山貴(Br)すみだ少年少女合唱団/栗友会合唱団

 

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