マルクス・シュテンツ(C)Molina Visuals

虚より実を取る姿勢を貫く

 上岡敏之音楽監督就任2年目の2017/2018シーズン。彼はいわば虚より実を取る姿勢を貫くことで、観衆の共感を集めている。紙幅の都合上、厳選してさらってみよう。

 まず#587。昨年上岡と共演したアンヌ・ケフェレックの華麗なピアノと、モーツァルトの《ピアノ協奏曲第24番》の相性の良さを、またブルックナーの《交響曲第6番》は、緩徐楽章が美しいことで知られるが、上岡の目指すアンサンブルの妙を聞いてみたい。

 プーランクの壮麗な作品《オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲》で松居直美のオルガンが音空間を駆け巡る#581では、デニス・ラッセル・ディヴィスによる豪勢なプログラムが楽しみだ。

 #583と#584は、ヘンツェとゆかりあるマルクス・シュテンツ指揮による、最も古典的なモデルに近いとされる《交響曲第7番》、ハイドンと演奏されることにより浮き彫りになるだろう古典性と現代性を聴きわけたい。

林正子(C)anju.

 また、新日本フィル初登場のアンドリュー・リットン指揮回#590と#591は、双方とも見逃せない。宮崎駿監督、スタジオジブリ作品『崖の上のポニョ』で世間的な注目を集めたソプラノ林正子だが、ウィーン楽派では例外的に人気を集めたベルクの傑作、歌劇《ルル》で本領発揮する所は抑えたいし、#591のショスタコーヴィチ《交響曲第4番》は、スターリン圧政下に作られた音楽的な多層性を持つ作品であり、再現能力の高いリットンの実力が期待できる。

 老若男女、幅広い層が肩肘貼らず、上質な音楽を楽しめるプログラム。そこに上岡の美学を感じることができるだろう。
[text:大西穣]