©Shinichi Kida

若手を率いて〈アポヤン道〉をゆくギタロマニー

 誠に失礼な物言いだが、金庸太というギタリストは不思議な雰囲気を持っている。独特のおとぼけ感といってもいい。しかし演奏はその印象の対極にある。確実なテクニックで奏でる一音一音は実に重く、ねっとりとした響きで聴き手の心を絡め取る。そんな金がメジャーからは初となるソロアルバムをリリースする。いったいどういった経緯で実現したのか。

「キングレコードからアルバムを何作か出している、弟子の垂石雅俊君が、ギター・デュオの録音の時に、僕を相方として呼んでくれました。スタジオで僕が弾いていたら、それを聴いていたディレクターが来て、いつかとんがった練習曲を中心としたアルバムを作りたい、なんて話していました。それからしばらくしてオファーをもらいました」

金庸太 『Return to Guitaromanie~ギタロマニーの凱旋~』 キング(2017)

 まさにギター談義の末にできたようなアルバムというわけだが、収録されたのはなんと21曲。練習曲だけでなくシャンソンやタンゴもある。

「“最後のトレモロ”以外はよく弾いていた曲ばかりです。シャンソンもよく弾きますが、お客さんからの反応も良いので、シャンソン入れたら売れるだろうと(笑)。でも録音でこれほど苦労するならもう少し減らしておけばよかった(笑)。弾くのは苦にならないんですよ。だって家に帰ってもギター弾くだけですから(笑)。むしろガラス越しに見えるエンジニアさんが苦労しているのを見ていると、こっちにも気苦労がやってきて……」

 彼のおとぼけ感は自身が主催するイベント〈アポヤン道ギターフェスティバル〉にも満ちている。クラシック・ギターを知る人ならこの時点で苦笑いだろう。〈アポヤン道〉ですよ。しかも挨拶の号令は〈アルアイ礼!〉ときたもんだ。「ホント真剣に悪ふざけをしていて……スイマセン」。若手のギタリスト達と共に作るギターだらけのフェスティバル。今年も8月に催すという。

「ギタリストも昔はよかったですが、時代が経つにつれて技術は上がるけどドンドン貧乏になって、いまの若いプレイヤーにはすごく優秀なのに仕事がない人も多いんです。そんな若手と共に作っています。ギター界に限りませんが、現在コンサートに来てくださる方は、ほとんど60歳台以上で、コンサートの時間も昼に繰り上がっている。こんな状態で5年後10年後はどうなってしまうんだろうと思いますね。ぼくも50歳ですが、まだ勝ち逃げする年齢でもないですから、どうにかして若いお客さんを集めたいです」

 いろいろとぼけつつも核心を突いている。そこが金の面白さだ。是非膠着しがちなシーンを揺るがして欲しい。もちろん程よくとぼけながらね。

 


LIVE INFORMATION
第2回 アポヤン道ギターフェスティバル
2017年8月12日(土)埼玉 蕨市文化ホールくるる

「ギタロマニーの凱旋」発売記念コンサート
2017年9月17日(日)東京 ティアラ江東 小ホール
https://guitarkim.jimdo.com/