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エンドウアンリが描くSF的な世界観、ラブサマちゃんが醸す〈生活〉の匂い

――今までも、これからも、そうやって〈いい音楽〉は受け継がれていくのでしょうね。ところで、今回『Home Electronics』を作るにあたって、何曲くらい用意したのですか?

エンドウ「だいたい70曲くらい作りました。ベースのカミ(ヤマリョウタツ)も曲を作るので、2人でだいたい35曲ずつ」

ラブサマちゃん「え、そんなに!? いったいどうやって書いているんですか?」

エンドウ「曲はだいたい、1日で90パーセントくらいは作っちゃうんです。そうしないと、〈あれもやりたい、これもやりたい〉と、いろんな要素を詰め込みすぎて、ぜんぶ似た曲になっちゃうので、その日のうちに曲の骨子の部分は完成させちゃいますね。とりあえず1コーラス作ったデモが10曲くらい溜まったら、そのなかから良さそうな曲をフルサイズで作ってみる。そうやってアルバム用の楽曲を絞り込んでいきますね。70曲のうち、フルまで作ったのは35曲くらい。そこからアルバム用の12曲に選びました」

ラブサマちゃん「カッコよすぎる。アルバムからこぼれちゃった曲は、もう出さないんですか?」

エンドウ「前は出さないようにしていたんですけど、しばらくしてからもう一度引っ張り出してくることはあります。今作の“花束”は、実は3年くらい前に作っていたんですけど、サビの部分だけ他の曲に使ってしまったんですよ。今回は、その残りの部分をブラッシュアップして完成させていますね」

――曲って、しばらく寝かせておくと良くなることがありません?

エンドウ「すっごいあります!」

ラブサマちゃん「ありますよね。でも、寝かしておくと幻滅してしまう曲も、いくつかある。〈なんでこんなのしか作れなかったんだ? バカか〉って。昔作っていたころより今のほうが、曲の精度も上がってきているから、前の曲が稚拙に感じてしまうことは結構ありますね。2年くらい前の歌詞とかを読むと爆笑しちゃう。というか最近、曲作り以外にやらなくちゃならないことが増えてきて、なかなか落ち着いて曲が作れないんですよ。レコーディングやって、ライヴやって、取材を受けて、ちなみに明日はスカイダイビングをやらなきゃいけないし(笑)。エンドウさんは、いつもどんなときに曲を作っているんですか?」

エンドウ「この間は、リハが終わってからライヴがはじまるまでの間にリフを作って、ライヴが終わってからの移動中にドラムの打ち込みをやりました。滞在先のホテルで曲のアウトラインを作り、家に帰ってヴォーカルを録る、みたいなこともしています」

ラブサマちゃん「やば! ストイックですね。見習わなきゃ。〈ツムツム〉やってる場合じゃない。息抜きもしているんですか?」

エンドウ「息抜きは、曲作りの合間に超くだらない〈電波ソング〉とかを作って、1人で笑ったりメンバーに送ったりしています(笑)」

――曲作りの気分転換が曲作りって(笑)。

ラブサマちゃん「あ、でも “私の好きなもの”は、曲作りに煮詰まっちゃって、気分転換で作った曲ですね」

エンドウ「そうだったんですか! そういえばTwitterにも“もやし茹でて 食べ女”っていう曲を作ってアップしていましたよね」

ラブサマちゃん「やめてください! なんでそんなことを覚えているんですか(笑)」

――ハハハ(笑)。それぞれの歌詞については?

ラブサマちゃん「言葉遊びがおもしろいですよね。“深呼吸”の〈1.2.3.4.〉のところは、結構新しいアプローチじゃないですか? 音楽って、あまり歌詞に注意しなくても聴けてしまうけど、この〈1.2.3.4.〉のところはすごくフックになっていて、そこで〈あ、歌詞も聴いてみよう〉となる。そういうリスナーの導入の仕方がさすがだなと思いました。もともと、エンドウさんが書く歌詞はすごく好きだったんですけど、今回も素晴らしかったですね。“Esper”の〈空を花柄にしようよ〉という表現がすごく好きでした。“You're my sunshine”もいい歌詞ですよね。というか、この曲私めちゃめちゃ好きだな」

――この曲はキュアーの“Boys Don't Cry”に通じますよね。

ラブサマちゃん「ああ、わかります!」

エンドウ「この曲は、スクールやサン・デイズに影響を受けて作った曲ですね。ちなみに、80年代のサンデイズも大好きでした」

キュア―の79年のシングル“Boys Don’t Cry”
サンデイズの90年作『Reading, Writing And Arithmetic』収録曲“Here's Where The Story Ends”
 

――〈もし明日もう1つ地球が出来たなら〉という導入が印象的な“ダダガー・ダンダント”に代表される静的なSF感というか、映像でいうとドゥニ・ヴィルヌーヴやスタンリー・キューブリックを思わせるような世界観というのは、どこから来ているんですか?

エンドウ「自分が脚本家になって、SF映画を作っているような、そんな気持ちはありますね。移動中に物語を頭の中で創作して、それを自分が伝えたいテーマのメタファーにするとか。ドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』は、僕も先日観に行きましたよ。確かに、ちょっと通じているところはあるかもしれない。突然目の前に未知のものが現れて、日常が非日常に変わる瞬間を描いているところとか」

――そういう、突拍子のないSF的なアプローチからでしか描けないリアリティーみたいなものを、ペリカンは追求しているような気がします。

エンドウ「そうですね。それはすごくあります。子供の頃から僕、星新一のショートショートが大好きで。何度も繰り返し読んできたので、そこから影響を受けた部分もあるのかもしれない」

――へえ! 確かに星新一のSFも、現実と非現実の境界線が曖昧になっていくような話が多いですよね。

エンドウ「そうなんですよ。今、話していて思い出したんですけど、小・中学生の頃は授業中に星新一のショートショートを思い返して、それを頭の中で勝手に組み替えて物語を作っていました。そういうことが、歌詞を書くうえでの基礎になっているのかも。それと、ブログを書くときは短く簡素な文章を心がけているのも、そこからの影響なのかもしれないですね」

ラブサマちゃん「星新一、いいですよね! エンドウさんの歌詞に影響を与えているというのは、わかる気がします。私自身は詩人からの影響が強いですね。寺山修司や吉野弘がすごく好きで、歌詞を書くときによく思い浮かべます。吉野弘の〈二人が睦まじくいるためには〉とかが大好きですね」

エンドウ「僕は、ラブサマちゃんの歌詞のなかにある〈生活臭〉みたいなものが、とても羨ましくて。そういうものを、自分たちの歌詞にも取り入れてみたいんですけど、なかなか上手くいかないんですよね。実際にやろうと思うと恥ずかしく感じてしまう自分がいたりして……。恥ずかしいからこそ、突拍子もないメタファーを使ったり、SFというフォーマットに落とし込んだりしているのかも」

――ラブサマちゃんが8月にリリースするシングル『人間の土地』は聞きましたか?

エンドウ「聴きました! レディオヘッド“High & Dry”のカヴァーがあってびっくりしました。この『人間の土地』というタイトルはどこから来ているんですか?」

ラブサマちゃん「これは『星の王子様』の作者サン=テグジュペリさんが、郵便飛行士として体験したことを綴ったエッセイのタイトルなんです。〈人間の尊厳とは何か〉というテーマの書物なんですけど、私はこの本がすごく好きで。今回のリード・トラックが“FLY FLY FLY”という曲で、〈空を飛びたい〉と憧れている人の目線で考えたとき、『人間の土地』の内容や、タイトルのニュアンスがぴったりだなと思ったんですよね」

エンドウ「そういう、選んでくる言葉のセンスがいちいち〈ラブサマちゃんらしい〉と思うんですよね」

ラブサマちゃん「ほんとですか? 嬉しい。でも、聴いていただいた音源はまだミックス前のデモ音源なので、早く完成させなきゃ」

ラブリーサマーちゃんが『人間の土地』でカヴァーしているレディオヘッドの“High & Dry”
 

――今回、お2人で話してみていかがでしたか?

エンドウ「楽しかったです。ルーツの話や今聴いている音楽の話、もっとしたかったですね。〈この曲の、この部分のフレーズは〜〉みたいな感じで(笑)」

ラブサマちゃん「それ、超楽しそう! 最近良かったCDはなんですか?」

エンドウ「ビーチ・フォッシルズがとにかく好きで、最近ではいちばん影響されています。あとはデイ・ウェイヴ、ヘイゼル・イングリッシュ……あ! ラブサマちゃん、フェイザーデイズは絶対好きですよ。“Lucky Girl”という曲をまず聴いてください」

フェイザーデイズの2017年作『Morningside』収録曲“Lucky Girl”
 

ラブサマちゃん「曲名まで(笑)! ありがとうございます。私は最近、ウォッシュド・アウトの新曲“Get Lost”がすごく良かったですね。チルウェイヴから若干脱してトロピカル感が出てきていていい感じでした。スロウダイヴの新作も良かったし、シガレッツ・アフター・セックスも大好き。ライヴも最高だったなぁ(以下、音楽談義が延々と続く……)」

ウォッシュド・アウトの2017年作『Mister Mellow』収録曲“Get Lost”

 


Live Information

■PELICAN FANCLUB

〈PELICAN FANCLUB TOUR 2017 “Electronic Store”〉
2017年6月25日(日) 東京・代官山UNIT ※ワンマン公演
2017年6月30日(金)福岡graf
2017年7月2日(日)広島BACK BEAT
2017年7月3日(月)高松DIME
2017年7月11日(火) 新潟CLUB RIVERST
2017年7月12日(水)金沢vanvanV4
2017年7月13日(木)仙台enn 3rd
2017年7月14日(金)千葉LOOK
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■ラブリーサマーちゃん

〈ラブリーサマーソニック 2017〉
2017年8月25日(金)東京・渋谷WWWX
出演:ラブリーサマーちゃん and more!(詳細後日発表)
開場/開演:17:45 /18:30
料金:前売 3,800円 当日 4,300円(いずれも1D別)
※学生割引有り:当日受付にて学生証ご提示のお客様に500円キャッシュバック
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