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やればやるほど課題ができる

“裕福ナ國”は、物悲しいピアノの音色をあしらったシンプルなオケに、Meisoが悲痛なまでの現実の闇を重ね、タイトルを皮肉に裏返す一曲。インスト“夢境”を挿んでの“MONOLITH”では、道半ばの自分をさまざまな角度で切り取る呂布カルマのラップを、ぶっとく不穏なビートが迎え撃つ。

「前からMeiso君の曲は好きで、海外でもかけたりしてて。彼は外国の血も入ってるから、我々と違う目線で物事を見れるし、今回のメンバーの中では唯一たまに会う存在で、いずれやりたいなって話がやっと実現できた。呂布カルマ君はとにかく強烈な声質と、持ってくる言葉、雰囲気、独自の泥臭さが良くて、昔で言えば初期のEPMDあたりの黒い音に乗っけたらハマりそうなイメージがドカンと出てきて、今回はネチネチしてるようなビートを作った(笑)。言ってることもどぎついし、ヒネリがあって格好良いよね」。

“Dust Stream”ではRINO LATINA IIとの3度目となる共演が実現。黎明期の日本語ラップ・シーンで袖すりあった2人の歩みが曲で交差する。

「これは他の曲とは逆に、デジタルな808っぽいビートを当てた。RINOはいまやレジェンドだけど、彼のラップのキレの良さ、言葉のセンス、リズム感が大好きだし、〈軌跡〉って投げたら案の定振り返るリリックが来て懐かしいなって。〈あの頃のことを書きだしたら、このヴァースだけじゃ足んないよね〉って話しながらやってました」。

 さらに“誰も知らない”では5lackをフィーチャー。ベースラインのループが印象的なオケに歯切れの良いラップが乗る。

「5lack君はSick Teamでロウな曲をやってるのが好きで、ライヴでかけたりしてたんですよ。彼独特のフロウ、言い回しがすごくクセになるし、普段はメロウな感じだから逆にハードなビートをぶつけた時に彼がどうするのか興味があった。誰にでも影響された人がいて、その影響された人にもまた影響された人がいるって曲で、今の子にとっては俺やMUROはたぶんそのへんの世代になるんだろうけど、いい視点で歌ってくれました」。

 そして、締め括りの“結—YUI—”でマイクを握るのは、KRUSHがかねてから特に共演を熱望していた志人だ。淡々と鳴らすビートにヒーリング系の音が揺らぐトラックの上で、果ては銀河系にまでペンを走らせ、5分強の曲を壮大な叙事詩のように綴る物語は、パフォーマンスと共に圧巻。アルバムの最後を飾るべくして飾っている曲といえよう。

「彼の詞の世界観、視線は他の人と違うし、すごい刺激されるよね。フロウもすごいし、スキルもあって。だから純粋に彼の描いてる世界に音をつけてみたいって感じだし、曲が出来上がってみたらもう(曲順は)ラストしかなかった。アルバムの前半とかありえないでしょ、そこでもう終わっちゃうじゃんって」。

 DJ KRUSHは年内リリースをめざして早くも次のアルバム制作に入るという。本作もまたみずからの〈軌跡〉の一つとして、いまなお止めぬその歩みが、これからも後に続く者の道を照らす光となる。

「芸術は何でもそうだけど、100点は取れないと思うんですよ、音楽ってのは。やればやるほど。でも、それは次に行くための課題ができたってことで、そこに向かうということが大切だし、そういう背中を若い世代が見てるからね」。